表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

論理削除と物理削除とコミケの行列

作者: 稀Jr.
掲載日:2025/12/26

 コンピュータの世界ではデータベースというデータの塊を扱うことが多い。データの塊は、乱雑に並んでいるわけではなく、あるルールに従って整理されている。いわゆる、行列というやつだ。行列には「行」という横の列と「列」という縦の列がある。一般的に、行列といえば縦長のものを想像するかもしれないが、データベースの行列は縦と横に広がっている表のようなものである。あ、一般じゃなくて、コミケだったりすると行列はくねくねと曲がっていて、真っすぐなイメージではなく建物の廻りを巡っていたりするのだが、そういう行列もある。蟻の行列もあり、象の行列もある。しかし、ここで扱うのはデータベースの行列の話なので、一般的な行列の話は忘れておいたほうが良い。

 さて、データベースでは何故か行単位つまり横の列でデータを扱うことになる。つまりは横書きなのだ。これはデータベースの発祥が英語圏であったことに由来するのか、ひょっとして日本語のように縦書きの文化であったならば縦のほうの「行」がデータを扱うことになっていたかもしれない。縦書きのデータベースなんて想像もできないだろうが、いや、簡単だ。Excel で縦と横を入れ替える機能があるので試して欲しい。縦書きのデータベースができあがる...かもしれない。

 しかし、縦書きデータベースといっても、よくよく考えれば今でも使われているのではないか、と思わなくもない。例えば、葉書の宛名書きは縦書きである。最初に郵便番号があり、都道府県名があり、市町村名があり、番地などが続く、そして名前だ。完全に縦というわけでもないが、縦に書くときの順番が決まっているのだ。これも一種のデータベースの記述方法と言えなくもない。他の宛名書きと比べてみて欲しい。同じ書き方が続くのだから、最初にあるのは郵便番号という決まりがあるのだ。ここで、あるひとがわざと間違えて電話番号を郵便番号の四角の枠に入れたと考えてみよう。同じ数字であるから、本来は電話番号であるものを郵便局の選別機械は郵便番号として読み取ってしまう。

 あるいは郵便番号の枠に名前を書いてしまうことを考えてみよう。名前は大抵の場合、漢字はひらがなが使われるから、郵便局の選別機は郵便番号として認識できない。つまりはエラーとなってしまうのだ。

 同じく、郵便番号の枠に4コマ漫画ならぬ7コマ漫画を描いてしまったらどうだろうか。

 ひょっとしたら、選別機コンピュータは、うまく7コマ漫画の意味がわかってくれて、「これ、郵便番号じゃないけど、面白いからなんとか届けてあげますか」とか考えて、うまく届くかもしれない。そうなると、7コマ漫画も郵便番号扱いになってしまうので、データベースの枠として「郵便番号」という列に7コマ漫画が入ってしまうことになる。なかなか大変だ。

 ということで、データベースの列の順序は重要なのである。


 さて、データベースはデータを追加する方法と、削除する方法がある。追加は簡単で、データベースの一番最後の行に新しいデータをくっつければよい。ちょうど、コミケに並んでいる人達の最後尾の看板のところに新しい人が並ぶようなものである。新しい人が並べば、いままでの最後の人は最後ではなくなる。つまり、新しい人が最後尾になるのだ。最後尾というのは、人に依存しているのではなく、行列の最後という意味になり、常に追加により変わってくる。さらに言えば、行列の人数が1人ずつ、いやデータベースであるから1つずつデータが増えていくことになる。

 では、削除の場合はどうか。データを削除するときは、パスッ、とデータを消すのである。

 コミケの行列で言えば、行列に真ん中あたりに並んでいる人を、パスッ、と消すようなものである。消すといっても殺してしまうわけではない。いわゆる、テレポーテーション機能により消えてしまうのである。なんとも恐ろしいことだ。

 コミケの行列にパスッと並んでいる人が消えてしまうと、そこは詰められることになる。つまり、消えた人の場所を埋めるように、それから後ろのひとたちがちょっとずつ前に進むのである。なかなか面倒ではあるが、これがデータベースの削除である。

 しかして、もうひとつの「削除」というものがある。先ほどの削除では、突如として並んでいる人が消えてしまったものだが、今度の削除は、その人が人ならぬモノになってしまうのである。人ならぬものは、そう幽霊かもしれないし、オオカミ男かもしれない。あるいはロボットかもしれない。ともかく、人であったものが人ではなくなるのだ。前後にいる人は吃驚するだろう。

 しかし、ちょっと考えてみたまえ。

 最初の削除の場合は、人が消えてしまったのでそれ以降の人がちょっとずつ前に詰めることになる。しかし、今度の削除の場合は、人ならぬものに変質してしまったものだが、前に詰めることができない。当然、人ならぬものがそこに居るからだ。

 いやあ、前に詰められないから、全体の数は変わらないような気もするがそうでもない。

 行列にいる「人」の数を数えてみよう。先の削除の場合は n 人から n-1 人になる。同じく、人ならぬ者に変質した場合も n 人から n-1 人になる。つまり、行列にいる「人」の数は同じように減るのだ。しかし、人と人ならぬ者の合計数、つまりは、全体の数を考えて欲しい。パスッと消えてしまった場合は n 人から n-1 人になる。しかし、人ならぬ者に変質した場合は n 人のままだ。なんてこったい、全体の数が変わらないのである。

 つまりは、前者のパスッと消えてしまったほうが物理削除、後者の人ならぬ者に変質してしまった場合は論理削除ということになる。

 論理削除の場合は、元に戻すことができるという利点がある。

 つまり、人ならぬ者から、人に戻すことができるのだ。消えてしまった場合には、幽霊なり異次元なりに吹っ飛んでしまうので、おそらく戻すことは不可能だ。しかし、論理削除の場合は、元に戻すことができる。つまりは、人を構成している内部のデータをちょっと書き換えていただけで別のものになっていた。そして、再び、人を構成するものに戻すことで、人に戻ることができるのだ。なんて便利なことだろうか。


「なぁ、そうだろう? つまりは、ここに置いてある人形は、もともと人だったもので、ここに俺が戻って来たことにより、人形から人に戻ったんだ。つまりは、論理削除で元に戻すことができるということだ。そうだろう、な?」

「いや...人形で場所取りをしてはいけません」


【完】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ