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偽物勇者とメイド天使  作者: ああああいい
第3章 教会編
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第88話 絶対的な教祖

 パテル派のシスターは魔物の存在を許さない。

 殺すべき対象と見ている。

 ゆえに魔物との共存を謳うケテル派とは相容れない。

 

 それにも関わらず、パテル派はケテル派のシスターと不干渉の契約を結び・・・

 あまつさえ、魔物を仲間に加えるケテル派を容認している。


 理由はシンプル。

 魔物を殺した数はケテル派の方が圧倒的に上だったからだ。


「みなさんのおかげで悪は討たれました。ありがとうございます」


 アナスタシアがシスター達に言う。


「・・・」


 シスター達は何も言わない。

 憔悴しきっていた。


 今回は運が悪かった。

 ゴブリン達は人語を発していた。

 そのせいでゴブリン達の悲鳴や命乞いがより鮮明に耳に残る。


『助けて』


「うっ」


 シスターの一人が自身の耳を手で塞ぐ。

 しかし、声は聞こえ続ける。


『生きるためには手を汚すしかなかったんだ』


「う、あ・・・」


 シスターの目から涙がこぼれる。

 ゴブリン達は悪だった。

 殺すのは正しいはずだ。


(本当に殺すしかなかったの?)


 善良なシスター達。

 殺した相手は邪悪なゴブリンにも関わらず、良心の呵責にさいなわれる。


「・・・」


 シスター達はゴブリンの返り血と体液で汚れた自身の姿を見る。


「うっ」


 吐きそうになる。


 地面に転がるはぐちゃぐちゃになったゴブリンの死体。

 善良な一般人にこれほどまでにむごい行いはできないだろう。


 深淵を覗くとき深淵もまたこちらをのぞいている。

 ミイラ取りがミイラになる。


 悪を殺すことで彼女たちもまた悪に・・・


「素晴らしかったです」


 アナスタシアがシスターに抱きつく。

 綺麗だったアナスタシアの体が間接的に血と体液で汚れていく。


 アナスタシアは弱く、戦闘には参加できない。

 彼女はシスター達に命令を下した後は見ているだけだった。


「早く早く死ね。苦しんで死ね」


 死にゆくゴブリン達に暴言を吐きながら・・・


「ベル、凄かったですよ。ゴブリンを一撃でペチャンコにしちゃって・・・流石はベルです」


 アナスタシアが今度はベルの手をとる。


「そうだ、ご褒美あげます。なんでも言ってください」

「・・・私なら大丈夫だ」


 ベルがアナスタシアのご褒美を断る。


「辛いことがあったら言ってくださいね。私が力になりますからね」


 アナスタシアがいつもと変わらない優しい笑顔で言った。

 その後も彼女はシスター一人一人に抱きつき、労いの言葉をかけていく。


 シスター達はそんな彼女が・・・恐ろしくてたまらなかった。


 普段の優しい顔。

 悪を前にしたときの冷たい顔。


 なにより恐ろしいのは労いの言葉をかけるときの優しい笑顔。

 その笑顔は子供達を相手にしているときと全く同じだった。


(なんで同じ顔ができるの?)


 シスター達は信じられなかった。


 子供達とのふれあいはシスター達にとって癒しだった。

 擦り減った心を癒してくれる。


 でも、アナスタシアは違う。

 子供達の笑顔と、悪を殺すシスターの行いは・・・同列だった。


 どれだけ悪の・・・人の、魔物の死を見てもその心は擦り減らない。


 アナスタシアには良心が欠けていた。

 初めからそんなもの持ち合わせていない。


 だから、何をしても心が痛まない。


(狂ってる)


 精神構造がそもそも違うアナスタシアを見てシスター達は戦慄する。


 ・・・良心を持たないアナスタシア。

 どんな非道な行いにも心を痛めない彼女を善人と呼ぶことはできない。


『善人のふりをしているだけの悪人。それも無自覚に』


 それがシスター達・・・教会のアナスタシアへの評価だった。


 幸運なことにアナスタシアは体が弱く直接手を下すことはできない。

 ゆえに、彼女が自身の手を非道に染めることはない。


 そんな彼女は教会の理念の体現者であり、ケテル派の教祖に相応しい。


 ・・・パテル派には善悪の明確な判断基準がある。

 魔物もしくは魔王の子であるか、そうでないか。


 しかし、ケテル派にはそれが存在しない。

 自分達で善悪を判断しなければならない。

 そんな曖昧な線引きの中でシスター達の心は擦り減っていく。


(果たして自分の判断は正しかったのか?)


 善良であればあるほど良心の呵責に耐えられず壊れていく。


 だから、ケテル派のシスターには必要だった。

 善良な自分達に代わって決断を下す悪が。


「アナスタシア様、野盗のアジトが見つかりました」


 洞窟に駆けつけたシスターがアナスタシアに報告する。


「彼らは物品を奪うだけは飽きたらず、労働力になる若い男を捕まえて奴隷として売り捌き、金にならない子供、老人、女は殺していました」

「・・・国とギルドは?」


 シスターの言葉にアナスタシアが聞く。


「奴隷を受け取っていた貴族が金で揉み消していたようです」


 この世には表に出てこない悪がいる。

 悪が出てくるのを待つだけの正義の味方では救えない命がある。

 だから、ケテル派のシスター達は遠征をして自らの足で悪を探す。


「許せませんね。野盗も貴族も粛清対象です」


 アナスタシアが歩きだす。

 シスター達もそれに追従する。

 アナスタシアが定めた悪を排除するために。


 人も魔物も関係ない。

 ありとあらゆる差別を無くし。

 この世の全ての悪を平等に殺す。


 それが魔物との共存を目指すケテル派のシスターの知られざる裏の顔。

 誰も気づかない悪を人知れず消す。

 誰にも感謝されず、見返りもない。

 見ず知らずの善良な誰かのために手を汚し、精神を擦り減らす。


「さあ、みなさん。行きましょう!正義は私達にあります」


 アナスタシアがシスター達を鼓舞する。


 アナスタシアが全てを決断し、シスター達はそれに従う道具となる。

 道具に罪はない。

 全ての罪は教祖であるアナスタシアが背負う。

 常人には耐えられない罪も良心を持たない彼女には何の重荷にもならない。


「・・・全ては正義のために」


 シスター達がアナスタシアの言葉に返す。


 アナスタシアという絶対的な悪が教祖になったその時から・・・シスター達は決して揺らぐことのない正義を手に入れた。

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