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4 生徒会冬合宿(2)

 カリキュラムについては詳しい話を聞かせてもらっていなかった。一番知っていそうな羽飛にも尋ねたが、

「わっからねえなあ。俺たちが決めたのは結局、夜の話し合いとか宴会とかだしな」

「宴会?」

「あったり前だろ! 食って飲んで騒がねえでどうするよ」

 何か勘違いしている言葉が返ってきた。あまり気にせず指定された部屋に荷物を置いた。圧倒的に男子が多い生徒会役員、五人入るとなるとかなり息苦しいというかむさくるしい。

「羽飛、これからどこに集まるんだ」

 難波がすばやく最奥の角を押さえて荷物開きしつつ尋ねた。

「ええとな、ビデオある部屋に来いって先生言ってたぞ」

「ビデオ? なんか見せられるのか。道徳や自転車教室とかそういったもんを」

「わからんがビデオであることは確かだなあ。俺も聞いてみたけど、始まってからのお楽しみだってな」

 どうやら羽飛は本当に知らないらしい。乙彦の隣りで名倉が興味なさげに陣地を広げていた。難波、更科、そして羽飛とは積極的に交流する気など全くないらしい。さっきはしかたなく阿木からハワイ土産を受け取っていたがすぐ乙彦に、

「お前、食うか」

 手渡す始末。乙彦の観た限りだと阿木は名倉に興味津々のようだが本人の気持ちは全く動いてない様子だ。まあこれからだろう。知らん振りで通すことにする。


 セミナーハウス内にはピアノやマラカス、タンバリンなどクラスをまとめるための小道具はたくさん用意されている。視聴覚室に入るのは初めてで、薄暗い部屋の中で席を探すのにまず苦労した。適当に前へと進むと、すでに清坂が陣取っている。その左隣には当然のごとく羽飛が位置している。

「関崎くん、おいでよ」

「いや、こっちでいい」

 気安く誘うのもどうかと思うし、なぜこうもべったり羽飛が清坂に張り付いているのも謎である。きっと深い意味はないのだろうが、しかし。とりあえずは名倉の隣りでほっと一息をつく。八人が思い思いの席についたところで、生徒会顧問の鴨河先生が呼びかける。

「それではみなさんお待ちかねのビデオを観てもらうことになるんだが諸君」

「なんですかそれは」

 後ろで難波がしつこく問う。

「観りゃあわかるんだが、今のうちに約束しえもらいたいことがある」

「先生、そんな秘密にしないといけないビデオなんですか?」

「まさか、禁断の」

 清坂と羽飛が質問をさらに投げかける。鴨河先生は闇の中で手を動かしつつ、

「なわけないわけない。だが、放映し終わった段階でみな、それぞれに言いたいことが出てくるはずなんだが、それは今日、このセミナーハウス内ですべて片をつけよう。同時にここで観たことについては他の生徒たちには内緒にしてもらいたいんだ」

「やはりかなりやばいビデオなんじゃあないですか?」

 更科が突っ込む。なぜかみな笑う。

「ここに古川いなくてよかったな」

 小さな声で羽飛が清坂に話しかける声も聞こえ、その点においては大きく頷いた。さすがだ。

「では始めるぞ。だいたい十五分程度。本編はもっと長いんだがな。去年放送局がコンクールに出した作品で残念ながら選外に終わった。だが突きつけられたテーマは外でああだこうだ語り合うより内々で話し合うほうが有意義だと思うんだ。ということで集中するように。では」

 鴨河先生がビデオデッキのスイッチを押すと同時に周囲は完全に闇と化した。ゆっくりとスクリーンにでかでかと映し出されたのは、見覚えのある奴らの姿だった。

 ──静内か?

 真正面でさっぱりした笑顔を湛えつつも語り始めている静内の姿。その脇には名倉が、そして乙彦が今座っている場所をじっと見つめていた。

 ──ちょっと待てこれ、もしかして。

 隣りの名倉が「ああ、おい」と、声をかすかに上げる。

「あれだたぶん」

「あれか」

「なぜなんなんだ」

 周囲の気配がやはりささやき声で伝わってくる。斜め後ろに座っている難波と更科も、

「なんであいつらいるんだ?」

「まさか、あれじゃないのかな」

「なんだよあれって」

「だからさ」

 更科が何かを言いかけたところで、静内が映っている画面の上に白い文字が重なった。

 ──どうして青大附高に入ろうとしたのか、その理由を教えてください。

 静内の声で音声が流れ始めた。

 ──本当は青大附属の図書館を使い倒したいというのが目的でした。

 いきなりこの一言から始まった。露骨に編集していると見た。


 問いかけはすべて白い文字で描かれ、答えのみ音声で。

 しかもその内容は大幅に削られている。なぜ部活動に入らなかったのか、その理由についてはまるのまま流されている。ただ外部生批判につながりそうなところは……乙彦もすべて覚えているわけではないにせよ……カットの嵐だった。聞いている限りだと静内は図書館に惚れて青大附高に入学したが、自分に残された時間がほとんどないため死に物狂いで勉強しようとしている。何もしないでいるのがもったいない。とまあそんな感じだ。

 ──とりあえずは敵作るような部分は流れなくてよかった。

 背中がひやっとするのが分かる。息を無意識のうちに止めていたのも。

 清坂と静内との間にまた不要なバトルが起きるのだけは避けたい。いやもう、この段階で清坂の気持ちに不穏なものが生まれていたとしても不思議ではない。できれば静内に余計な影響が及ぶのを避けたいが、出方を待つしかないのも事実だ。

 画面が切り替わり、次に放映されたのは、顔を隠したシルエットの集団で声もかなりぼかされている。本人確定は難しいが男子の集団だということだけはわかる。

 画面には、

 ──外部生たちの存在について正直なところを述べてください。

 いきなり乙彦と名倉を突き刺すような言葉が並んでいる。すぐにくぐもった声で流れた言葉は、

 ──別に敵とか思ってねえけど、もう少し青大附属の持つ文化を尊重しろとは思うよな。

 ──もっともだ。俺たちは中学で、たとえば委員会を部活化することによって盛り上げるといったテクニックとかマスターしてるのに、外部生に合わせるためにいったんリセットときたらやる気なくするよなあ。

 ──へりくだれとは言ってねえの。ただもう少し聞けっての。


 ざわつく気配はある。息遣いのみ。

 しかし言葉はなし。

 ──なんなんだこれは。

 乙彦の身体から力がどんどん流れていく。静内のインタビューもさることながら、こうも露骨に外部生批判をぶつけられる機会などほとんどなかった。せいぜい陰口。受け流せばいいものを、なぜこの逃げられない場所で見つめねばならないのだろう。



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