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キミがいて夢になる  作者: スパイシーライフ


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54/85

ついに訪れたチャンス

 ナイターの試合を数時間後に控えた新横浜スタジアムの監督室で、横浜シーサーペンツの三原1軍監督は1人ほくそ笑んでいた。それは2軍監督の広岡から、電話である報告を受けたからだ。

 

「明日、北野をイースタンの試合で先発させます。内容次第ですが、おそらく問題ないでしょう」

 

 広岡は自信ありげな口調でそう言った。

 

「1軍に上げて、通用するんだね?」

「はい。若生コーチも太鼓判を押しています。少なくとも下では完投できるぐらいのスタミナも付いてきました。今なら私も自信を持って上に送り出せますよ。少なくとも今現在北野以上のピッチングが出来る先発ピッチャーは、ここにはいません」

 

 広岡は自信満々にそう言い切り、それを聞いた三原は満足げに2度3度と頷く。

 

 三原は翌日の試合を見に行くと伝えて電話を切った。広岡がそこまで言い切るほどのデキなのかと考えると、期待は否が応でも高まる。

 

 

 夏になって投手陣にバテの兆候が見え始めていた。そのうちの1人が開幕から順調に勝ち星を積み上げてきたルーキーの日下部だ。

 

 彼はここ数試合未勝利のまま登板を終えており、明らかに調子を落としている。時間がかかりそうだというのが三原の見立てだった。

 

 それ以外にも鳴り物入りで移籍してきた江上が期待外れの不安定な成績という誤算もある。このままでは秋を迎えるにあたって早晩先発陣が苦しくなってくるのは明白だった。

 

 江上か日下部のどちらかを、あるいは両方を下に落として誰かを上げたい。北野がその誰かであれば問題の1つは解決する。

 

(是非そうなって欲しいものだ)

 

 三原は口元を緩めながら机の上のタバコに手を伸ばした。


 


『もしかしたら、やっと1軍に上がれるかもしれない』

 

 同じ日の夜、北野は春香にそうラインを送った。既に仕事を終えていたらしく、すぐ返事が戻って来た。

 

『本当ですか? ようやくですね。おめでとうございます。早く1軍の試合で投げる北野さんを見てみたいなぁ』

 

 北野はすぐにまた返信を送った。

 

『さっき若生コーチに呼ばれて、明日俺が投げるイースタンの試合を三原監督が見に来るからって言われたんだ。多分そこで結果を残せば上だろうから、頑張れよってハッパかけられたよ』

 

(明日?)

 

 春香は明日久しぶりのオフだった。偶然オフが重なった小春と雪乃と3人でどこか遊びに行こうと約束はしていたが、まだどこに行くか決めてはいない。

 

(2人を誘って試合観に行こうかな。2人とも付き合ってくれるかな?)

 

 春香が早速その話を持ちかけると、2人とも快く付き合うよと言ってくれた。

 

 


 当日春香は1人先に寮を出た。

 今日のイースタンリーグの試合は合宿所内の練習場で行われる。かつては頻繁に訪れた場所だが、最近では他の仕事が大幅に増えてきたこともあって『GO!GO!シーサーペンツ!!』の現地収録も休みがちになってしまい、練習場にもすっかりご無沙汰な状態になっていた。

 

 久しぶりに合宿所の人たちに会いたい。会って挨拶をしたい話をしたいと思っていた。

 

 

「よう春香ちゃん、久しぶりだね。元気だったかい?」

 

 まず顔見知りの守衛がそう声をかけてきた。その後も会う人会う人が春香に声をかけていった。それだけで彼女がこの場所でいかに愛されているかわかろうというものだ。

 

 練習場のスタンドに足を踏み入れると選手たちがウォーミングアップをしている最中だった。小春も雪乃もまだ来ていないが、試合開始までにはまだ十分に時間がある。春香はしばらくグランドの選手たちを見つめた。

 

(あっ、北野さんいた!)

 

 春香が見つけるのとほぼ同時ぐらいに、北野の方も彼女の存在に気づいた。軽く手を振る北野に春香は同じように手を振り返した。

 

(よかった。本当に立ち直っているみたい)

 

 まだ話してもおらず互いに手を振り合っただけだが、なぜか不思議とそんな気がした。

 春先はそれこそ離れた場所にいてもピリピリした感情が伝わってきて心配したものだが、今日はもうそんな感覚が全く無かったから。

 

 気のせいだろうか? いやきっとそうじゃない。北野は本当に不調から完全に立ち直ったのだ。きっとそうだ。そう思いたい春香だった。


 ウォーミングアップを終えた北野は、そのまま春香のところに歩みを進め、それを見た彼女はスタンドを降りて行き彼のところへと向かった。

 

「こんにちは、北野さん」

「こんちわ、春香さん。元気してた?」

「はい! おかげさまで仕事もプライベートも元気でやってます」

「そっか。そりゃあよかった」

 

 そう言ってニッコリ笑う北野を見て春香は確信を持った。フェンス越しに話をしただけだが、以前の北野に戻っていることを。


(よかったぁ。もとの北野さんだ)

 

 もう違和感など何も無い。目の前に立っているのは間違いなく自分の知っている北野だ。いや、正確に言えば以前のままの彼ではない。前よりももっと逞しくなった気がする。

 

「今日好投したら、いよいよ念願の1軍入りなんですよね? 私、スタンドから応援してますから頑張ってくださいね」

 

 そう励まされた北野は、おいおい投げる前から意識しちゃうようなこと言うなよ、と内心で苦笑したが「ありがとう。期待に応えられたらいいけどね」とだけ答えた。

 

「大丈夫ですよ。北野さん、今までいっぱい頑張ってきたじゃないですか。私、知っていますから。ずっと見てましたから。大丈夫ですよ。きっと監督の目に留まって1軍に上がれますよ。北野さんはそれだけのことをしてきたんですから。1軍に上がれるだけの力を身につけているんですから、だから自分を信じて投げてください。私、スタンドでちゃんと見てますから」

「そうだね、頑張るよ。ありがとう」

 

 今日の登板が1軍入りの為の最終テストであることは北野もわかっている。

 シーズン前半は自分の精神的未熟さから完全に調子を崩していたが、春香と向井と真鍋のおかげで立ち直ることができた。3人の助言や叱咤激励がなければ今も不調にあえいでいたかもしれない。

 

 精神的安定を取り戻したおかげで調子も取り戻した北野は、それ以降まるで別人のような素晴らしいピッチングを披露し続けている。

 

 その日は1軍の三原監督がわざわざ2軍の試合を見に来る。三原監督の目の前で好投することが出来れば、まさにこれ以上のアピールは無いだろう。


(大丈夫だ。俺はやれる。自分のピッチングをするだけでいいんだ。余計なことを考えるな。1軍に上がることだけを考えろ。自分の力を出しきることだけ考えろ。そしたら絶対抑えられる。そして、春香さんにカッコイイとこ見せてやろうぜ)

 

 こんなチャンスはそうそうない。ここはなんとしてもモノにしたかった。


(川島さんのアドバイスを思い出せ。春香さんに俺のカッコイイとこ、見せてやろうぜ)


 腹は括った。あとは結果を出すだけだ。

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