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2 ちょうどアタシも退屈と腹ペコに打ちのめされていたとこさ


 森。

 ……だった場所。

 木々はあらかた横倒しになっているが、1本だけ辛くも難を逃れた木があった。

 奇跡の一本杉だ。

 縁起がいい。

 これを町のシンボルにしよう。

 そんな感じで町づくりが始まった。


 やることができると、停滞していた時間は飛ぶように流れていった。

 タイムラプスのように1か月が過ぎる。

 町?

 ……まだ、できてないな。

 でも、ログハウスが1軒建った。

 なにぶん素人の手作業なので、デキはイマイチ。

 デカイ犬小屋みたいな外観だ。


 人?

 ……ちょっと住めそうにないな。

 入り口はあるが、扉はない。

 窓も家具もない。

 熊が冬眠するのによさそう。

 そんなログハウスが1軒だけポツーンと建っている。

 これが俺の1か月の成果だった。

 俺の心を反映したみたいに、冷たい風がひゅーと吹いた。


「見通しが甘かったな。このペースじゃ100年かかる。ンンッフッフフフ」


 口の端から狂気がこぼれる。

 夢中になれるものがあるのは暇よりいい。

 でも、あまりに進捗が遅いと別の狂気が兆してくるらしい。


 よくよく考えてみれば、だ。

 素人が一人で町をつくるとか土台無理な話なのだ。


「人手がいるよな……」


 でも、チームプレイにはトラウマがある。

 日が暮れるまで思い悩んだ末、俺の頭にこぴんと電球が灯った。


 一度ダンジョンに戻る。

 第一階層『無尽の骨鬼廟』――。

 いかにもダンジョンというような遺跡系迷宮で、おびただしい数のスケルトンが徘徊している。

 冒険者を見つけたら親の仇みたいに襲いかかるはずだが、階層主の俺にはすごすごと道を譲ってくれた。

 同じ会社の、別のフロアの偉い人という認識らしい。


「グラネエさん、いるかな?」


 階層主の間で俺は声を張り上げた。

 スケルトン版兵馬俑といった静寂の空間。

 ほどなく、そこにガラガラと音が轟いて、スケルトン・ホースに引かれた戦馬車チャリオットがやってきた。

 乗っているのはナイスバディでビキニアーマーのお姉さん。

 第一階層の主、グラネエさんだ。


 誘うように蠱惑の唇が舌なめずりする。

 とても魅力的だ。

 だが、この人は食屍鬼グールなので、隙あらば俺を殺して食おうとする。

 誘惑しているのではなく、腹を空かせているだけなのだ。


「おや。ここにお客が来るなんて珍しいね。どうしたんだいオサムちゃん。アタシの軍団に挑戦したいってんなら受けて立つけど?」


 ザン、と。

 大きいが短い音がひとつ響く。

 スケルトンの騎士たちが同時に剣を抜いた音だった。


「ああ、いやいや」


 と俺は慌てて手を振った。


「やり合うつもりはないんだ。ここには頼み事があって来た」


 ダンジョン深層ほど階層主は強くなる。

 第三階層主の俺にとって第一階層主グラネエさんは正直、雑魚だ。

 そこはグラネエさんも承知している。

 それでも好戦的なのは、彼女が生前、万軍を率いた女将軍だったからだろう。

 兵士の前で弱い姿は見せられない。

 なので、俺も少し腰を引いて、した手に出ている。

 グラネエさんはそれで気をよくしたようだった。


「そいつぁ残念だよ。久々にひと暴れしたい気分だったんだけどねぇ」


 ジャ、と。

 一糸乱れぬ動きで騎士たちが納剣した。

 シンクロナイズドスイミングをさせたら金メダル間違いなしだな。

 泳げれば、だが。


「急に押しかけて悪いな」


「退屈しすぎて死にそうだったから構やしないよ」


 もう死んでいることを踏まえたアンデッド・ジョーク。

 グラネエさんは一人でけらけら笑っている。


「頼み事ってのを聞こうか。アンタとアタシの仲だ。面倒な前置きはよしとくれよ」


 それじゃ遠慮なく。


「スケルトンの軍勢を俺に貸してくれ」


「おや、ひょっとしてアタシらで組んで、ほかの階層に攻め込もうって腹かい? そいつぁ豪儀だ! アンタと組みゃ、あの第四階層のいけ好かないコウモリ野郎も目じゃないよ」


「ネエさんはすぐそうやって戦おうとする」


 俺は肩を竦めた。

 いくら暇でも階層主同士の戦争とか恐ろしすぎて無理だ。

 みんなバケモノじみた強さだからな。


「実は地上に町をつくろうと思っているんだ」


「町を? そりゃまたなんでだい」


「退屈すぎて死にそうなのは俺も同じでな。上に町でもあれば、冒険者たちがわんさか来てくれると思ったわけだ」


「わぁお! アンタ面白いこと思いついたね!」


 グラネエさんの土気色の肌がほのかに色づいた。

 反応は上々。

 すでに話は通ったようなものだが、俺はいちおうメリットを説くことにした。


「グラネエさんも久しぶりに生の肉が食べたいだろう?」


「やだよ、もぉ。アタシが好きなのは腐ったの! 生肉なんざ火ぃ通したって腹壊しちまうよ」


 そうなの?

 グールの好みはよくわからん。


「それで、人出が足りないもんでアタシに泣きついてきたわけだね」


「そういうこと」


 グラネエさんは第一階層のスケルトンをすべて掌握している凄腕死霊術師(ネクロマンサー)だ。

 動員力はダンジョン・トップクラス。

 そして、チームプレイにトラウマな俺でもアンデッドなら気兼ねしなくていい。

 ネエさんもおいしい肉にありつける。

 Win-Winだ。


「どうかな?」


「いいよいいよ! もちろん乗るよ、その話! ちょうどアタシも退屈と腹ペコに打ちのめされていたとこさ。そういうことなら一肌でも諸肌でも脱いであげるよ!」


 そう言ってブラカップを引っ張るが、グラネエさんのナイスバディをもってしても死体では色香は香らなかった。

 俺にそういう趣味があれば悩殺されていたかもしれない。


 こうして、俺に心強い協力者ができたのだった。


ここまで、読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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