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33 なんで二人ともそっちなのよッ!


「ねえオサム、ちょっとあたしたちを第三階層まで転送とばしなさいよ!」


 とある昼下がり。

 イラスティリアとリョーリアが俺のもとを訪ねてきた。

 二人とも皮鎧を着込んでいる。


「ほら、あたしって冒険者ギルドの依頼で魔物図鑑作ってるでしょ? やっぱ実物を見て描きたいのよねー」


「わたしはぁ食材集めをしたいなぁって思っているの。明日は建町祭の前夜祭だもの。大切なお客様をとびっきりのダンジョン食材でおもてなししないとぉ」


 二人は天才画家と凄腕料理人でありながら、最上位冒険者でもある。

 多くの冒険者が二の足を踏む『巨獣の原始林』も二人にとっては散歩コースだ。


「そういうことなら了解だ」


 俺は快く請け合った。


「そういえば、二人が冒険しているところは見たことがなかったな」


 独り言のようにつぶやくと、


「じゃあ、あんたも一緒に来なさいよ!」


 イラスティリアがぱあーっと笑顔を輝かせて俺の手を取った。


「あたしのすっごいとこ、いっぱい見せてあげるわ!」


「わたしもぉ、とれたてダンジョン食材をオサムちゃんに食べてほしいなぁ」


 リョーリアも春のたんぽぽみたいな微笑みでそう言う。


 ふむ。

 今日はちょうど階層主会議がある。

 ついでだ。

 いってみるか。





 第三階層のジャングル地帯に転移する。

 偽空石の強い日射しと濃密な緑の香りで一瞬めまいがした。


「ここって生き物の気がすごいわよね。息が詰まりそうになるわ……」


「おかげさまで食材の宝庫よぉ! わたし、ここ大ぁい好き~!」


「食材の宝庫か。いみじくもその通りだな」


 ここでは肉も魚も野菜も果物も手に入る。

 ただし、奴らは黙って胃袋に納まってくれるわけではない。

 獰猛に牙を剥いてくる。

 並の冒険者ならむしろ食材にされる。

 二人のお手並み拝見だ。


 ……と、その前に。

 俺は虚空を見つめた。


「どうしたの、オサムちゃん?」


「っ?」


 二人が釣られて目をやると、虚空に光が生まれた。

 光の中から白虎に乗った真っ白な少女が飛び出してくる。

 エ・アルビアとその忠虎ガ・ルルガゥだ。


「チッ。マスター、あんまりです」


 アルビアは無表情がちな顔をいささか剣呑にしている。


「わたくしとマスターだけの愛の巣に頭の悪そうなメスガキとその母親を連れ込むなんて」


「誰がメスガキよ、こら!」


「もぉ、アルビアちゃんったらぁ。わたしはイラスティリアちゃんのお母さんじゃありませんよぉ?」


 ツインテをぶん回して突撃をかますイラスティリアの、襟首をむんずと掴んで止めるリョーリアは残念ながら肝っ玉母ちゃんにしか見えない。


 俺はパンと手を叩いた。


「役者も揃ったことだ。冒険といこうか」


「まずは人目につかない広いとこを目指すわよ!」


「わたくしはマスターと一緒なら狭いところでも構いません。むしろ狭いほどいいかと」


「がるるがぅ!」


「わっくわくなんですよぉ~!」


 わいわいガヤガヤ密林を進む。

 遠足に来た小学生みたいな雰囲気だ。

 こんなテンションで第三階層を歩く冒険者はほかにいないだろう。

 声ひとつで巨獣がわらわら湧いてきて、あっという間に骨まで食い尽くされる。

 ここはそういう地獄だ。


「魔物さんたちぃ、全然出てこないねぇ」


「わかったわ! あたしに恐れをなして逃げ出したのよ! ふん、ざぁこざぁこ!」


「ぷっ。わたくしが接近を禁じているだけです。階層管理者のわたくしに歯向かう魔物など存在しませんので」


「……あんた、今あたしを笑ったでしょ? ぷっ、て」


「いえ。笑っていません。ぷっ」


「キエエエエエッ!」


 白いのとツインテがまた喧嘩を始めた。

 隣を歩くリョーリアがおっとりした顔で俺を見上げる。


「オサムちゃんもぉ魔物に襲われないのぉ?」


「たいていの魔物は道を開けるな。でも、牙を剥く奴もたまにいる」


 自分の力量に自信がある魔物は果敢に挑んでくる。

 俺を倒せば一躍この階層の主になれる。

 俺がブライオロス3世から階層主の座を勝ち取ったようにな。

 成り上がりを夢見るのは人間も魔物も同じってわけだ。


「この先に窪地がある。そこなら人目につかないだろう」


「あたしが一番乗りよ!」


 イラスティリアはアルビアに張り合って絵の具の熊に乗っている。

 熊の魔物、蛮虐熊ブルート・ベアだ。

 顔の造形。

 毛の一本一本。

 毛皮の下の筋肉の動き。

 どれも本物と見紛うクオリティだ。

 カラフルじゃなかったら見分けがつかないだろう。


「画餅飢えを充たさず言うが、イラスティリアが描いた餅なら食べられそうだな」


「食べたことないけど……。でも、リョーリアが焼くなら食べられるかもしんないわね!」


「もっちもちなんですよぉ」


 そんな話をしていると、アルビアが何か思いついたような顔をした。

 ルルガゥを操って俺に寄せてくる。


「マスターを歩かせてしまうとは、とんだ無礼でした。どうかルルガゥにお乗りください。わたくしを後ろから強く抱きしめるようにすれば安定するかと」


「あ、ずるいわよアルビア! ちょっとオサム! あんたはこっちに乗んなさいよね!」


 イラスティリアも熊を寄せてきて、俺は猛獣に挟まれる格好になった。

 虎か熊か。

 それが問題だ。


「リョーリア、せっかくだから俺たちも乗せてもらうか」


「はぁーい」


 アルビア・俺・リョーリアの並びでルルガゥに乗せてもらう。


「ほう。これは快適だ」


「らっくらくでもっふもふなんですよぉ」


「んふ。わたくし、マスターに抱きしめられています……」


「がう!」


「なんで二人ともそっちなのよッ!」


 イラスティリアがツインテールを逆立てた。

 なんでと言われてもな。


「そっちは絵の具がつきそうだしな」


「ぷっ」


「ムッキィィィッ!」


 怒り狂ったイラスティリアが絵の具の熊で猛追してくる。

 ルルガゥは懸命に逃げた。

 しかし、いかんせんこっちは3人乗り。

 それに向こうは絵の具だ。

 チーターになって加速したり、翼を生やして茂みを飛び越えたりと自由度が高い。

 あっという間に追いつかれて絵の具まみれにされた。

 さんざんだ……。


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