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6 あり? オレの靴ベラがねえぞ……


 ダンジョンの内部は空間が歪んでいる。

 外から見たより間取りが広い部屋とか、直進しているはずなのに元の場所に戻る廊下とか、ザラにある。


「高難度ダンジョンほど、この傾向は顕著になるんだぜ」


 と冒険者たちが教えてくれた。


 なるほど。

 言われてみれば、たしかに。

 うちのダンジョンもいろいろとおかしな点がある。


 第一階層『無尽の骨鬼廟』は超大な迷路になっていて、とにかく「果て」がない。

 日々、構造も変わる。

 グラネエさんですら全容を把握できていないらしい。


 第二階層は火山とマグマの世界。

 巨大な火山が噴煙とともに火の雨を降らせ、真っ赤な大河を形成している。

 とても地下とは思えない。


 俺が管理する第三階層は鬱蒼としたジャングルだ。

 巨大昆虫、巨大ワニ、巨大コブラetc.

 サイズ感を1桁間違えた動物王国が果てしなく広がっている。


 第六階層に至っては無限の青空だ。

 大地はない。

 空間がバグってないとこうはならない。


「ダンジョンの難度はSSS(トリプルS)、SS、S、A、B、Cの6段階あるんだがな、ここのダンジョンは間違いねえ、最難関のトリプルSさ。まだ第一階層しか見ちゃいねえが、断言すんぜ」


「だなァ。入り口に立ったときの威圧感が違げェ。ブルって帰りたくなっちまうあのヤバさ、ほかじゃ味わえねえよ」


 冒険者たちのそんな話を聞いていると、嬉しくなる自分が心のどこかにいる。

 自分の国を褒められたような気分になる。

 ナショナリズムがくすぐられるのだ。

 こんなとき、俺はやっぱりダンジョン側なんだなと思う。


 ル・シーフィアたちと出会ってから4年が経っていた。

 町に冒険者がいる光景が当たり前になり、行商人が来るようになって、冒険者ギルドの派出所もできた。

 近隣の貧しい領地から脱領してきた農民を30人ほど受け入れたことで、畑が広がって、家の数も増えた。

 オッサミアは日に日に賑わいを増している。


「おい、ネーチャン! 酒ェ!」


「こっちにも頼んまぁ!」


 ここは宿屋の1階にある酒場。

 ダンジョンから離れられない俺にとって、外から来た冒険者たちの情報は貴重だ。

 日のあるうちは町長として走り回り、夜はここで武勇伝に耳を傾けるのが俺の日課だった。


「しかし、いやにうめえな。この酒……」


「ド辺境のクソちっぽけな村でこんだけの美酒にありつけんだからなァ。あッりがてえ話だぜ」


「町です! 村じゃありません! オッサミアは町なんですぅ!」


 ウェイトレス姿のシーフィアがガツーンとジョッキを叩きつけた。


「村と呼ぶの禁止です。オサム様が悲しみますからね!」


「ヒャア! 酒場のフロアボスが怒ってらァ!」


「おいらにもプンプンしとくれよギャハハ!」


「もぉ! 本当に怒っちゃいますよ!」


 愛嬌があって見目麗しい。

 シーフィアは酒場の看板娘の座に収まっていた。


「給仕服も板についてきたな」


「私は不満です。本当はオサム様のおそばにお仕えしたいので!」


「おう、そうか」


「そうですっ!」


 恥ずかしげもなく直球を投げてくるので俺もいくぶん面映ゆい。


「でも、オサム様。このお酒、いつもどこから仕入れてこられるのですか?」


「あー、旅の酒売りからだな」


 というのは嘘だ。

 第三階層のジャングルに現れるザクロの魔物が出どころだ。

 酒気で魔物を寄せて捕食する肉食植物で、真っ赤な果肉を搾ると血みたいな色の原酒を出す。


「とてもフルーティーな香りですよね。ザクロみたいな」


「だな。ザクロみたいだ」


 でも、ビジュアルはザクロ感ゼロ。

 タコに似たグロテスクなバケモノで、割水する前の原酒は血そのもの……。

 ま、細かいことだ。

 外貨獲得の貴重な手段なので、第三階層にザクロ畑でも作ろうかと目下検討中だったりする。


「あり? オレの靴ベラがねえぞ……」


「そういや、おいらの鼻毛抜きもねーな。いらねえけど」


 冒険者たちが怪訝な顔でテーブルの下や椅子の裏をあらためている。

 そういえば、先日も別の冒険者が同じようなことをしていた。


「なくしものか?」


「まあな。最近よく持ち物がなくなんのさ」


「泥棒なら届け出てくれ。町長として責任持って対処するから」


「いやいや。それにゃ及ばねえよ」


「盗まれるもんは大したものじゃねえのさ。外に干してた雑巾とか穴あき靴下とか、そんなもんばっかよ」


「ダンジョンのそばだかんな。暗黒精霊が悪さしてんのかもなァ」


 暗黒精霊はダンジョンに潜む不可視の存在だ。

 罠を仕掛ける罠精霊。

 幻視・幻聴を引き起こす幻覚精霊。

 盗みを働く盗っ人精霊なんてものもいる。

 総じてイタズラ好きなのが特徴だが、シャレにならないイタズラを特に好む。

 盗むとしたら剣とか食糧だろうな。


「さ、お皿を洗わないと!」


 妙に張り切った声でシーフィアがそう言った。

 少し違和感を覚えて、俺は一緒に裏に下がった。


「心当たりがあるのか?」


 シーフィアはエルフたちの顔役だ。

 まさかとは思うが、エルフ娘の誰かが犯人ということもありうる。

 その場合は、もちろん町長として厳しく対処するつもりだ。


「オサム様はどう思われますか?」


 シーフィアは皿を洗いながら反問した。


「……そうだな。盗まれているものに金銭的価値はない。そもそも、ここで金を持っていても買えるものは限られる。だから、生活苦が理由ではない。だとしたら、心を満たすためだろうな」


 俺はワイドショーの専門家みたいな口調で推論を述べた。


「心を満たすため……ですか」


「心の穴を埋めるためと言い換えてもいい」


「心の穴……」


 シーフィアは何か深く考え込んだ様子だった。

 やはり心当たりがあるようだ。

 しかし、無暗に疑いの目を向けて信頼を失うのはうまくない。

 話してくれるのを待つとして、差し当たって俺は聞き込みでもしてみるか。

 捜査開始だ。


ここまで、読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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よろしくお願いします!

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