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瑠璃色の海へ

作者: 涼玉兎

孤独の果てに 旅に出た

旅人は世界を 救えるか?


  *****


彼方の海を 描きつつ

つながる道を どこまでも

森を抜ければ 何がある?

瑠璃の小鳥は なぜ歌う?


薄い外套(マント)を 身に纏い

色づく花に 目を細め

芽吹く草木を かき分けて

天を仰げば あの鳥の

野に澄む声が 彼を誘う



「『海は青い』か? そんなのは

 遥か昔の 伝説さ

 さざ波は今 血の色に

 滲んで岸を 染めるんだ」

「誰かが早く 止めないと」

「止められるのか? どうやって」


天からその時 舞い降りる

瑠璃の小鳥は 歌うように

人間の言葉を 紡ぎだす

挿絵(By みてみん)

「姿は鳥でも わたくしは

 遥かな時を 生きてきた

 民を導く 妖精の

 残った最後の ただ一人」


隣国の魔女は 幾千の

呪いにかけた 死者達を

怖ろしいあの 戦争へ

兵隊として 赴かせ

世界を赤く 染め上げて

天に歯向かう 狂い人


「共にあなたと 行きましょう」


海の青さを 取り戻し

(しかばね)は皆 安らかな

永い眠りに つかせよう



海を渡るは 樫の船

眠れぬ彼を ゆらゆらと

時に惑わす 赤い波

耳に轟く 雷鳴は

反逆者への 見せしめか

挿絵(By みてみん)

神に祈るは 海の青


怖れるものは 何もない

命も惜しいと 思わない

今まで孤独に 生きてきた

ただ一つだけ 辛いのは

果てなく続く 青い海

見ずに命を 落とすこと



扉の向こうは 魔女の城

蝋燭の灯は 頼りなく

暗がりに満ちる 死の臭い


「生きてこの地を 踏む者は

 私の呪いを 免れぬ」


濡れた血色の 隻眼に

滲む狂気と 冥い歓喜


気丈にその眼を 見返して

天の選びし 旅人は

()いた(つるぎ)を 抜き放つ


翼を広げ 鳥は歌う

憂いを払う 魔法の声

怨嗟(えんさ)の呪いを 跳ね返す

澄んだ刃の 切っ先は

破魔の光に 煌めいた


倒れた魔女は 血を流し

死にゆく刹那 一撃を

おぞましい呪を 投げかける


瑠璃の翼が 地に墜ちて

掌を羽根が すり抜けた


旅人を庇った 妖精は

儚い声で 告げて逝く


「黒い嵐が 過ぎた後

 解き放たれた 死者達は

 母なる海へ 還るでしょう

 海にわたくしを 葬って

 天に祈って くださいな」


涙に頬を 濡らしつつ

冷たくなった 鳥を抱き


「君の魂に 安らぎを」


音も光も 絶えた中

彼は静かに 呟いた


(たえ)なる調べは 鎮魂歌(レクイエム)

無慈悲な嵐は 過ぎ去って

天空の星と 満月の

長閑(のどか)な光が 彼を照らす


砂を踏みしめ 妖精を

重たい波に 浮かべると

鳥は仄かな 燐光に

(にわ)かに包まれ 流れ行く


鎖を解かれた 兵士らに

二度目の終わりが 訪れる

瑠璃の小鳥の 後を追い

幾千の灯は 海原を

覆い尽くして 輝いた


魂が空に 別れ告げ

幻想の夜が 明ける時

煌めく朝日を 映すのは

遥かに広がる 深い蒼


想い焦がれた 海が今

眩しく静かに 横たわる


  *****


『瑠璃の羽持つ 導き手

 天より舞い降り 兵士らと

 共に水底に 眠りたり』


旅愁を誘う 岸辺には

忘れ去られた 碑がひとつ 




             完


 なんだかジャンルのわからないものが、出来てしまいました。


 詩を書いたつもりはないのですが、散文でもないので、「詩」にしてあります。物語になっているため、あえて言うなら、とても短い叙事詩なのかな、と思うことにしました。

 これは物語の形になった、言葉遊びのつもりです。ですから、言葉の「リズム」と「音」を楽しんでいただけたら幸いです。

 その上で、もし、ストーリーの方も楽しんでくださったのなら、とてもとても嬉しいです。

 最後まで目を通してくださり、ありがとうございました。


 Special Thanks: Pfirsichちゃん。挿絵をありがとう。

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