10 お前たちがここを故郷と呼んでくれたからな
異世界に来てすぐの頃、俺は魔物を見るたびに逃げ回っていた。
あいつら、デカイ・速い・強いの三重苦だ。
非力な俺に太刀打ちできるとは思えなかった。
あるとき、俺は巨大な虎に追い詰められて戦わざるを得なくなった。
トラックみたいな巨体が飛びかかってくる。
死に物狂いで拳を振り抜いたとき、吹っ飛ぶことになったのは、なんと虎のほうだった。
俺は強かった。
すごく強かった。
理由は知らん。
異世界人だからかもしれない。
しかもレベルアップ制だったらしく、戦いに勝てば勝つほど俺は強くなっていった。
気づけば、第三階層に俺より強い奴はいなくなっていた。
だから、かねてより思っていた。
もし、オッサミアに大きな脅威が迫ったら、そのときは俺が戦って町を守ろうと。
「やああああああ!」
「おおおおおおお!」
歩兵隊が押し寄せてくる。
俺は刀に手を伸ばして、すぐにやめた。
これを使えば、あの兵士たちがいつかの杉の森みたいになる。
100人いようが1000人いようが一撃で全滅だ。
兵士たちに罪はない。
なので、殴ることにした。
「せいッ!」
思いっきり拳を振る。
すると、冗談みたいな突風が起きて兵士らがきりもみしながら吹っ飛んだ。
戸惑う槍兵を担ぎ上げ、別の兵士に投げつける。
盾を構えた兵を盾ごと蹴飛ばし、目が合った兵士をデコピンで倒す。
怯まず斬りかかってきた男の剣を指で止め、ビンタをお返しすると、男は丸太みたいに転がってほかの兵士を薙ぎ倒した。
「……」
「…………」
「……」
城門前が急にクワイエットになった。
皆さん、着ぐるみだと思って近寄ったら本物の熊でしたって顔をしている。
「ブゥ! 何をしておるか貴様ら! それでも『王国の猪神』と称えられた神将セルデホッグ・ヴァン・ブゥテンバルドの神兵か!」
豚がそう喚く。
「歩兵隊長! 貴様がまず動かぬか! 妻子を奴隷に落としてもよいのだぞ!」
「ほ、歩兵隊、密集陣形! 隊列を組――」
「ふんッ!」
落ちていた兜を歩兵隊長に投げつける。
顔面にクリーンヒット。
隊長は卒倒した。
悪いな。
「ブヒィ!? ならば、騎馬隊、突撃せよ!」
「させない」
俺は地面をぶん殴った。
足元にクレーターができた。
凹んだ分だけ、ほかが盛り上がる。
騎馬隊は穴に落ちるか、盛り土に打ち上げられるかして落馬した。
「ブヴォオ! 弓兵隊、射掛けよ!」
矢の雨が殺到する。
俺はさっと手のひらを振った
暴風が起きて矢が左右に払われる。
ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。
立っている奴がいなくなるまで片っ端からぶっ叩く。
歓声がすることに気づいて振り返ってみると、城壁の上が町民であふれ返っていた。
やんややんやの大喝采。
まるで特設応援団。
なまじ冒険者が多いから、町のピンチなのにお祭り騒ぎになっている。
でも、孤軍奮闘だったから心強い。
「ば、馬鹿な。我が屈強なる領兵が素手で……」
セルデホッグが後ずさりする。
その分、俺は前に出る。
人間と戦うのは初めてだが、こうしてみると俺はやはり規格外に強いらしい。
階層主だしな。
「ブギゥッ! 魔砲兵隊、撃ち方用意! 峻烈なる灼熱の裁きでもって、このわしの威光を知らしめるのだ!」
今度は火の玉が飛んできた。
俺はあえて避けなかった。
爆炎と土煙で何も見えなくなる。
シーフィアたちが悲鳴を上げたようだが、なんということもない。
服の端が少し焦げただけ。
「児戯だな。第二階層のサラマンダーはこんなものじゃない」
拾った石を魔砲兵隊に投げる。
頬をかすめた石が背後の木に深々とめり込むと、魔砲兵たちは下を向いた。
それっきり俺を見ようとしない。
どうやら、これで豚の雑技団はネタが尽きたらしい。
壊走し始めた。
「ば、馬車を出すのじゃ! ぶひいいいいい!」
セルデホッグはその先陣を切って遁走していた。
大軍を率いて戻ってこられるのは困る。
俺は後を追った。
騎馬隊を追い抜いて馬車に迫る。
あともう少しってところで急に膝ががくんと落ちた。
栓が抜けたみたいに体から力がこぼれていく。
「これ以上離れるのは無理か」
俺が規格外でいられるのは、あくまでダンジョン近郊だけ。
悪運の強い豚だな。
城門前に戻ると、町のみんなに迎えられた。
「おいおい町長さんよ! あんた凄まじく強ぇなあ! ほんとに人間かあ!?」
「たった一人で軍隊追っ払っちまったよ!」
「さっすがオッサミアのトップだぜ! ただびとじゃねえとは常々思っちゃいたがヒャー! こいつぁすげえや!」
「オサム様ぁああ……!」
とシーフィアたちエルフ娘が抱きついてきた。
「よかったですぅ! オサム様がご無事で!」
みんなボロ泣きだ。
俺はどうしていいかわからなくなって、頭を掻いた。
「お前たちがここを故郷と呼んでくれたからな」
――再び故郷を失うくらいなら戦って死にます!
死なれちゃ困るが、あの言葉は正直嬉しかった。
そんなふうに思ってもらえる居場所をつくれたのだから、町長冥利に尽きるってもんだ。
さて、一難去った。
だが、たぶん本番はこれからだな。
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