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ただいま

 あっ…。映画の場面と場面の間に、突然放り込まれたみたいだった。

 私は、大粒の雨に打たれながら、人気の無いアスファルトの道の真ん中で、目眩が収まるのを待っている。深呼吸のように瞬きを繰り返した。そうやって見上げる空には、一面の黒い雲。雷鳴がどろどろと恐ろしげだ。

 あーあ。楽しい旅が唐突に終わってしまったのを悔やみ、私は溜息をついた。道路を叩く強い雨が、この先にも続いていたはずのチョークの鉄路を、すっかり洗い流してしまっている。これは、他ならぬ私の仕業だった。なんとなれば頭上を覆う雨雲、私がなんの考えも無しに、ここまで押しまくってきたものなんだから。

 いくら季節が良いといっても、この大雨を浴び続けるのはさすがに辛い。どこかに一旦避難しよう。私は、その下だけ道が濡れていないのを目敏く見付けて、張り出した庭木の下へ走り込んだ。ほっと一息ついて、ポケットからハンカチを取り出す。顔や腕、抱えていた大きなお茶の包みをざっと拭った。

 ハンカチをしまうと、手が塞がっている間、民家の塀に立て掛けておいたそれを改めて手にする。ああ、これ貰っておいて良かった。列車に乗るまでは、今のような状況に対してなんの用意もなかった私なんだから、おじさんには感謝しないとね。一見、それは杖みたいに見える。でも本当は、勿論、きりきりと細く巻かれた傘だ。

 開こうと斜めにかざしてみて、そのための機構がなんにも無いのに気付く。じゃあ、ああやればいいんだよね。私は開け、と念じてみた。思った通り、傘は応じてしゅるしゅると開き始める。やっぱりこれ面白い。開いたそれは、標準サイズの黒無地の紳士傘。おじさんに手渡された時は、ひとたび開けば宇宙も開く、旅の最中は大空になって、私を見守ってくれてたんだけどな。でも今は、むしろこれで充分なのは言うまでもない。ただ、ひとつ難があるとすれば、私がこれを差して歩くと、お父さんを迎えに行く女の子じゃあるまいし…ってなっちゃうところだろうか。くすくす笑った。

 私が今日の旅から持ち帰ったのは、この傘とお茶の包みだけだった。帽子や旅行用ワンピース、珍しい時計に履き心地の良い靴、他の旅装は全て無くなって、私の格好はご近所を散歩するのに相応しい、列車に乗る前から着てた普段着に戻っている。考えてみれば、傘もお茶も、旅の最後に私の手元に無かったものだよね。何か関係があるのかしら。

 ま、幸いお茶もたっぷりあるし、その辺のことは家でゆっくり考えましょ。傘の中にしっかりと入って、土砂降りの雨の中へ踏み出した。

 けれど、私は何か気になったのだ。数歩歩き、立ち止まってしまう。振り返ると、旅が突然終わってしまった辺りに、自然と目が吸い寄せられた。

 今度晴れたら、またこの道に来てみよう。今日の続きのチョークの鉄路が、きっと敷かれているはずだから。

 こう決めるのを忘れてたんだ。私は、とてもすっきりした気分になった。


(了)

【作品データ】

執筆期間:2013.12.18(WED)~2014.1.6(MON)

推敲終了:2014.1.13(MON)

総文字数:21302文字

400字詰め原稿用紙換算:約60枚(24000文字)

同マス目充足率:約89%

※「冬の童話祭2014」参加作品

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