12 閑話「屋根裏部屋で耳を並べて」
オサムが領主となったその夜。
ル・シーフィアは思い定めた顔で少女らを見渡していた。
「私たちは守られてばかりではいけないと思うんですっ!」
言い終えてから、慌てて口を手で覆う。
このところずっと胸に秘めていた想いを吐露したからだろう、つい声が高くなってしまった。
町役場の屋根裏部屋。
エルフの少女らにとっては夜な夜な女子トークに花を咲かせる秘密の場所だったが、階下ではこの建物の主、オサムが寝息を立てているはずだ。
シーフィアは声を潜め、あらためて言葉を続けた。
「たった一人で戦うオサム様を見ていると、私は胸が張り裂けそうになりました。何もできない自分がゆるせなくて、どうにかなってしまいそうでした」
片時も休まず、まんじりともせず、木刀1本握りしめて東奔西走するオサムの姿。
それが、シーフィアの胸に鋭いトゲとなって突き刺さっていた。
ただ見ていることしかできなかった。
町が寝静まった後も、大雨の日も、泥まみれになってひたすら戦い続けた大きな背中。
それをただ見送ることしかできない日々……。
シーフィアは無力だった。
「私は悔しいです!」
思わず、また大きな声が出た。
オサムには恩という言葉では言い表せないほどの大恩がある。
命を助けられただけではない。
故郷を焼かれ、あてどなく放浪したシーフィアに第二の故郷を与えてくれたのもオサムだった。
「私たちはいただいたご恩をお返しすべきなのです」
その想いはみんな同じようだった。
月明かりが照らすばかりの暗い屋根裏でいくつもの頭が頷いた。
「んー、でもどうやって……?」
少し眠たげな声がした。
おそらくエ・トルクレッチェだろう。
「レッチェにはモノづくりの才があるじゃないですか。それを活かすのです」
「ハイハイ! あたしはあたしは?」
そう言って手を挙げているのは、ツインテールのシルエットからしてエ・イラスティリアであるらしい。
「あなたには絵の才能があります。きっとオサム様のお役に立てるはずですよ。リョーリアはお料理が得意ですし、アグレマリアは貴族社会に通じています」
ふと胸が冷たくなったのをシーフィアは感じた。
肝心のおのれ自身が非才であることに今ようやく気がついたのだった。
……私はお役に立てない。
そんな想いが冷えた水のように全身に広がっていった。
めまいがした。
うつむいたとき、耳元で何か光った。
オサムにもらった耳飾りが月光を反射したのだった。
手に触れると、ほんのりと温かい。
そんな気がした。
おそらく気のせいだろう。
でも、大きな手に背中を押されたような心強さが胸の中にたしかに芽生えていた。
才能がなくても努力はできる。
できることをするのだ。
顔を上げたときシーフィアはどこまでも真っ直ぐな目をしていた。
「私は強くなります。オサム様と一緒に戦えるくらい、強く」
じっとしていられなくなり、シーフィアは立ち上がった。
ほうきを掴んで庭に飛び出し、えいっ、えいっ、と気合を込めて振る。
剣を握っているつもりになっていた。
しかし、剣よりもずっと軽いほうきでさえ非力なシーフィアの手には負えなかった。
すぐに息が上がり、細い二の腕が悲鳴を上げる。
それでも真っ直ぐに前だけ見つめ、一心不乱に振り続けた。
幸いにも、純血種エルフであるシーフィアには膨大な魔力と長大な時間があった。
魔王が支配した古の時代には、数々の名戦士や大魔法使いがエルフの血族から生まれたと聞く。
やってやれないことはないのだ。
気づけば、隣で同じように影が動いていた。
想いはひとつだった。
「ありがとう。みんなっ!」
シーフィアは仲間たちと連れだって毎夜毎晩、修練に励んだ。
そして、40年の歳月が流れた――。




