第4話:聖女の化けの皮と、王太子の断罪
王立建国記念パーティー。
それは前世までの私にとって、王太子アルベルトから「婚約破棄」を言い渡され、ミアが「新たな聖女」として国民に披露される、最悪の処刑場だった。
けれど、今世の私にとっては――「ゴミ」を一掃するための最高の舞台だ。
会場には、隣国の皇帝ギルバートも「レオノーラの晴れ舞台を見届けるため」と出席し、嫌でも緊張感が高まっている。
壇上に上がったアルベルトは、顔色の悪いミアの手を引き、マイクの前に立った。
彼は、隣で冷ややかに佇む私を何度も盗み見ては、唇を噛んでいる。
(……あら、殿下。そんなに私を見て、どうなすったの?)
「国民の皆、聞け! 今夜、私は、真の聖女を発表する! ……ミアだ! 彼女こそが、この国に光をもたらす……」
「……あ、あの、アルベルト様……!」
突然、ミアが怯えた声を出した。
会場の空気が変わる。
彼女が「聖女の証明」として、会場にある巨大な「魔力測定水晶」を光らせるはずだった。
しかし、彼女が水晶に手を触れた瞬間――水晶は光るどころか、どす黒い霧を吹き出し、パリンと音を立ててヒビが入ったのだ。
「きゃああっ!」
「な……何事だ!?」
どよめく会場。
私が八回のループで調べ上げたミアの「力の正体」。それは聖なる力などではなく、周囲の魔力を吸い取り、一時的に自分のものに見せる「強奪の魔術」だった。
私は事前に、その水晶に「魔力逆流の呪い」を仕込んでおいた。ミアが吸い取ろうとすればするほど、彼女自身の汚れた魔力が暴かれたのだ。
「う、嘘よ……! 私、聖女なのに……! 光が……!」
「ミア……? 君、これはどういう……」
アルベルトがミアの手を離す。
ミアの体から、吸い取っていた魔力が抜け、彼女の肌は一気にくすみ、可憐だった姿は影を潜めた。
「『聖女』などと、片腹痛い」
静寂を破ったのは、私の隣にいたギルバートだった。
彼は壇上のミアを見下ろし、冷酷な声を響かせる。
「他人の魔力を奪い、聖なる力と偽っていただけか。……この国の王家は、こんな『ペテン師』に騙されていたのか?」
会場の視線が、憐れみから蔑みへと変わる。
「詐欺師だ!」「王太子殿下を騙していたのか!」「レオノーラ様を陥れようとして!」
民衆の怒りの矛先は、一瞬にしてミアへと向かった。
「ち、違うの! アルベルト様、助けて……!」
ミアが泣きながらアルベルトに縋る。
だが、アルベルトは彼女を見なかった。
彼は、自分を一瞥もしない私を見つめ、何かに取り憑かれたように壇上から駆け下りてきた。
「レオノーラ……!」
私の前で、王太子は跪いた。
かつて私が、彼に縋ったのと同じように。
「私が間違っていた! ミアに騙されていたんだ! ……真の聖女は、真に私の隣に立つべきは、君だ! レオノーラ、婚約破棄は取り消す! もう一度、私と……」
「お黙りなさい」
私は、跪く王太子を見下ろし、扇で彼の手を冷たく弾いた。
「婚約破棄の取り消し? ……冗談なものですか。私の方から、お断りいたします」
会場が静まり返る。
王太子を、公爵令嬢が切り捨てたのだ。
「レ、レオノーラ……? なぜだ、私は後悔していると言って……」
「殿下。私は、一度捨てられたゴミを拾う趣味はございません。それに……」
私はギルバートに視線を送った。
ギルバートは満足げに微笑むと、私の腰を抱き寄せ、会場全体に宣言した。
「レオノーラ嬢は、すでに私の『婚約者』だ。……アルベルト王太子。君が捨てた『至宝』は、私が二度と手放さない」
「な……っ」
アルベルトの顔が、絶望と悔恨で真っ白に染まった。
彼は、愛する女性も、王太子としての威信も、全てを失ったのだ。
私は、崩れ落ちるアルベルトと、衛兵に引き立てられていくミアを一瞥し、完璧な笑みを浮かべた。
(……さようなら、私の地獄。これからは、私の新しい人生が始まるわ)




