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動き出した世界

 暦が4月を迎えると関東独立リーグも開幕となった。

 昨年はスタミナ面の問題からほとんど実戦で使ってもらえなかった北野だが、今年は3軍のおかげで実戦のマウンドに立つ機会に恵まれている。

 相手のレベルうんぬんはどうでもいい。試合で投げられるのが嬉しくて楽しくて仕方がない。

 

 3軍のメリットは間違いなくあった。実戦で投げるたびに課題は確実に克服されていき、5月も終わろうかという頃には、北野を3軍から2軍に入れ替えてもいいのではないかという話も出始めていた。

 

「調子が良いみたいじゃないかよ。コーチから聞いたぞ」

 

 ある日、合宿所で北野の姿を見つけた真鍋いつきがそう声をかけた。

 

「そうなんですよ。なんか自分でも信じられないくらいに上手く行ってる感じでビックリです」

「そりゃ良かったな。そろそろ誰かと入れ替えで2軍の方に来るんじゃねえか?」

「それはわかんないですけど……いつきさんが前に言ってたじゃないですか。実戦のマウンドで投げないと掴めないものもあるって。あれはわかったような気がします」

「そりゃオマエなりに何かを確実に掴んだ証拠だな。こういう時は得てして一気に伸びるもんだし、やったことの何もかもが血となり肉となる。このタイミングで色々なことを徹底的に吸収しとけ。それが後々に必ず繋がるから」

「もっと頑張って、まずは2軍の試合でいつきさんとの約束を果たしたいですね」

「約束?」

「いやだなぁ、忘れたんですか? 俺が先発して、いつきさんがリリーフで、それで試合に勝てたら最高だなって話したじゃないですか」

「ああ、あれか。あれはでもオマエ、1軍の試合での話だろ?」

「そうですけど、だからまずは2軍の試合で1回でもいいからそれを果たしてみたいなって話ですよ。俺、結構それを励みにしてるんですからね」

 

 真鍋の言うように、北野は今まさに成長の真っ最中だった。

 スタミナは確実にアップし、ストレートの球速も以前よりアップした。そしてキャンプの休日に向井から教わった言葉が今も心に刻み込まれている。

 

 ――逃げて打たれるくらいなら攻めて打たれろ。

 

 常に強気を忘れない、なんとしてでも抑え込んでやるという気構えが有ると無いのとではピッチングも大きく変わってくると北野は初めて知った。様々な要素が絡み合い噛み合って、自分が急成長していることを実感していた。

 



 『GO!GO!シーサーペンツ!!』の放送が開始されて以降、春香の運気も上昇気配に入ったのかポツリポツリと仕事が入るようになった。

 番組が始まった当初から「あのコは誰だ?」という問い合わせはあったらしく、回を重ねるごとに少しずつ増えていったという。

 

「実はね、その噂を聞いたのかどうなのかはわからないけれど、テレビ新横浜のある番組プロデューサーから連絡があったんだよ。椎名さんを番組で使いたいってね」

 

 ある日仕事終わりに事務所に呼ばれた春香は、応接室で待っていた営業部長からそう告げられた。

 

「えっ? テレビ新横浜って、あのテレビ新横浜ですか?」

「そう。あのテレしんだよ」

「それで、私をどんな番組に?」

「『突撃!はまワイド!』という番組を見たことはあるかな? 平日の昼から夕方にかけて放送している情報ワイド番組なんだけど、神奈川県内の様々なスポットを紹介するコーナーがあって、そのコーナーを担当している女の子が1人降板するらしいんだ。それで後釜を探していたのだけれど椎名さんに是非、というわけなんだ」

「えっ! 本当ですか?」

 

 春香は驚きのあまり思わず立ち上がってしまった。ローカル局とはいえ、れっきとしたレギュラー番組の話だ。

 

「コーナーは毎日日替わりのコが担当するので椎名さんの出番は週1回。収録は学校が休みの日にする話になってる。ただスタジオで紹介する時は生放送なので、その日は午後を空けてもらうことになると思うんだけど、学校の方はどうかな?」

「生放送……テレビ局で生放送ですか……」

「どうする? 良いオファーだと思うのだけれど」

「もちろんです! よろしくお願いします! わたし、頑張ります!」

 

 春香は迷うことなくオファーを受けた。

 

「それにしても、どうしてわざわざ部長さんが直接お話しを?」

「椎名さんには今後の期待をしているからだよ。ケーブルテレビで初めてレギュラーの仕事を得て、それから半年も経たないうちに地方局とはいえテレビのレギュラー話だなんてそうそうあることじゃないからね。椎名さんには画面越しの視聴者に訴えかけ惹きつける魅力があると思うんだ。だから一度キチンと会って、この件は私の口から伝えようと思ったんだよ」

 

 その言葉で春香は素直に喜んだ。ずっと上手くいかないで気持ちがくすぶっていたけれど、今は自分に期待していると言ってくれる人がいる。その期待に応えたいし、もっともっと活躍したい。

 そして歌の仕事で生きていけるようになりたい。春香はようやく自分の芸能活動に手応えを掴んだのだった。

 

(こうやってお仕事をしていけば、そのうちきっと歌のお仕事も入ってくるよね)

 

 事務所を出た春香は早速ラインを送った。両親へ、友達へ、そしてもちろん北野にも。

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