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24 来い、冒険者だろう!


「てめえら! 領主だろうが関係ねえ! ぶち殺すぞ!」


「「おお――っ!!」」


 威勢のいい声が『断首の間』に響いた。

 俺が刀に手をかけると同時に、『踏嵐す者(デスペラード)』の4人が左右に分かれる。


「警戒しろ! あの武装、魔道具だ! なんかあんぞ!」


 グハンスが叫んだ。

 ご明察。

 俺は右脚を前に出し、むんずと柄を握り込んだ。

 力任せに抜き放つ。


「秘剣『草薙』」


 光の弧が飛んだ。


「おうあ!?」


 グハンスが尻で滑るようにしてかわす。

 レンジャーのヤレンがひらりと上に跳び、女神官プリスタは金切り声を上げて屈んだ。

 盾役のクンタだけが真正面から受けた。


 光の弧が突き抜ける。

 ぐわん、と銅鑼のような音がした。

 盾の下半分が石床の上に転がった音だった。

 その上にクンタの上半分がどちゃっ、と落ちる。

『草薙』を防ぐには少し盾の厚みが足りなかったらしい。


「クンタ!? ……マジかよ、チクショー!」


「治癒を!」


「もう間に合わねえ、死んでんよ! プリスタ、それより奴を拘束しろ! ヤレンは援護!」


「わかった!」


 仲間が死んだのに混乱は一瞬だった。

 もともと薄情な連中なのだろう。

 そこに修羅場で培った経験が冷静さを加えている。

 これはこれでいいパーティーなのだろう。


「あれいくよ! ホタル! タコ!」


 ヤレンが符牒を口にしながら何か投げてよこした。

 小さな革袋と黒い球状のもの。

 斬るべきではないと判断。

 俺は手のひらを扇にして横に薙いだ。

 暴風が飛来物を撥ね除ける。

 それらは壁際まで飛ばされ、鋭い閃光を放った。

 黒い煙が広がっていく。

 閃光玉ホタル煙幕タコか。


「僕が仕掛ける!」


 ヤレンが投げナイフを指間に並べる。


「遅い」


 俺は一気に踏み込んで斬り上げた。

 小さな体が弾けた。

 ヤレンは二つに裂けて吹っ飛び、高い天井にぶち当たった。

 残り2人。


「ラリャアアア!」


 刀を振り終えた俺の側面から、グハンスが飛びかかってきた。

 野太い直剣が落ちてくる。

 重さは十分。

 でも、やはり遅い。

 俺は半身を引いて避け、体を半回転。

 回し蹴りをお返しした。


「がアぎやあ……ッ!!」


 岩を砕く一撃のはずだが、うまく受けられた感があった。

 グハンスはボールみたいに弾んで、その反動でバク転。

 シュタッと着地した。

 血を吐く、その後ろに青い光が見えた。


「嗚呼、天秤の司! 神々の御許を穢せし黒なる者に純白の枷を示したまえ。咎人は疾く縛められん! ――『神聖縛縄バインド』!」


 プリスタの杖が強を増した。

 何か体に巻き付くのを感じる。

 おおかた相手の善悪の度合いに応じて拘束力を増す神聖魔法だろう。

 2人も斬った直後だ。

 その効果は絶大。

 と、本来ならなるはずだが、さしたる痛痒を感じない。


「ど、どうして……!? 拘束できないわ」


「言ったはずだ。死刑を執行すると。裁くのは私だ。その私が何を裁かれるいわれがあろうか」


 善悪に応じて威力が変わる技なら俺も持っている。


「秘剣・二の太刀『罪刈つむがり』――!」


 俺はプリスタの首の高さで刀を振った。


「させっかよ!」


 グハンスが間に割って入り、受け太刀した。

 否、しようとした。

 が、できなかった。


「え」


 それがプリスタの最期の言葉だった。

 胴を離れた首が転がり落ちる。

 ガード不能・受け太刀不能・射程無限。

 回避するか、無罪か、この技にそれ以外の対処法はない。


「あとは君だけだな」


「……」


 ごくりとグハンスの喉が鳴るのがわかった。


「ま、待ってくれ。交渉だ。取り引きしよう……!」


「罪人に便宜を図るつもりはない」


「いいのか、それで」


「はったりにもなっていないな」


「ほら! こいつを見てくれ、いい話があるんだ!」


 グハンスは取り出した竜皮紙を広げた。

 そこから巨大な火の玉が噴き出した。

 スクロールか。


魔祓鏡まふつのかがみ


 俺が左手を上げると火球は掻き消えた。

 左の篭手には小さな鏡がある。

 これも前任のブライオロス3世から譲り受けたものだ。


「う、嘘だろ……。上級魔法だぞ」


「悪いな。上級どころか聖級も効かん」


「ひ……」


 グハンスが腰を抜かした。


「こ、今度こそ交渉……! 今度はホントに! 金でも女でもヘヘ、オレがなんとかすっからさ」


「どっちも足りている。多すぎるくらいだ」


 自分で言って笑いそうになった。

 こほん、と咳払い。

 真面目モードに戻る。


「交渉はしない。フロアボスとしての私は完全にダンジョン側だ」


「ちょ待ってくれよぉ……。お、オレたちゃファトマスのジジイにそそのかされてだな。死刑ってんなら、まずあいつからだろ」


「そうか。追って対処すると約束しよう。今は君の番だが」


「なあ、領主様よぉ。どうすりゃゆるしてくれんだ? オレ、なんでもすっから……」


「何をしても生かして帰すつもりはない。立て。ここへ来た以上、殺るか殺られるか。二つに一つだ」


「……だよな。殺るか殺られるかだよな」


 グハンスの瞳の奥で黒いものが動いた気がした。

 怯えている様子だが、同時に何か別のことを考えているふうでもある。


「……?」


 グハンスはいつの間にか筒のようなものを小脇に挟んでいた。

 真っ直ぐこちらに向いている。

 筒の奥がカッと赤熱した。

 あ、と思った瞬間には息ができなくなっていた。

 砲声のような音が轟く。

 胸に痛み。

 体に風が吹き込んで背中に抜けていく涼しい感触があった。

 ぞっとした。

 ごぽっ、と口から赤いものが出た。

 ペンキ缶でもひっくり返したみたいに足元に赤い輪が広がる。


 なるほど。

 火球魔法で目を引き、その隙に切り札を用意していたのか。

 腰を抜かしたのは大筒の発射姿勢を安定させるため、と。

 さすがにAランカー。

 上位の冒険者だけはある。


「すげえ威力だろ? あんたもよぉーく知ってる、かの名工トルクレッチェ製の魔道具だぜ?」


 脚を振って立ち上がると、グハンスは大筒に口づけした。


「こいつぁドラゴンのどてっぱらに風穴ぶち開けちまうバケモンでな。オレがAランカーになれたのもこいつのおかげなんだぜ」


「そうか」


 ――『和魂にぎみたま』。

 俺は口の中で小さくそう唱えた。

 痛みが瞬時に消えてなくなる。

 息を吸い込むと、胸の中に血と苔の臭いが広がった。


 いや、正直驚いた。

 この鎧はそれなりの代物だったのだが、よもや貫通されようとはな。


「まったく。君は悪さばかりだな。子供の頃からずっとだ」


「……あ? どうして死んでねえ。心臓を撃ち抜いたはずだろ」


「奇遇だな。私も便利な魔道具を持っているんだ」


 俺は手のひらを広げた。

 そこに光の粒子が集まり、勾玉を形作る。


「『夜叉神ノ勾玉』という。『和魂』はこれが持つ4つの権能のひとつだ。端的に言えば、どんな傷も癒やせる。残念だったな」


 ごとん、と大きな音を立てて大筒が落下した。

 グハンスの右腕はまだ大筒を握っている。


「うがああああああああ……!」


 血が噴出する右肩を押さえてグハンスはのたうち回った。

 絶望しきった目を見ると、癒えたはずの胸にまたずきりと痛みが走る。


「そういえば、君のご両親も悪さばかりだったな。親子揃ってここで命を落とすことになろうとは」


「なん、だと……」


 グハンスは残った左腕で剣をたぐり寄せた。

 絶望が憤怒に変わっていくのがわかった。


「来い、冒険者だろう!」


「おおおおおおおおおおッ!」


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