チャンス到来
「フレッシュオールスターですか? 俺が出るんですか?」
季節がまもなく夏を迎えようとしている頃、北野は練習前に若生からフレッシュオールスターに選出したことを知らされた。
「そうだ。今年はオマエがウチから出る3人のうちの1人だ」
「でも俺育成だし、まだ3軍ですよ? いいんですか?」
「別にかまわん。ウチのドラ1ドラ2は両方故障明けで別メニューの状態だし、開催地出身で出場対象のヤツもいないんでな。3人出られるから1人はピッチャーにしようと監督が言うし、それならってことでオマエを選んだんだ。ラッキーといえばラッキーだが、それを呼び込むのも実力の内だ。デッカいチャンス、モノにしろよ」
「ありがとうございますコーチ。頑張ります」
フレッシュオールスターゲームとは2軍選手によるオールスターゲームだ。この試合での活躍を機に1軍へ上がった選手たちは数多い。そんな試合に出られるとなれば燃えないわけがない。
「おい北野。フレッシュオールスターに出るらしいじゃんか。よかったな。おめでとう」
練習が一段落しての休憩中、真鍋が肩を叩きながら北野を祝福した。周囲の選手たちも口々に祝福の言葉を述べた。
「ありがとうございます。まさかそんなのに出られるなんて考えてなかったんでビックリですよ」
たとえ1イニングでも、とにかく結果を出してやる。北野の気持ちは静かにフツフツと昂っていった。
しかしそれと同時に、ひとつの大きな不安も頭をもたげてきていた。
「フレッシュオールスター? それってなんですか?」
練習終了後、北野は春香に自分がフレッシュオールスターに出る話を伝えた。反応は予想通りだった。
「春香さん、オールスターゲームは知ってますよね?」
「それは知ってますよ。セ・リーグとパ・リーグの選手の中から選ばれた人たちで試合をするんですよね?」
「そう、それ。それと同じことを2軍でもやるんですよ。2軍の場合は東西で分けるんですけどね」
「あ、知ってます。イースタンリーグとウエスタンリーグっていうんですよね?」
「そうそう。だいぶ勉強してはいるみたいですね」
「えへへへ」
「この試合で大活躍してそれを機にブレイクした選手が過去にはたくさんいるんですよ。つまり僕にもそのチャンスが訪れたってわけ」
「うわぁ。じゃあ北野さん、大チャンスじゃないですか」
「そう。でっかいチャンスなんですよ。最低でも1イニングは投げられるだろうし、実力をアピールするまたとない機会なんです。ただねぇ……」
北野は急に浮かない表情になった。
「どうかしたんですか?」
「俺……リリーフ苦手なんですよね」
北野は春香に初めて自分の抱える問題を話した。
今ならなんとかなるかもしれないと考えて、3軍の試合でも1度試しにリリーフで投げてみたことがあったが、結果は予想通り散々なものだった。
その失敗を見て、もはや3軍のスタッフですら彼をリリーフで投げさせることに見切りをつけてしまっている。
「そういえば北野さんが先発以外で投げてるのって、見たことも聞いたこともありませんね……」
「なんでかわからないけど、昔っから苦手なんですよねぇ……」
「それじゃ困っちゃうじゃないですか」
「そうなんですよねぇ……フレッシュオールスターで先発できるかどうかわからないからなぁ……どうしよう……」
「どうしてリリーフは苦手なんですか?」
「自分でもどうしてダメなのかわからないんですよ。子供の頃から苦手だったし、リリーフだと気持ちがノらないというか……今まで結果を残せてないんですよねぇ」
「そんな弱気じゃダメですよ。私、応援してますから」
「その気持ちは嬉しいんですけど……まあ、とにかくチャンスなんだし精一杯頑張りますよ。監督が先発させてくれることを祈って」
先発させてくれさえすれば2イニングならそれなりの結果を出す自信があったが、リリーフとなるとその自信はまるで無い。とにかくリリーフに関しては不安しかなかった。
(今年のフレッシュオールスター、オールイースタンの監督は東京ナイツの西本2軍監督だったよな。もっと早く2軍に合流できてナイツとの試合で投げていれば、西本監督に直接見てもらえたのにな……まあ、いまさらそんなこと考えてもしょうがねぇか)
とにかくこの件に関しては祈るしかなかった。まさか一選手である彼が西本監督に先発させてくれと直訴するわけにもいかないだろう。




