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5 それが誠意ってものだ


 ル・シーフィアたちが町に来て、3年が経った。

 定住者はまだエルフたちだけだ。

 俺を含めて人口21人。

 でも、最近になって冒険者がたまに町を訪ねてくるようになった。

 もちろん、お目当てはダンジョンだ。


 新ダンジョンの発見は油田を掘り当てるようなもので、規模にもよるが、大きなものだと国家の財政を潤して余りある富を生むそうだ。

 ウチのダンジョンはそれなりに大きいと思う。

 まだ辺境の木っ端冒険者たちの間で話題になっている程度だが、今にごまんと人々が押し寄せるはずだ。


「シーフィア、もてなしの準備をどんどん進めてくれ!」


「はい、オサム様!」


 出会ったときは痩せぎすだった彼女らも今ではすっかり肉付きがよくなった。

 美しさにも磨きがかかり、大挙として寄ってこられると階層主の俺でも狼狽を禁じ得ない。

 美少女ってなんであんなにまぶしいのだろう。

 汗臭い冒険者たちと駄弁っているほうが俺には気楽でいい。


 シーフィアは柳眉を八の字にした。


「でも、オサム様。肝心の冒険者様方が戻って来られなくて」


「またか……」


 俺は頭を抱えてダンジョンのほうに向かった。

 ここからは町長ではなく、階層主モードだ。

 並み居るスケルトンを押しのけて、第一階層をズンズン進む。

 ダンジョンに入った冒険者たちが消息を絶つのは、これで何度目か。

 その元凶はここにいる。

 俺は階層主の間を横切り、宝物殿に続く扉をばーんと押し開けた。


「グラネエさん、困るよ。そんなにポンポン殺されたら。人が来なくなるじゃないか」


「あらやだ……」


「ぁ……」


 この階層の主、グールのグラネエさんはなんと全裸だった。

 冒険者のアンデッドたちとふしだらな感じで重なり合っている。

 で、食べている。

 食べているというのは婉曲表現ではない。

 本当に食べている。

 もぐもぐだ。

 オェェ……。


「やだよ。恥ずかしいとこ見られちゃった」


 グラネエさんはそそくさとバスローブを羽織り、恥じらいながらすり寄ってきた。

 その後から、アァ……、アァ……、とゾンビたちが続く。


「照れてないで説明してくれ。俺の計算だと冒険者の8割がネエさんの胃袋に消えているわけだが?」


「もー。アタシったら節操がないからさぁ。でもホラ! アンタのおかげで念願叶って冒険者のハーレムを結成できたよ!」


 じゃじゃーん、と。

 腐乱臭をまき散らすゾンビたちを満面の笑みで紹介された。

 歯形があちこちついている。


「やっぱ肉があるってのはいいねぇ。ウチの連中はとっくに白骨化しちゃってさ、寒々しくてヤになってたとこなんだよ」


 グラネエさんは大兵肥満のゾンビ冒険者にうっとりと頬ずりしている。

 彼女はデブ専らしい。

 理由はたぶん、可食部が多いからだ。


「でも、ちょいと腐り具合が足りないねぇ。夏になりゃ早いんだけどさ。いっそ、第二階層のマグマで温めてみるかねぇ」


「食レポを聞きに来たわけじゃないぞ!」


 俺は冒険者を全滅させないでくれと口を酸っぱくして言い募った。

 グラネエさんは殊勝に聞いていた。

 でも、目には面白がっている色がある。

 このアタシに説教してる奴がいるよアハハ、と目が言っている。

 俺も御年300超えの女将軍グールを叱り飛ばしているのかと思うと、変な笑いが出てきた。

 まあ、このくらいで勘弁してやる。


「どれだけ仕留めて、どれだけ還すか。今後の方針をすり合わせよう」


「簡単な茶菓子しか出せないよ?」


「いらん、いらん」


 その簡単な茶菓子とやらは腐った耳とか指だろう。

 遠慮しておく。


「聞いた話じゃ、駆け出し冒険者の死亡率は3割くらいらしい。中堅になると1年で1割って話だ」


「しゃ! それだけしか食べちゃいけないのかい?」


「母数が増えれば食べきれなくなると思うぞ。1000人なら100人だしな」


「なら、文句ないね。問題はどうすりゃ人をたくさん呼べるかだねぇ」


「最初のうちは宝箱を奮発しよう。このダンジョンが儲かると知れれば、もっとたくさん来てくれるはずだ。ネエさん、ウチの階層の宝箱もよかったら第一階層に置いてくれないか?」


「そりゃありがたいや。中層域の宝箱のほうがレアアイテムが出やすいからさ、やっこさんたち喜んで持って帰ると思うよ」


「罠精霊たちに頼んで罠も当面控えめにしてもらわないとな」


「そうだね。今はとにかく出血大サービスの時期だろうよ」


 ゾンビのうなり声がBGMになっていなければ、理想的な会議って感じなんだがな。


「ところで、オサムちゃんさっ」


 金塊を積み上げて作ったテーブルの向こうから、グラネエさんが身を乗り出してきた。

 少し声を潜めて言う。


「アンタ、エルフを囲ってんだろ? おいしそうな太っちょの男、余ってないかい?」


「俺がエルフの太っちょでハーレムを作る個性派に見えるか?」


 おおかた、エルフのアンデッド軍団を立ち上げたいのだろう。

 淫靡な顔にそう書いてある。


「お願いっ! 2、3匹でいいからさ、都合しとくれよ!」


「そこは自力で調達してくれ。あ、間違っても町の住民を襲わないでくれよ? 俺は町長でもあるから、町民はしっかり守るつもりだ」


 俺は正体を隠してル・シーフィアや冒険者たちと接している。

 彼女らを騙しているのだ。

 だから、町長をしているときは町民ファーストを貫こうと思っている。

 それが誠意ってものだ。


「アンタ、真面目だねぇ。ならいいさ。アタシも張り切ってアタシ好みのイケメン捕まえるからさ!」


 グラネエさんはアンデッドなのに活き活きしている。

 心なしかダンジョンも活性化しているような気がする。

 ダンジョンってのはやっぱり冒険者がいてナンボだ。

 客のいない店ほど寂しいものもない。


 この調子で盛り上げていこう。

 そう思った。


ここまで、読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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