1 よし、町をつくろう!
「普通あそこで落とすかよ」
9回裏、2アウト満塁。
一打逆転サヨナラのピンチ。
イージーフライだった。
俺が捕り損ねて、高校の夏は終わった。
あれ以来、俺はチーム競技はやらないと決めた。
それが20代最後の日をぼっちで過ごしている理由でもある。
机の上には半額のコンビニケーキと冷めかけのココア。
どこにでもいるダメな30歳まで、あと10秒を切っていた。
俺は心の中でカウントダウンを始めた。
3、2、1……。
さあ、ソロお誕生会の始まりだ。
「……?」
ゼロ。
と心の中でつぶやいた瞬間、俺は異世界にいたのだった。
◇
「ひい~~~~~~まぁ~~~~~~~~」
暇すぎると人は変になってしまうらしい。
がらんどうのボス部屋に響く自分の声を聞いて、俺は自分が狂気の一歩手前にいることに気がついた。
これ以上先に進めば帰ってこられない気がする。
異世界に来て、2年。
最初の1年こそ大変だった。
気がつけば、いきなりダンジョンの中。
魔物から逃げたり。
死ぬ気で返り討ちにしたり。
魔物の肉を食って腹を壊したり。
とにかく毎日獣のように転げ回っていた。
生きるには戦うしかなくて、必死に魔物を倒しているうちに俺はメキメキ強くなっていった。
ある日、ついに階層主を倒してしまった。
『代替わり』といって階層主を倒した者が次の階層主になるらしい。
以来、俺は第三階層の階層主の間でずっと正座している。
そうして、1年になる。
挑戦者はまだ来ない。
そりゃそうだ。
ここは、未発見のダンジョンだからな。
来るわけがない。
……で、今こうなっている。
「ひいいいいンまああああああああああああああああああああ!」
階層主になってから、水や食事を摂らずとも飢えなくなった。
ああ、俺はダンジョンに生かされているなぁ、と思う。
同時に、呪いのようにこの地に縛られているのも感じる。
ダンジョンから出ることはできる。
だが、離れることはできない。
だから、この退屈の病を癒やすには誰かにここに来てもらうしかない。
さもなくば、一人遊びを極めるか、だ。
後者は一度試してみた。
でも、狂気がぐんと近づいてきて怖くなってやめた。
残るは前者。
誰か呼ぶしかない。
でも、どうやって?
……ハッ!
俺は天啓のように閃き、膝を打って立ち上がった。
「よし、町をつくろう!」
段城治、32歳。
今が一番脂がのっている。
やってやれないことはない。
町をつくろう。
いわゆる迷宮都市だ。
この世界にも冒険者とかいるようだから、人を集めてこのダンジョンを賑やかにしよう。
そうしないと、精神的にキツい。
このだだっ広い追い出し部屋にいると精神がやられる。
このままじゃ俺は早晩、狂気に呑まれて本物のフロアボスになってしまう。
俺はボス部屋の宝物殿から刀をひと振りひっ掴んでダンジョンの外に出た。
外は森。
不気味なほど黒い杉の森。
一片も空が見えない陰気な場所。
チキ、と。
俺は鯉口を切った。
ひとつ息を吐き、
「秘剣・一の太刀『草薙』――!」
刀を振り抜く。
森に一陣の風が吹いた。
その後、…………静寂。
何も起きない。
痛々しい空気が流れて、顔が熱くなってくる。
「これは魔剣で、技名を呼ぶと斬撃を飛ばせるのだ」
誰も見ていないとは思うが、いちおう注釈を入れておく。
冷や汗をかいてきた頃、森にさざめきが起きた。
それは雪崩のような轟音に変わった。
木々がドミノ倒しになり、青空がその範囲を広げていく。
やがて、すべて青になった。
ひと振りで森が消えた。
さすが階層主。
「いやあ痛快、痛快っ!」
わっはっは、と笑って俺は刀を納めた。
この一人で笑う癖はかつて触れた狂気の名残だったりする。
人に会う前に直しておかないとな。
「さて」
ここに町をつくろう。
で、人を呼ぶ。
冒険者をたくさん。
そして、ダンジョンを盛り上げる。
退屈しない毎日を俺は過ごすのだ!
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