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甘藷

作者: 川崎ゆきお

 木下は一人食糧難だった。周囲の住人は、それほど飢えていない。だから、この地域が飢餓なのではない。冬場、野菜が高くなった程度で、食物が全く実らないのではない。この秋は豊作ではないが、困るほどのことではない。

 米は、どこにでも売っていた。

 問題は木下にお金がないため、食べるものにも困っているのだ。食べたいと思うものがないので、困っているわけではない。

 そこで木下が考えたのだが、少ない金額で腹も膨らみ、満足も得られるサツマイモだった。子供の頃からオサツチップスのほうが、ポテトチップスより好きだった。だから、ジャガイモへ走らないで、サツマイモへ走った。決定的な違いは、安いことと、蒸かし時間が短いこと。そして、皮をむかなくてもいいことだ。当然甘藷と言われるほど、甘い。この甘さが満足度を高める最大要因かもしれない。

 サツマイモで食い繋ぐ。これは、非常に普通であり、ポピュラーなのだ。芋を主食とする民族もいる。また、木下の祖父も食糧難時代はサツマイモを食べていたらしい。祖父は時代が豊かになっても、サツマイモが好物だ。そのため、遊びに行くときは、弁当ではなくサツマイモを持って行く。だから、他に食べ物がないので、嫌々食べるのではなく、好んで食べていたのだ。

 さらに木下の先祖は芋侍と呼ばれていたらしい。田舎侍の意味ではなく、本当にサツマイモを主食としていた。

 だから、由緒あるサツマイモ食いの家系なのだ。木下家のお家芸といえる。だから、安心してサツマイモに寄りかかれるわけだ。

 木下は、出来るだけ安い盛りのサツマイモを店屋で掘り起こすのが仕事になった。つまり、安い店を見つけることだ。そのため、スーパーや直販所を回った。高級サツマイモは銘柄があり、ブランド芋だ。これは高い。このあたりはちょっと店屋を回れば学習できることで、特技でも何でもない。それを木下は「芋掘り」と称して、出かけている。

 狭いアパート暮らしで、もちろん庭などない。あれば、そこで栽培したかもしれないが、買ったほうが手早いだろう。

 ある日、見かねた親戚が米を送ってきてくれた。まだ、そういった援助してくれる身内がいるだけ、幸せなほうだ。

 そして、難題がきた。

 ご飯を炊き、サツマイモをおかずに食べることになる。どちらもご飯なのだ。主食なのだ。

 それで、味噌を買ってきて、薩摩汁にした。これなら、ご飯との違いが明快になる。ご飯と汁物なのだ。サツマイモは確かに入っているが、主役の座からおろされたのを悲しむかのように、濡れていた。味噌汁が目にしみたのかもしれない。

 そうなのだ。目なのだ。ジャガイモには芽がある。これは毒だ。サツマイモははすっきしている。この違いも大きい。

 いくらサツマイモが安いからといって、買い続けるにはお金がいる。芋代よりもガス代や電気代も払わないといけない。家賃は滞納できるが、ライフラインが切れそうだ。

 木下は、持ち金が切れないうちに、収入を得ないと、根本的な解決にはならない。それを考えると、サツマイモで遊んでいる場合ではないのだ。

 先のことは先のこととして、今は、サツマイモで食い繋ぐことが面白い。将来のことより、今が大事なのだ。

 そして、将来のあてはないものの、祖父のように、お金に困らなくなっても、サツマイモが、まだ好きでいられるかどうかを心配した。

 

   了

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