表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/44

40 領民たちとの絆こそが私の真の力だ


 ヴラド公の代名詞たる血の竜が雨粒となって大地に染み込んだ。

 ご立派な前口上を垂れておいて、このざま。

 夜空に浮かぶヴラド公の後ろ姿にはいたたまれないものがあった。


「今宵限りは町を焼かずにおいてやろう。望外の慈悲と知るがいい」


 ややあって、そんな強がりを言われた。

 静かな声だった。

 ここでキレ散らかすのは大人げないと思ったのかもしれない。

 外に出さない分、内に秘めた怒りは峻烈だった。

 目や口から火の粉が噴き出しているように見える。


「我輩をこけにしてくれたな。夜が明けるまでの刹那、貴様をせっちょうし、もって礼とす」


「そいつは困ったな。せいぜいお手向かいさせてもらうとしよう」


 俺は目の端で東の空を見た。

 白んできている。

 日の出はもうすぐだ。


 ――ッフオ!


 空気を裂く高い音。

 血の鞭が飛んできた。

 受けると、ぎゃん、とすごい音がして腕の骨がイカレそうになった。


「我輩の前で我輩から目をそらすは、ひれ伏すときだけとせよ。非礼なるぞ」


 空の高みで無数の鞭が触手植物みたいに波打っている。

 俺とヴラド公――。

 その力量はウサギと熊くらいかけ離れている。

 空を飛ばれると間合いの外だ。

 遠距離攻撃はこちらにもあるが、『草薙』連発ではどうしても単調になる。


「さて、どういたぶってくれ――ミょん!?」


 せせら笑いを浮かべていたヴラド公の横顔。

 そこに野太い矢が突き刺さった。

 ガチュン、ガチュン、と音がする。

 それに合わせて横合いから矢が飛んでくる。

 魔法とおぼしき火球や氷塊、雷撃も。


 いつの間にか、城壁の上に人影があった。

 領兵や冒険者たちがずらりと並んでいる。

 杖やスクロールが火を噴き、高角をとった壁上バリスタ砲が次々に矢を撃ち上げている。


「領主様をお守りしろ!」


「我らも御身とともに戦いますぞ!」


「オレたちの町はオレたちで守れェ! 撃て撃て撃てェ――!」


 助太刀か。

 自宅待機だと申しつけたはずだが……。

 まあ、素直に心強い。


 無数のコウモリがヴラド公に群がった。

 何かの技か?

 と思ったが、どうも様子がおかしい。


「おのれ、貴様ら! 我輩の眷属であろうが。なにゆえ邪魔立てするか……!」


 ヴラド公が血の剣でコウモリを斬った。

 コウモリだったものは水のように飛び散って落ちていく。


「絵の具、か?」


 だとしたら、この魔法の使い手は……。

 ひときわ巨大な矢がヴラド公の腹を突いた。

 カラフルな矢だった。


「一人で戦ってんじゃないわよ、このざぁこ!」


 絵筆を握ったイラスティリアが城壁の上でニカッと笑っている。

 その横には見覚えのあるおじさんもいる。


「ウハハハハ! よい! 実によいぞ、この弩砲は! 我が城にも欲しいところよ! ウハハハハハハ!」


 トルクレッチェ製『足漕ぎ式六連バリスタ砲』を自転車みたいに漕ぎながら、矢を連射している。

 しかも、無駄に腕がいい。

 放った矢の大半がヴラド公を捉えている。


「雑兵どもが! 舐めるなア!」


 血の鞭がウハハおじさんのいるあたりを薙いだ。

 砕け散る城壁の中に転移光をまとったアルビアの姿が一瞬見えた。

 間一髪でウハハおじさんを助けたらしい。

 目立たないが、ファインプレーだ。

 あとで褒めてやろう。


「秘剣・一の太刀『草薙』――!」


 城壁の上からは矢と魔法。

 下からは俺の斬撃。

 逃げ場のない攻撃が続く。


「おのれ! おのれおのれ、おのれエ!」


 ヴラド公は全身に矢を浴びた。

 しかし、矢は抜け落ちて、傷口も瞬く間に塞がっていく。

 効いているのか、いないのか。

 心臓に杭を打たなきゃ死にませんってか?


「っ」


 遠く。

 川のほうで何かがピカッと光った。

 帆のない船から4つ、光の玉が飛んでくる。

 船上に白衣の少女とずんぐりした影が3つ並んでいる。

 ヴラド公は射線上から早々に退避した。

 興味なさげに光の玉から目を切る。

 しかし、光の玉はまるで意思を持っているみたいにヴラド公を追った。

 がら空きの背中が真っ赤に爆ぜた。

 翼が消し飛び、ヴラド公は黒い線を引きながら地面に墜落した。


 壁上で歓声が上がる。

 致命傷とはならないだろう。

 それでも、大殊勲だ。

 俺はトルクレッチェとドワーフトリオに手を振っておいた。

 追って褒美をとらせよう。

 開発費の足しにしてくれ。


「この我輩が地を舐めることになろうとはな」


 ヴラド公はふらりと立ち上がった。

 効いてないアピールなのか、涼しい顔だ。

 実際すでに翼は生え変わっている。


「ほう。矢の雨が止んだな」


 俺とヴラド公の距離が近いから、みな遠慮しているのだろう。


「貴様は取るに足らぬ雑魚だが、愚衆どもの信は厚いらしい。さぞや悲観するであろうな、きゃつらの目前にて貴様を串刺しとすれば」


「できもしないことを言うな」


 領民の前で情けない姿は見せられない。

 俺は真っ向から撥ねつけた。


「たしかに、公は私より格上だ。だが、独りだ」


「それがどうした?」


「私には頼れる仲間たちがいる。領民たちとの絆こそが私の真の力だ」


 鼓舞するようにそう言うと、城壁の上が色めき立った。

 俺は刀を正眼に構え、ヴラド公をねめつけた。


「この町を戦いの舞台に選んだのは間違いだったな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ