表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キミがいて夢になる  作者: スパイシーライフ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/85

私にできること

 病院からの帰り道、3人の会話は弾まなかった。というよりも無言に近かった。


「どうしよう、雪乃。こういう時って、なんて声をかけたらいいの?」

「そんな、私に聞かれても……」

 

 2人とも春香に何か言ってあげたいのだが、いったいどう声をかけていいものか、不用意なことを言ってなおさら傷つけるような真似はしたくないし、そう考えると声をかけるのが怖いという気持ちも正直あった。

 

 春香は春香でどうしたら北野を元気づけられるかを懸命に考えていた。北野は自分が悩んだ時や迷った時、苦しんだ時いつも一緒に考え悩み、そして救ってくれた。今度は自分が北野を助けてあげたい、勇気づけてあげたい。

 

(でも、一体どうしたら……今の私に何が出来るんだろう……)


 彼の力になりたい。でもなにをどうすればいいのか頭に浮かばない。どうしたらいい。何をすればいい。自分に何ができる?

 

「春香、大丈夫? なんか顔色悪いよ?」

 

 雰囲気にたまりかねたのか、小春がそう声をかけた。雪乃もその隣りで心配そうな表情をしている。

 

「う、うん、大丈夫だよ。ありがとう」

 

 春香はふと、2人に相談してみようか、と思った。1人で考えていても何も浮かんでこないけれど、小春と雪乃なら何か良い方法を思いついてくれるかもしれない。3人寄れば文殊の知恵ではないが、この2人ならきっと力になってくれるはずだ。

 

「ねえ小春ちゃん、雪乃ちゃん。ちょっと相談があるんだけど……」

 

 そう言って春香は自分の考えを正直に2人に伝えてみた。

 自分は今まで何度も北野に助けられてきたから、今度は自分が助けてあげたい、勇気づけてあげたい。どうしたらいいだろうか、と。

 


 2人とも春香の話を聞いて一緒に真剣に考えてくれたが、まだ人生経験の浅い彼女たちにとっては簡単に答えを出せる問題でもなく、これという決定的な案はなかなか出なかった。

 だが、雪乃が突然思いついたように言った言葉が一筋の光明となる。

 

「あの、私いま気づいたんですけど、悩む必要なくないですか?」

「えっ? 雪乃、どういうこと?」

「えっと、だからですね、春香さんが歌で北野さんを励ませばいいじゃないですか、ってことです」

「あっ!」

 

 春香が思わず声をあげる。

 彼のために自分が歌を歌う。それで励ます。そうか、それがあった。

 

「そうだよ春香。歌、歌だよ! 今の春香の想いをそのまま歌にしてさ、それを北野さんに送ってみたらどうかな?」

「……私が作詞作曲するってこと?」

「そうですよ、春香さん。ただ歌うんじゃなくて、春香さんの今の想いを曲に込めて歌うんです。そっちの方が絶対良いです。落ち込んでる北野さんを、春香さんの作った曲と歌で立ち直らせるんです。もう一度頑張ってみようっていう気持ちにさせるんですよ」

 

 自分で作詞・作曲した曲をプレゼントする。それはとても魅力的な提案だが、同時にハードルの高い作業にも思えた。

 

「でも私、作詞・作曲なんて今まで一度もやったことないんだけど……」

「じゃあ、良い機会だからチャレンジしてみればいいじゃない。春香の思いのたけをぶつけたら、きっとそれは北野さんに通じると思うけどな」

「そうですよ。難しく考えることないと思います。今の気持ちをそのまま素直に曲にすれば。きっと北野さんの心に響きますよ」

「私に……出来るかなぁ」


 そのセリフを聞いた小春の表情が、一転して険しくなる。

 

「何言ってるのよ。出来るかどうかじゃなくて、やるんだよ。北野さんを元気づけてあげたいんでしょ? 励ましたいんでしょ? だったら考えて悩むより先にやってみなよ。春香は歌手になりたいんでしょ? だったらさ、誰かを勇気づける為に何かしたいんだったら、それはやっぱり歌しかないじゃない」


 語気を強める小春に、雪乃も続く。

 

「そうですよ春香さん。春香さんの歌で北野さんを元気にしてあげましょうよ。春香さんだったら絶対できますよ」

 

 自作の歌……歌を歌うことは大好きだが、自分で歌を作ろうと思ったことのなかった春香に、その発想は無かった。

 そしてその案は思いのほか春香の心を惹きつけた。

 

 でも本当に出来るだろうか、仮に出来たとして北野は喜んでくれるだろうか、それに何ヶ月もかけて作っても意味が無い。北野を励ましたいのは今なのだから。


「でもね、私が北野さんを励ましたいのは今なの。これから曲を作り始めて、一体どれぐらい時間がかかるか……」

「だったら私も手伝うからさ。やってみようよ、春香」

「もちろん私もお手伝いしますよ」

「小春ちゃん、雪乃ちゃん……」

「もし、もしもだよ? 曲が出来上がった時にはもう北野さんが自力で立ち直ってたとしても、それはそれでいいじゃない。それ自体は喜ばしいことなんだし、その時はアナタのために作った曲ですって言ってプレゼントすればいいじゃない」

「……そっか、そうだね」

 

 自分1人では自信なかったが2人が手伝ってくれるのなら出来るかもしれない。

 

「わかった。私、やってみるよ。2人とも力を貸してね」

 

 3人はお互いの顔を見つめ頷きあった。

 


 

 それから春香は全力で仕事をこなしつつ、朝から晩まで詞の構想を練った。

 どんな言葉で表せば自分の思いが伝わるのか、北野が元の北野に戻ってくれるか、それだけをただひたすら考えながら詞を作った。

 

 小春も雪乃も仕事の合間を縫って、ラインで色々と詞を提案してくれた。

 自分で考えた詞と2人が考えてくれた詞を取捨選択し、すり合わせ、それをまた3人で検討し合う。

 書いては書き直し、また書いては書き直し、それを何度も何度も繰り返しながら、それでも詞は春香自身が驚くほどのスピードで着々と出来上がっていった。

 

 詞が完成したら次はその詞に曲を付けなければならない。

 頭の中に浮かぶ様々なメロディーを当てはめては別の物に変えてを繰り返し、詞と同様小春と雪乃の協力を仰ぎながら、寝る間も惜しむ勢いで春香は曲を作り続けた。


 この曲で北野を励ますことが出来ますようにと祈りながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ