32 この言葉の意味をよく考えてみてくれ
対空兵装の流れ弾を食らった行商船は真っ二つに裂けて川底に没した。
幸い、岸が近かったこともあり、船乗りたちは自力で難を逃れられた。
岸辺で途方に暮れている。
俺はスライディング土下座くらいの勢いで、彼らに経緯を説明した。
「――うちの子たちが大変申し訳ない! 荷は弁償を約束する! 船も3隻にしてお返ししよう! どうかご容赦いただきたい!」
「いえいえ。こちとらご領主様のおかげで食わせてもらってるんで、へえ」
平謝りでなんとか溜飲を下げてもらえた。
でも、よかったね、とはいかない。
一歩間違えば町史に残る大惨事だった。
馬鹿どもには厳しく言っておかねば。
俺は肩を怒らせてトルクレッチェに詰め寄った。
トルクレッチェは城壁の下で呆然と立ち尽くしている。
血の気が失せた幼い顔を見ると、怒りの風船が萎んでいくようだった。
でも、やっぱり厳しくいこう。
俺もトルクレッチェ製の魔道具で死にかけたしな。
階層主を鎧ごと貫通するとか普通に考えて異常だ。
うやむやにはできない。
「トルクレッチェ」
怒鳴るのは簡単。
でも、それでは伝わらない気がした。
俺はトルクレッチェの隣に立ち、目線を合わせて空を見上げた。
「君はもし空を飛ぶ魔道具を思いついたらどうする?」
「……んー、作ると思う」
少し震えた声でそう返ってくる。
「でも、いいのか? きっとそんなものができたら、空から爆弾を落とす奴が現れるぞ?」
トルクレッチェの目がスッと見開かれた。
その瞳には畏怖と好奇心が半分ずつ同居していた。
良くも悪くも彼女は根っからの発明家らしい。
「俺が言いたいことはひとつだけだ。技術は倫理より先に進んじゃいけない。この言葉の意味をよく考えてみてくれ」
「……」
トルクレッチェは空を見上げ、船乗りたちを見つめ、しばらく石のように固まっていた。
そして、俺に小さな体を向けた。
「人を笑顔にする発明をしなさいってこと?」
「そうだ。わかっているじゃないか」
俺は大きく笑って、トルクレッチェの肩を抱いた。
目に涙の玉が膨らむのが見えた。
「オッサムン、ごめんなさい。ボク、船の人にごめんなさいしてくる」
そう言って駆けていった小さな背中がさっきまでより少し大きく見えた。
俺は頼もしいような、ちょっと寂しいような、そんな気持ちに駆られていた。
が、感慨に浸る前にもう一仕事せねば。
「次はお前たちだな」
そろり、そろり、と逃げようとするドワーフ三兄弟の前に立ち塞がる。
三兄弟は右を見て、左を見て、逃げ場がないと見るやそわそわと後ずさった。
壁際まで追い詰められ、おずおずと俺を見上げる。
こいつらはゲンコツでいいか。
「ふん! ふふん!」
「「ほぎゃあああああ……!!」」
「お前たちもとっとと土下座してこい!」
「「ひゃい……!」」
「ひげが土まみれになるまで帰ってくるな!」
「「ひゃああああいい……!」」
その日のうちに、トルクレッチェと『三つ巴三兄弟』が一時休戦を表明した。
弁償のために4人でタッグを組み、新しい船を造るのだという。
エルフVSドワーフの開発競争もいいが、こうして力を合わせることも大事だ。
新造船の設計図を見ると、帆がついていなかった。
どうやら帆船に取って代わる新コンセプトを採用するらしい。
蒸気機関かな?
それとも、魔動機関?
いずれにしても、オサマバードどころかこの世界の技術水準が大きく飛躍しそうだ。
俺は歴史的瞬間に立ち会ったのかもしれない。
トルクレッチェの技術が人々の笑顔のために使われることを祈って、俺は公務に戻ったのだった。




