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8 大変だ!


 ル・シーフィアたちに「自分のもの」を持たせてやりたい。

 その思いで、俺は馴染みの行商人を訪ねた。

 ファトマスというネズミ顔の少年で、まだ喉仏も出ていないのに百戦錬磨の老商人みたいな面構えをしている。


「年頃の女の子たちって何をもらうと喜ぶんだろうな?」


 俺は風呂敷の上の種々雑多な品々に目を落として、うなった。

 ダンジョン特需で町は活況を見せている。

 俺の懐もずっしり重い。

 何かいいものを買ってやりたいところだが。


「わかりますわかります、ええ。贈り物には特別なものをと考えがちですよねハイ。しかし、受け取られる方が恐縮しないよう、ここはあえて安価なものを選ばれるのも心遣いかと思いますハイ」


 揉み手に薄ら笑い。

 その割にファトマス少年は至極まっとうなことを言った。


「それもそうだな」


 俺はエルフ娘たちの顔をひとりずつ思い浮かべた。

 直感で選ぼうと思う。

 小生意気なツインテ娘、エ・イラスティリアはよく地面に落書きしている。

 彼女には絵筆を贈ろう。

 酒場の厨房で料理人をしているフ・リョーリアには包丁がいいだろう。

 工具類に興味を示していたエ・トルクレッチェは工具一式だ。

 ル・アグレマリアはお嬢様みたいな言葉遣いだから、ドレスが似合いそう。

 ……と思ったが、取り扱っていなかったので断念。

 裁縫道具を贈った。

 ドレスは自分で仕立てなさい。


 みんな目をキラキラさせて受け取ってくれた。

 感極まって泣き出す子もいた。

 中でも耳飾りを贈ったシーフィアは真っ赤な顔で号泣していた。


「私は幸せ者です。不束者ですが、末永くよろしくお願いします」


 耳飾りに何か特別な意味があったのだろうか。


「他意はないからな?」


 そう念を押したが、シーフィアには聞こえていないようだった。

 まあいいか。





 光陰はまさに矢のごとく過ぎ去り、オッサミアは誕生10周年の節目を迎えた。

 人口もついに1000人の大台を突破。

 教会や病院ができて、街並みも木造から石造りに変わりつつある。

 もう村呼ばわりされることもなくなった。


 町はタケノコみたいに急成長中。

 しかし、ダンジョン攻略のほうはカタツムリの歩みだった。

 10年かけてようやく第三階層に到達。

 数百に及ぶ屍の上に打ち立てた、血みどろの快挙だった。


 それもこれもグラネエさんのスケルトン軍団と、第二階層の火炎地獄が凶悪すぎるせいだ。

 こんなハードモードで遊びたい奴いるの?

 と俺は不安なった。

 でも、冒険者たちはいつもギラギラした顔で夢を追いかけている。

 高難度ダンジョンの攻略は10年がかりの大事業になるのが普通らしい。


 おかげで俺の正体はまだバレてない。

 それでも、そう遠からぬうちに、俺が座すボス部屋にもチャレンジャーが来るだろう。

 そのときは……。

 あまり考えたくないな。


 バン――!


「オサム様のお住まいは町で一番立派であるべきです!」


 シーフィアがテーブルを叩いて言った。

 ここは町役場の会議室。

 エルフ娘たちが一堂に会しているので、ひどく手狭に感じる。

 町役場の建て替えが議題に上っているのも、それが理由だった。


「おかしいじゃないですか! なぜ私の……コホン。私たちのオサム様がこんな小さな家に押し込められているのですか! 町で一番偉いのですから、町で一番の建物に住むべきです!」


「まったくその通りですわ!」


「んー、ボクも賛成……」


「あたしもよ! ここ暗いし狭いしジメジメしてるしホント最悪よ!」


「わたしも厨房が広いと嬉しいかなぁ」


 俺は一番初めに建てたログハウスを自宅にしていた。

 スケルトンたちと造った、思い入れのある家だ。

 町役場も兼ねているのだが、町政の要とするにはキャパが足りない。

 今だってすし詰めだ。

 ちなみに、エルフ娘たちには本業の合間を縫って町議をしてもらっている。


「それでは、オサム様のための大豪邸を造るということでいいですね。異論がある方は挙手を」


「…………」


「………………」


「……」


「ええっと、異議あり」


 誰も何も言わないので俺ひとりが手を挙げた。

 キッ!

 シーフィアがすごい目で睨んでくるが、挙手の主が俺だと気づくと、途端に笑顔になった。


「建て替えについては俺もおおむね同意だ。しかしな、教会より大きな建物となると聖職者たちがうるさいぞ?」


「うるさいなら黙らせるべきです! なぜなら、彼らが崇拝すべき神はこちらにいらっしゃるのですから!」


 シーフィアは両手をひらひらさせて俺を示している。

 エルフ娘たちもうんうん頷く。

 マジか……。


「はい。それでは決定ということで。立地はダンジョン入り口の真上がいいですね。ダンジョンに入るたびにオサム様を見上げる形になるので、自然と信仰心が芽生えるはずです!」


「いやいやいや……」


 その後も俺はちょくちょく異議を唱えた。

 だが、数の力で圧倒されてしまった。

 シーフィアには本人たっての希望もあり、町長秘書をしてもらっている。

 でも、いっそ彼女が町長になるべきだと思う。

 俺よりよっぽど牽引力があるからな。


 俺は町長の強権を発動して、なんとか建て替え計画を先送りにした。

 これで精いっぱい。

 町民にそれとなく計画をリークし、反対意見を募ろう。

 民をないがしろにして贅の限りを尽くす為政者。

 その先に待つのは破滅だ。

 町政健全化!

 俺はこの5字で断固闘う!


「大変だ!」


 会議室の扉が荒々しく開いた。

 駆け込んできたのは、町の城壁を警備している男だった。


「町の外に人がたくさんいる! 山賊じゃねえ! ありゃ軍隊だ!」


 俺は弾かれるようにして立ち上がったのだった。


ここまで、読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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