表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死にたくないので、今世は「悪女」の看板を下ろして「聖女」の利権を奪い尽くします  作者: あめとおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/10

第8話:泥を啜る敗者と、星を纏う女帝


帝国との国交正常化を乞うためにやってきた、かつての祖国・リリアーヌ王国の使節団。

その末端に、「罪人兵士」として駆り出された男がいた。


……アルベルトだ。


かつての金髪は色あせ、顔には戦地でついた生々しい傷跡。重い荷物を背負い、帝国の兵士に罵倒されながら歩く姿に、かつての王太子の威厳は微塵もない。


(……レオノーラ。君がいなくなってから、国は荒れ果てた。ミアの嘘が暴かれ、聖杯を失い、天災が続き……。私は、君がどれほど一人で国を支えていたか、失って初めて知ったんだ)


アルベルトは、謁見の間の入り口で、跪いて頭を垂れた。

兵士である彼は、謁見の間に入る資格さえない。ただ、開かれた扉の隙間から、その「光」を盗み見ることしか許されない。


「――リリアーヌ王国使節団。皇帝陛下、ならびに皇帝妃レオノーラ閣下への謁見を許す」


その名を聞いた瞬間、アルベルトの心臓が跳ねた。

「レオノーラ閣下」。

かつて自分が「悪女」と呼び、婚約破棄を突きつけた女が、今や大陸最強の帝国の象徴として君臨している。


扉の向こう。

玉座の隣、ギルバート皇帝と肩を並べて座る女性がいた。

彼女が纏っているのは、帝国の魔導技術の結晶――動くたびにオーロラのように色彩を変える、幻想的なドレス。その美しさは、もはや人の域を超えていた。


「……あ……ああ……」


アルベルトの口から、掠れた声が漏れる。

あまりの神々しさに、視界が滲む。

彼が必死に守ろうとしたミアの「偽りの光」とは違う。レオノーラ自身から溢れ出す、本物の「慈愛」と「叡智」の光だ。


「リリアーヌ王国の皆様。……随分と、お疲れのようですわね」


レオノーラの鈴を転がすような声が、広間に響く。

彼女の視線が、一瞬だけ、入り口で泥にまみれて跪くアルベルトを掠めた。


だが、そこには憎しみも、悲しみもなかった。

ただの「道端に落ちている石ころ」を見るような、完璧な無関心。


「レ、レオノーラ様……! どうか、我が国をお救いください! 深刻な飢饉と魔物の暴走で、国はもう限界なのです!」


使節団の代表が、床に額を擦りつけて叫ぶ。

レオノーラは優雅に頬杖をつき、冷徹に言い放った。


「救う? ……あら、おかしいわね。私がいた頃、皆様は『悪女の呪いが国を滅ぼす』と仰っていたではありませんか。……今、国が滅びかけているのは、私のせいではなく、皆様が選んだ『聖女』の報いなのではなくて?」


「それは……っ、その通りです! 我々が愚かでした! どうか、かつての情けに免じて……!」


「情け、ですか。……ギルバート陛下。私は、このリリアーヌに手を貸す義理を感じませんわ。……ただ、このアルベルトが、私の足元の泥を綺麗に舐めとるというのなら、考えてあげてもよろしくてよ?」


レオノーラが、冗談めかして指差したのは、入り口で震えるアルベルトだった。


「……っ!」


アルベルトは、這いつくばって前へ出た。

かつてのプライドなど、飢えと後悔の前では何の意味も持たない。

彼は、レオノーラの靴の先にまで這い寄り、震える唇を寄せた。


「……レオノーラ……。済まなかった……。君の……君の言う通りだ……」


その惨めな姿を、皇帝ギルバートはゴミを見るような目で見下ろすと、レオノーラの腰を強く抱き寄せた。


「汚らわしい。……レオノーラ、こんな男に構うのは時間の無駄だ。……リリアーヌ王国は、帝国の『属国』となるなら、最低限の食糧支援だけはしてやろう」


「属国……!」

使節団に衝撃が走る。

一国の王太子が、かつての婚約者の足元で泥を啜り、国は名前を失う。

これが、レオノーラを捨てた代償。


レオノーラは、絶望に染まるアルベルトを見下ろし、このループで初めて、心からの勝利の笑みを浮かべた。


(……これで、全て終わったわ。九回分の復讐、これにて完了ね)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ