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キミがいて夢になる  作者: スパイシーライフ


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大宰府めぐり

 食事を終えた2人は、そのまま北野の案内で博多の街を観光することにした……のだが。

 

「えっ? 大宰府に行きたいの?」

「はい。福岡に行ったら大宰府天満宮にお参りしたかったんです。遠いですか?」

「いや、別に遠くはないけど」

 

 博多の街を案内するつもりだった北野は、少々拍子抜けする思いだった。まさか春香が大宰府詣でをしたいと言い出すとは想像していなかったのだ。

 

 大宰府天満宮は学問の神様である菅原道真を祀った神社で、博多からは電車で40~50分ほどの位置にある。

 春香に帰りの電車の時間を尋ねると、19時ちょうど発の、のぞみ東京行き最終便だと帰ってきた。その時間ならば今から大宰府に行って帰ってきても十分な時間がある。

 

「じゃあ食べ終わったら行こうか」

「はい!」

 

 どうして大宰府にお参りしたいのかはわからないが、せっかくここまで来てくれたのだから、希望があるなら叶えてあげたいと北野は思った。そもそもそれほどの労苦でもないのだから。

 


 西日本鉄道の大宰府駅を降りて少し歩くと、すぐに天満宮への参道がある。

 

「ここが大宰府天満宮なんだぁ……参道の両側にお店がいっぱい。大きな神社なんですね」

「そりゃあ、全国の天満宮の総本社らしいからね」

「そうなんですか。なんとか天満宮ってよく聞く気がします」

「菅原道真を祀ってるとこが天満宮なんだって」

「へぇー、北野さん意外と物知りなんですね」

「意外とが余計……って言いたいところだけど、人からの受け売りなんだ」

「なーんだ」

「せっかく来たんだし、お参りした後は参道でグルメツアー的なことしちゃう?」

「ああ、いいですね、それ」

 

 そんな会話をしながら本殿前の楼門をくぐると、2人の横から誰かが「あのぅ」と恐る恐る声をかけてきた。北野の知らない50代くらいの年恰好をした1人の男性だった。

 

「えっと、何か?」

「間違うとったら人違いで申し訳なかんばってん、もしかして福岡アルビオンの北野投手じゃなかですか?」

 

 博多弁はまだまだ堪能とは言えないが、彼が何を言っているかぐらいはわかる。北野が「そうですけど」と答えると男性は「やっぱり!」と声を弾ませ全身で喜びを露わにした。

 

「あの……どこかでお会いしましたっけ?」

 

 会った記憶の無い北野が正直にそう問いかけると、男性はハッと我に返ったかのように慌てて弁解をした。

 

「あ、すまん。あんまり嬉しゅうて、ついつい興奮してしもうて」

 

 男性は冷静さを取り戻したのか、しきりに謝りながら自分が何者なのかを説明した。

 

「プライベートん時に声ばかけるんなマナー違反やとは思うたんばいけど、実はうち、京都で北野しゃんが登板した試合ば観とったもんで」

「えっ!?」

「それで嬉しゅうて、つい声ばかけてしもうた。申し訳なか」

 

 男性は北野がプロ初登板を果たしたあの試合を京都で観ていたのだと言った。

 話を聞くと彼は福岡在住のアルビオンファンだという。その彼がわざわざ京都まで試合を観に行ったらしいのだ。

 

「いやぁ、オープン戦でん北野しゃんのピッチングに惚れてしまいましんしゃい。じぇひ公式戦で投げるところば観たかて思うたばい。幸いチケットが取れたけんで、思い切って休み取って観に行ったんばい」

「そうだったんですか。それはわざわざありがとうございます」

「怪我ん具合はどうなんか? たしか骨折だって聞いたばってん、もうギプスは外れとーね」

「ええ。もう骨はくっついているんですけど、調子がなかなか戻らなくって」

「焦らず完全に治してくれんね。そしてまた奪三振ショーば見しぇてくれん。楽しみにしとーけん」

 

 福岡に来てオープン戦で旋風を巻き起こしてからマスコミへの露出が増えた北野は、街なかを歩いていて声をかけられる機会が増えていた。声をかけられ「応援してます」「頑張ってください」と言われることがどれほど嬉しく力になることなのか気づかされた。

 だがそれも戦線離脱してからはすっかり無くなってしまい、あれ以来ファンに声をかけられたのはこれが初めてだった。もっともそれは北野自身がケガをしてからほとんど外出しなくなったことも一因なのだが。

 

「わざわざ京都まで行ったのにあんなことになってしまって……すみませんでした」

 

 北野がそう謝ると男性は「なにば言いよーんと。うちゃあん試合、もう大満足やったばい」と言って快活に笑った。

 

「野球ん試合ば観とってあげん興奮したんな初めてやったばい。なにせれ完全試合ば見られそうやったんやけん。怪我しゃえしぇな絶対に達成出来とったやろ。本当に惜しかったやなあ」

「はい。手ごたえはあっただけに、自分でも惜しいことをしたと思ってます」

「ばってん大丈夫ばい。北野しゃんやったら、復帰しゃえすりゃきっとまたチャンスがあるんやばい。次は絶対達成できるばい。1軍に戻ってくると、楽しみにしとーよ。そん時は絶対また観に行くけん」


 博多弁に疎い春香は北野の横で黙って話を聞いていたが、なんとなく会話の内容は理解できていた。

 この男性は北野がプロ初登板を果たしたあの試合を京都まで観に行っている。そして大満足だったと、早く復帰してまたあんなピッチングを見せてくれと激励している。


(北野さん……)

 

 男性との会話で目に留まったのか、いつの間にか北野はファンに取り囲まれてしまっていた。

 彼がもみくちゃにされているその光景を目の当たりにしながら、春香は嬉しいような誇らしいような不思議な幸福感に包まれていた。

 

「早う復帰してくれんね。待っとーけん」

「またバッタバッタと三振取りまくるところば見しぇてくれんね」

「北野しゃんの復帰ば楽しみにしとーばい」

 

 誰も彼もが北野への期待を口にし、復帰を楽しみにしていると、待っていると言う。よくわからない方言であってもそれはハッキリと伝わってくる。北野が地元ファンの心をガッチリと掴んでいるのがわかる。

 

(北野さん、みんなに愛されてるんだね。よかった)

 

 よほど前評判が高くて入団しない限り1軍未勝利のピッチャーがファンに囲まれるなんていうことはそう無いだろうと春香は思う。

 つまり春先の北野はそれほどにファンを魅了するピッチングをしていたのだ。それが彼女にはとても誇らしかった。

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