3 俺が町長か
スケルトン軍団が材木を運んでいく。
脳みそがカラっぽで多少融通の利かないところはあるが、筋肉がないくせに意外と力持ちだ。
町づくりはぐんと捗った。
数の力は偉大だ。
俺の仕事はもっぱら全体指揮と材木の切り出しだった。
太さの同じ杉の木を並べて、
「秘剣『草薙』!」
と、かっこつけると統一規格の材木を量産できる。
あまりに見事な腕前にスケルトンたちも作業の手を止め、惜しみない拍手喝采を送ってくれた。
まあ、俺がそうするよう指示しただけだがね。
それでも気持ちいいもんは気持ちいい。
俺は愛想よく手を振って白さの目立つ観衆に応えた。
どーもどーも!
まずは家を1軒建ててみて、反省点を踏まえながら2軒目を建てる。
それを数度繰り返して納得いく形が見えてきたら、統一規格で家の量産に取りかかる。
小学生の頃、ログハウス造りを見学に行った経験が今、異世界で活かされている気がする。
「人生何が役に立つかわからないな」
ケーキ用フォークで階層主を倒したことを俺はしみじみと思い出していた。
町づくりは順調。
でも、アンデッドのスケルトンは日射しにめっぽう弱い。
昼間の作業停滞は悩みの種だった。
ほかの階層主にも相談を持ちかけてみると、ほとんどの階層主が二つ返事で配下の魔物を貸してくれた。
みんな退屈していたらしい。
ゴブリンは手先が器用で、トロールは馬鹿だが力自慢。
ゴーレムは不眠不休の働き者だった。
ことに第六階層のドラゴンたちはパワフルで助かった。
作業は文字通り飛ぶように進み、ついに町の形が見えてきた。
都市というには戸数が寂しいが、それでも、人を呼ぶのには十分なはずだ。
「オサムちゃんがつくった町だからねぇ。町の名はオッサミアでどうだい?」
ある晩、杉の木広場でグラネエさんが言った。
俺の感想はこう。
「オッサンっぽい響きだな」
「なに言ってんだい。アンタ立派なおじさんじゃないか」
「え……」
俺は自分の顔を触った。
指がわしゃっとしてショックを受ける。
玉手箱を開けた浦島太郎の気分だった。
いつの間にか、ひげが伸びきっている。
髪もぼーぼー。
鏡を見ないことには正確なことは言えないが、今の俺はきっとだらしないおじさんヅラになっているはずだ。
「そうか。世間的にはおじさんなんだよな、俺。自認年齢はまだハタチ前なんだが」
「そんなのアタシだって永遠の18だよ」
グラネエさんはチャリオットから降りてきて俺の肩をぽんと叩いた。
どこか沈鬱な顔をしている。
「人間ってのはねぇ、心も体も18がピークなのさ。そこまでが成長で、そこからは老い。体は素直だからね、老いる一方さ。だけど、精神ってのはヘソ曲がりでね、むしろ若返っちまうのさ。ホラいるだろ? 幼稚な中年って」
「いるいる。俺もその一人になりつつある気がする……」
暇だ暇だとボス部屋で駄々こねていた記憶を今すぐ削除したい。
手頃な岩でもあれば頭から突っ込んでやるところだ。
たぶん岩のほうが砕けるがな。
「ネエさんも心当たりが?」
「そうさ。もう御年300のばあ様だってのに、アタシゃいつまで水着アーマーなんだろうね。若いつもりで、はしゃいじゃってさ……」
俺はグラネエさんのショルダーアーマーにぽんと手を置いた。
「冒険者たちにはきっと伝わるさ。ネエさんの魅力がな」
あのダンジョンの階層主は美人だ、と話題になれば人も増えるだろう。
客寄せグールだ。
グラネエさんにはもうしばらくビキニでいてもらおう。
「町長もアンタがやりな」
「いいのか?」
「もちろんさ。階層主はバケモノ揃いだから、どうせアンタにしか務まりゃしないよ。その代わり、たくさん人を呼んどくれ。アタシは冒険者のグールでハーレム作るつもりだからね」
「そういうことなら引き受けた。でも、ネエさん、討伐されないよう気をつけてくれ」
「アタシを見たらどんな冒険者も悩殺さ。戦いにもなりゃしないよ」
グラネエさんはひとつ笑うと、スケルトン・ホースに鞭を入れてダンジョンに引き上げていった。
「俺が町長か」
柄じゃないな。
せめて、見た目くらいはシャキっとしないと。
ということで、俺は髪を縛って刀でひげを剃った。
あごひげだけ残したのは威厳を出したかったからだ。
こういうところが幼稚なんだよな、と少し思った。
さて、町はできた。
しかし、誰もいない町にアンデッドがさまよっている光景はいかん。
完全にホラーだ。
それに問題はもう一点ある。
こっちが致命的だ。
階層主の俺はダンジョンに縛られている。
ダンジョンから離れすぎると顔が濡れたあんパンのヒーローみたいに元気が出なくなる。
ほかの階層主や魔物たちも同じだ。
だから、入植者を募ろうにも、ここを離れられない。
誰かがたまたま通りかかる幸運に期待するしかない。
「ま、すぐ来るだろ」
昼は狼煙で、夜は篝火で町の存在をアピールする。
一本杉の先端には旗も掲げてみた。
そして、待つ。
誰か来ないかな、と首を長くしながら杉の木に背を預けてひたすら待つ。
ひと月が経ち、ふた月が経ち……。
まだ誰も来ない。
雨の日はずぶ濡れになりながら、冬は雪だるまになりながら待つ。
それでも、誰も来ない。
さすが未発見のダンジョン。
だいぶ辺境にあるらしい。
「フフフ、フフフフ……」
そして、春が来て、俺はまたひとつ新しい狂気の形を見つけた。
変な笑いがずっと止まらない。
なんだこれ……。
そんなときだった。
杉の森の向こうに人の声を聞いたのは。
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