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9 町を守る。町長だからな


 城壁の外に兵士が並んでいる。

 100人はいるだろうか。

 歩兵隊に騎馬隊、弓兵隊、杖を持った兵は魔砲兵ってところか。

 赤いイノシシの紋章旗が荒々しく波打っている。

 あれがもし攻めてくれば、オッサミアはひとたまりもないだろう。


「どこの旗かわかるか?」


 城壁から見下ろしながら、俺は隣に立つシーフィアに尋ねた。


「……ブゥテンバルドの旗です」


 そう答えたシーフィアは青ざめていた。

 ほかのエルフ娘たちも顔面蒼白だ。


 ブゥテンバルド領はこのあたりにある小領地のひとつだ。

 そもそも、ここはエルロキア王国という国の辺境地域らしい。

 地方に力を持たせたくない国王の意向で領地が細分化された結果、木っ端領主が群雄割拠し、覇権を求めて争い合う紛争地帯になったとか。

 いつかオッサミアも戦火に巻き込まれるだろうと危惧していた。

 ついにそのときが来たってわけだ。


「まさかとは思うが」


 俺が視線で問いかけると、シーフィアは白くなった唇でつぶやいた。


「はい。あのブゥテンバルドなんです。私たちの故郷を焼いたのは」


 因縁の敵か。

 これはいよいよ厄介だな。


「……」


 下で動きがあった。

 華美な馬車から丸々と太った男が降りてくる。

 パッと見、豚。

 よく見ても、豚。

 二足歩行の豚。

 そういう風体の男。

 獣人族というわけではないらしく、よくよく見れば俺と同じ人族だった。


「ブヒッ!」


 と咳払いして、そいつは腹を震わせた。


「聞けぃ。わしはブゥテンバルドが領主、あの『戦場の荒猪』と謳われし名君セルデホッグ・ヴァン・ブゥテンバルド卿であーる。この町の長たる者よ、名乗り出る名誉を授けてやるゆえ、疾く前に出よ」


 集まる視線に背を押されるようにして俺は一歩前に出た。


「オッサミアが町長、オサム・ダンジョーだ。用向きをうかがおう」


 敬語のほうがよかったか。

 と不安になる。

 少しでも対応を誤れば町が火の海になるかもしれない。

 急におっかなくなってきた。


「ブヒュ! 貴様が代表者か」


 幸いなことに、セルデホッグは目くじらを立てなかった。


「では、これよりわしのありがたーいご神声を申し伝えるゆえ、心して聴くがよーい」


 ブヒュゥゥ、とセルデホッグは胸を膨らませ、言う。


「この黒大杉クロイツェダの森は代々我が神聖なる領地の一部であーる。それを許可なく拓き、あまつさえ住みつくとは万死に値する大罪なり。よって、オサム・ダンジョー。貴様を極刑とする」


「そんな……!」


 シーフィアが悲鳴を上げて俺にしがみついた。

 あわわ、どうしよう。

 余裕顔している俺だが、内心泣きそうな気分だ。


「……が」


 とセルデホッグは言葉を継いだ。


「わしは寛容じゃ。おとなしく城門を開き、この地を差し出すならば、格別の慈悲のもとに引き続き開拓を許すものとする」


「要するに、支配を受け入れろということか」


「ブゥ!」


 俺は重い息を吐き出した。

 オッサミアにはよそから来た脱領者も多くいるが、割合で言えばブゥテンバルドからの脱領が一番多い。

 逃げたくなるようなところってわけだ。

 軍門に下れば地獄のような重税を課されるのが目に見えている。


「ブヒョ!?」


 セルデホッグは何かに気づいたような鳴き声を上げた。


「そこにおるのはエルフではないか。それも純血種と見たブヒョヒョ」


「「ひいい……」」


 と俺の陰に隠れるエルフ娘たち。


「その娘らも渡してもらおうか。わしはたしかな審美眼を持つ文化人でもあるがゆえに、綺麗なものを愛でるのがブヒョヒョ大好きなのじゃ。ブギュフフフ」


「戦いましょう!」


 シーフィアが叫んだ。

 その気持ち、すごくよくわかる。

 あんなのに愛でられるくらいなら玉砕覚悟で突っ込むほうがマシだよな。

 でも、


「だめだ」


「どうしてですかオサム様!? 町には冒険者の皆さんもいますし、力を合わせれば勝てます、きっと!」


「冒険者は戦争に加担しない。そういう決まりだ」


 民間人でありながら武装を許されているのは、その制約があるからだ。


「それに町長として町民を危険にさらすことはできない」


 かといって、打開策とかないんだよなぁ。

 階層主たちに助力を乞えば、兵士の100や200、簡単に追い払えるだろう。

 でも、それもできない決まりだ。

 町には一切ノータッチ。

 その約束を取り付けたのは、ほかならぬ俺だった。


「なら、私たちだけで戦います! 再び故郷を失うくらいなら戦って死にます!」


 シーフィアの言葉にエルフ娘たちが揃って頷いた。


「それも認められない」


 戦うにしても、こちらには武器がない。

 モノづくり大好きっ子のエ・トルクレッチェがドワーフたちと造った対・魔物用の大型弩砲バリスタが2門あるだけ。

 それに死ぬのが前提というのが気に食わん。


「ブヒイイ! ええい、じれったいわ! もうよい、攻め落としてしまえ!」


 セルデホッグがいきり立った。

 兵がドッと動き出す。

 堪え性のない豚だ。


「腹をくくるしかないか」


 俺はパンと頬を打って気合を入れた。

 城壁を飛び降りて、兵士の前に立ち塞がる。


「オサム様ぁ! 何をされるおつもりですか!」


 上からそんな声が降ってきた。

 なに、簡単な話だ。


「町を守る。町長だからな」


 町長が一人で暴れる分には、町民に累が及ぶこともないだろう。


「俺はダンジョン0階層『オッサミア』のフロアボス。ここを通りたくば、俺を倒してからにしろ」


 一度は言ってみたかったんだ、こういうセリフ。

 フフッ。

 俺はひとつ笑ってから、握り拳を振りかぶった。


ここまで、読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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