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11 え、俺が領主に……?


 ブゥテンバルド軍敗走の2日後。

 毎日のように来ていた行商人がパタリと途絶えた。

 冒険者たちによると、ブゥテンバルドの兵士らが街道を封鎖しているらしい。

 困った。

 オッサミア経済はダンジョン資源の輸出――つまり行商で成り立っている。

 このままじゃ飯の食い上げだ。


「どうしましょう? きっと今度は夜襲や付け火です」


 シーフィアが悲痛に眉を歪める。

 そんな顔も美少女だな、とか思いながら俺は頭を抱えた。

 正面切って攻めてくるなら片手でも撃退できる。

 でも、ゲリラ戦を徹底されると俺一人では対処できない。

 かといってブゥテンバルド領は遠い。

 乗り込んで豚領主のケツを蹴飛ばすこともできない。


「とりあえず、城壁に歩哨を立てよう。襲撃があれば俺が寝ずの番で対応する」


 集中すれば、町に近づく者の気配はだいたいわかる。

 それに階層主の俺は眠る必要がない。

 体力は実質無限だ。


「では、私たちがお夜食を作ります! 腕によりをかけて! 愛も込めて!」


「お、おう」


 それは気力も無限になりそうだな。


 そんなわけで、歩哨役を募集した。

 すると、杉の木広場に100人くらい人が集まった。

 その多くがブゥテンバルドからの脱領者たちだ。

 手に手にくわや斧を持って物騒な顔をしている。


「わしらも町長さんと戦うべ!」


「もともとあの豚領主が嫌で逃げてきた身じゃ」


「この町を豚舎に変えられてたまるか!」


 地獄を見てきた者の必死さが熱気になって覆いかぶさってくるようだった。


「よし。なら、内側の守りを固めてもらおう」


 あくまでも、いざというときの備えだ。

 危険な外側は俺一人で受け持つ。

 こればかりは譲れない。





 その晩には夜襲が始まった。

 町に火矢を射掛けようとしたらしい。

 暗い森に火がチラついていたから一目瞭然だった。

 駆けつけて追っ払う。

 そんなことが一晩で何度も起きた。

 手を替え品を替え、毎晩続いた。


 なるべく人は殺したくない。

 なので、木刀で撃退していたのだが、むしろそれが功を奏したらしい。

 敵方は負傷者続出で日ごとに士気が下がっていった。

 戦場では負傷者が足手まといになるというのは本当らしいな。


 領主は敗走。

 連日連夜、木刀で尻をぶっ叩かれる。

 そんな日々に嫌気が差したらしく、武器を捨てて投降してくる兵士まで現れた。

 反対にオッサミアは意気軒昂。

 共通の敵というのは団結の象徴になるらしい。


 そんなこんなしているうちに、ブゥテンバルド領は滅びた。

 セルデホッグは拡大志向の持ち主で、近隣領主にもちょっかいを出していたらしい。

 ほかの領地から一斉に攻め込まれて悪戦苦闘。

 そんな折、重税に耐えかねた農民が爆発。

 怒り狂った領民たちが水牛の群れのように領主邸に押し寄せたらしい。

 セルデホッグは厨房の窯に逃げ込んだ。

 そこで最期を遂げたという。

 豚の丸焼きだ。


 でも、これでオッサミアが平和になったわけではなかった。

 今度は別の領主たちが代わる代わるやってきて、信従を求めてきた。

 そして、ある日、3つの領主軍がオッサミアの鼻先で鉢合わせになった。

 三つ巴の戦いが勃発。

 勝手に共倒れして、ようやく平穏が訪れた。





 それから1年ほどした頃、遠く離れた王都からオッサミアを訪ねてきた者があった。


「え、俺が領主に……?」


 狭い会議室に俺の素っ頓狂な声が反響した。

 訪ねてきたのはエルロキア王の使者だった。

 国王陛下のお言葉を伝えるというのでかしこまって聴いていたら、


「オサム・ダンジョーをオサマバード領の領主に任ずる」


 と言われた。

 俺がたった一人でブゥテンバルド軍を追い払った話が国王の耳に届き、いたく気に入られたようだった。

 ただ、決して酔狂で叙任したわけではない。

 辺境の既存勢力に大型ダンジョンという力を与えたくない。

 そんな思惑が見え隠れしていた。


 こうして、俺はオサマバードの領主になった。

 ちなみに、オサマバードは「オサムの場所」という意味らしい。

 身が引き締まる思いだった。





「では、領議の満場一致をもって『町役場建て替え案』を廃案としますっ!」


 相変わらず息苦しい会議室にシーフィアの凛とした声が響いた。

 町議会議員から領議会議員にクラスアップしたエルフ娘たちが一堂に会している。


「そして、あらためて、『領主邸の建築計画案』を提出し、決を採ります。賛成の方は挙手を」


 全員が一斉に手を挙げた。

 手を膝の上に置いているのは俺1人だけ。


「オサム様は反対なのですか?」


 シーフィアが目を白黒させている。


「そりゃ反対に決まっているだろう」


 なんせ、この領主邸、国一番の規模になる予定だ。

 テーブルの上に広げられた完成予想図は完全に城である。

 もともと町一番の規模で町役場を建てる計画だった。

 それがなぜ国一番の城になっているのか。


「でも、町の皆さんは賛成してくれていますよ?」


 その通りだ。

 町民もすでに計画の全容を知っていて、反対はゼロだった。

 町を守った俺への恩返しだと大盛り上がりだ。


「税金の無駄遣いだろ……」


「そんなことはありません! すべての税はオサム様のために使われるべきなのです!」


 シーフィア議長の言葉に領議全員が大きく頷いた。

 もう何を言っても無駄らしい。


「この城に住むの? 俺……」


 オッサミアはダンジョン利権でガッポガポのウッハウハだ。

 実現可能な財力があるのが恨めしい……。


「それでは賛成多数で可決といたしますっ!」


 ガベルがガツンと威勢のいい音を立てて、壮大なマイホーム造りが始まったのだった。


ここまで、読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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