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18 なら、見せてあげましょうよ! その夢の果てに圧倒的現実ってやつを!


 オッサミアでは毎年3ケタ単位で冒険者が死ぬ。

 そうすると、冒険者たちの遺児がちまたにあふれる事態となる。

 ストリート・チルドレンだ。

 領主としては見過ごせない。

 俺が引き取るのが筋だろう。


 そう思い、領主邸の一部を孤児院として開放したのが30年ほど前のこと。

 それが、リョーリアが院長を務める『オッサミミ孤児院』だった。

 子供たちはだだっ広い中庭を駆け回り、リョーリアの母性に抱かれ、おいしいご飯を食べて毎日幸せに暮らしている。


「うわあああああああああああんんっ!!」


「ひぃうううううう!」


「こらッ! 待ちなさい!」


 幸せに暮らしている、はずだ。

 はずなのだが……。

 孤児院として使っている別館から悲鳴とともに子供たちが飛び出してきた。

 鬼みたいな少女に追われて号泣している。


「オサム様!?」


 その鬼は俺もよく知っている人物だった。


「シーフィア先生がいじめるぅううう!」


 そう、鬼は俺の腹心、ル・シーフィアだった。

 勉強熱心の彼女が孤児院で教鞭を執っているのは知っていたが、はてさて、これは一体……。

 俺はローブの中に子供たちを匿いつつ、怒れる鬼に疑惑の目を向けた。


「ち、違うんです! いじめるだなんて人聞きが悪いですよ……!」


 シーフィアは角みたいに立てていた耳を垂らして釈明する。


「私はただ、子供たちにもオサム様の偉大さをわかってほしくて、それでオサム様の歩みを紀伝体で叩き込もうとしただけで……」


 紀伝体とか叩き込むとか、そりゃ子供たちも泣くわな。

 鬼の形相なら、なおさらだ。


「なるほど。それでイラスティリアに白羽の矢が立ったのか。お絵描き教室なら穏当だしな」


「そうなのぉ。子供たちが可哀想でぇ」


「ちょっと、リョーリア! 可哀想って。私はまっとうな大人に育て上げようとしただけですよ!?」


 俺の半生を学べばまっとうに育つと?

 お前の教育観はよくわからん。


「つまり、シーフィアよりあたしのほうが教育者として断ッ然優秀ってわけね!」


 どの式に何を代入してその解を出したのやら、メスガキ画伯ことイラスティリアは上機嫌だった。


「おら、ガキども、ついてきなさい! あたしが絵のなんたるかをブッ叩き込んでやるわ!」


 そして、30分後――。

 俺は木刀を八双に構えて銅像みたいに静止していた。

 周りには子供たちがいて、夢中で絵筆を走らせている。


「結局こうなったか……」


「こらぁ! モデルのくせに動いてんじゃないわよ! このざぁこ! 馬鹿馬鹿ざぁこ!」


 メスガキ先生に怒鳴られた。

 理不尽だ。

 そして暇。

 だが、いたいけない子供たちの手前、嫌だ嫌だと駄々をこねるわけにもいかない。

 今日は厄日だな。


 ほどなくして、お絵描きタイム終了。

 真剣に描き殴っていた子供たちがキャッキャと騒ぎ出す。

 俺は敵方の勝鬨を聞いた敗軍の将みたいな気分で膝を屈した。

 ああ疲れた……。


「オサム! ねえオサムったら! あたしの絵を見なさいよホラ! やっぱりあたしは天才だわ! ふふん!」


「どれどれ? ……ほほう!」


 イラスティリアはこの短い時間で写真と見紛う見事な一枚を描き上げていた。

 さすが画伯。

 でも、俺の目を引いたのは別の絵だった。


「よく描けているな」


 アブスという少年の絵だ。

 典型的な抽象画で、一見何を描いているのかわからない。

 しかし、よくよく見れば、そこには一人の剣士が立っている。

 すらりと伸びた木刀が真剣のように冴え渡り、しかし、それを構える男の目はどこか死んでいるようにも見える。

 総身からあふれ出す剣の力量と、それに釣り合わない間の抜けた顔。

 その対比をハッとするほど見事に捉えている。

 すごい。

 いつもボーっと空を見ているような子だったが、その筆には神が宿っている。


 と思ったのは俺だけだったらしい。


「全ッ然ダメ! ほら、よく見なさい。こう描くのよ!」


 会心の紙面を筆が薙いだ。

 イラスティリアの理のある線が混沌の美を塗り潰していく。

 もったいない。

 せっかく芽吹いた若芽が無慈悲に踏み潰されたような、そんな痛ましさを俺は感じていた。

 とうのアブスはぽかーんとするばかりで、気にも留めていないようだが。


「ここもダメ! あんたは才能なし! あんたたちは論外 みーんなみんなざぁーこザーコ! やっぱりあたしが一番ね!」


 イラスティリアはどう見ても先生向きではない。

 でも、子供たちには懐かれている。

 体型と性格がガキだから親近感が湧くんだな。


「オサム、あんた今、あたしを見て失礼なこと考えたでしょ?」


 ぎくり。

 さすがに被写体をよく見ておいでだ。


「罰として今日はずっとモデルをやんなさい! あたしの命令よ!」


「それは領主命令より上なのか?」


「当ッたり前じゃないの! そんなこともわかんないの? あんた馬鹿ぁ? 雑魚ザコざぁこ!」


「こんのぉ……」


 げんこつをくれてやろうかと思ったが、そんな場合ではなかった。

 子供たちが再び俺の周りに集まりつつある。

 このままでは、また死んだ目の剣士像をやるハメになる。


「ど、どうだろう? 芸術の秋だ、絵画コンクールでも開催してみるってのは」


 苦し紛れにそんな提案をしてみる。

 俺は暇が嫌いだ。

 だから、暇を感じるたびに催し物を企画してきた。

 夏には夏祭りと花火大会。

 冬には雪合戦トーナメントやクリスマス祭り。

 ダンジョン利権の潤沢な資金で毎月のように何かしら催している。

 オッサミアは王国でも随一の多祭都市だった。


「テーマは『秋のオッサミア』。最優秀作品に選ばれた者には絵の具1年分を進呈しよう!」


「それホントぉ!?」


 イラスティリアが目をキラキラさせて食いついた。


「ぜひやりましょ! すっごく楽しそうだわ! 最優秀賞はどうせあたしだけど、雑魚どもにも夢を見る権利くらいあるものね! なら、見せてあげましょうよ! その夢の果てに圧倒的現実ってやつを!」


「お前、ろくでもないメスガキだな……」


「コンクールに向けてあたしがみっちり描き方を教えてあげる! 感謝しなさい、あんたたち!」


 ということで、『第1回オッサミア秋の絵画コンクール』が幕を開けたのであった。


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