第7話:敵対貴族? 悪いけれど、私の「魔道具」の実験台になってくださる?
帝国に「悪役令嬢」がやってきたという噂は、社交界を瞬く間に駆け巡った。
特に、皇帝ギルバートの寵愛を一身に集める私を面白く思わない勢力がいる。
その急先鋒が、帝国の社交界を長年支配してきた「女狐」こと、ロザリンド公爵夫人だ。
彼女は、ギルバートの遠縁にあたる娘を皇后に据えようと画策していた。
「あら、あなたが噂の『亡国の悪女』様? ……帝国の土を踏むなんて、厚顔無恥にも程がありますわね」
帝国の夜会。
ロザリンド夫人は、私の前に立ちはだかり、扇で口元を隠しながら、周囲の貴族たちに聞こえるように嘲笑った。
彼女の後ろには、私を蔑むような視線を送る貴族たちが控えている。
前世の私なら、この冷徹な視線に萎縮し、何も言えずに立ち尽くしていたかもしれない。
けれど、今の私は違う。
八回のループで、ありとあらゆる「悪意」を骨の髄まで味わってきたのだ。
「公爵夫人、ご挨拶が遅れましたわ。……ですが、『亡国』とは心外ですわね。私はただ、無能な王太子の婚約を破棄し、より賢明な皇帝陛下の元へ参っただけですもの」
私は優雅にカーテシーをし、完璧な微笑みを返した。
言葉の裏に、「前の国を滅ぼしたのは、私ではなく王太子の無能さ。そして、私を選んだギルバート陛下は賢明」というトゲを隠して。
「な……っ、生意気な! 皇帝陛下があなたのような女を……!」
ロザリンド夫人の顔が、屈辱で赤く染まる。彼女は私のドレスを一瞥し、さらに言葉を重ねた。
「そのドレス……。前の国で着古したような、古臭いデザインね。帝国の流行も知らないなんて、恥ずかしくないのかしら?」
周囲からクスクスと笑い声が漏れる。
だが、私はその笑い声を浴びながら、静かに扇を開いた。
「あら、公爵夫人。……お気づきになりませんでしたの? このドレス、実は……」
私は、ドレスの裾に仕込まれていた極小の魔石に、指先から魔力を流し込んだ。
次の瞬間、私のドレスは、まるで星空を切り取ったかのように、青く、美しく輝き始めたのだ。
「な……何事だ!?」
「ドレスが……光っている!?」
どよめく会場。
これは、私が前の国で開発し、「不気味」と疎まれた、魔力で色と光を変える「魔導衣」だ。
けれど、この帝国では、それは「最先端の技術」であり、「芸術」として扱われる。
「……公爵夫人。あなたの仰る『流行』とは、ただ高価な布を纏うことですか? 私は、皇帝陛下が治めるこの国の『未来』を纏っておりますの」
私が凛とした声で告げると、会場は静寂に包まれた。
貴族たちの視線が、蔑みから、驚嘆と畏敬へと変わる。
ロザリンド夫人は、自分のドレスが、一瞬にして色あせたゴミのように見えることに気づき、顔を真っ白にして震え出した。
「ロザリンド公爵夫人」
冷徹な声とともに、ギルバートが私の隣に立った。
彼は、私の肩を抱き寄せ、ロザリンド夫人を見下ろす。
「……私の婚約者を、古臭いデザインと侮辱したそうだな。……つまり、彼女の『才』を認めず、彼女を招いた私の『眼』を疑うということか?」
「ひ、陛下……! 滅相もございません! 私はただ……!」
ロザリンド夫人が、その場に跪いた。
彼女の社交界での権威は、今、完全に崩れ去ったのだ。
「……私のレオノーラは、ただの令嬢ではない。この国の未来を創る、唯一無二の女性だ。……彼女に砂をかける者は、たとえ誰であれ、この私が容赦しない」
ギルバートの宣言。
それは、社交界全体への警告であり、私への執着に満ちた愛の告白でもあった。
私は、崩れ落ちるロザリンド夫人を一瞥し、完璧な笑みを浮かべた。
(……社交界の女狐? 悪いけれど、私の『魔道具』の実験台にもなりゃしないわ)




