第9話 冒険者アレスと行き倒れ
冒険者のアレスは草原で倒れている二人組を発見した。
「大丈夫かい!?」
慌てて二人のそばに駆け寄るアレス。
(まさか、魔物が?)
アレスが周囲を警戒する。
すると、グーとお腹が鳴る音が聞こえた。
「えっ」
想定外の音に驚くアレス。
「み、水を・・・」
倒れていた一人が消え入りそうな声でアレスに懇願した。
アレスは慌てて持っていた水を取り出し二人に飲ませた。
「いやー、助かりました」
「本当にありがとうございます」
「元気になって良かったよ」
アレスから貰った水とパンで元気を取り戻す二人。
どうやら二人は魔物に襲われたわけではなく、空腹で倒れていたらしい。
「そういえば自己紹介がまだだったね。僕はアレス。冒険者だ」
「えーと、自分は一応勇者ってことになってます」
「私は勇者様に仕えるメイドでメイと申します」
アレスに続いて二人が自己紹介をする。
「勇者さんとメイさんだね・・・って、勇者!?」
驚くアレス。
「まさか本物の勇者様に会えるなんて・・・サイン貰っていいかな?」
「ごめんなさい。そういうのはやってなくて。えへへ」
サインを断りながらも嬉ししそうにする勇者。
「えい」
「痛っ」
メイが勇者の頭にチョップする。
「何するのさ」
「まだ何の実績も上げてない新米勇者だといことを肝に命じて下さい。そんなんだから、道に迷って死にかけるんですよ」
「いや、メイさんが道を知らないなんて思わないじゃないですか」
「私が悪いって言うんですか。勇者様」
メイが笑顔で圧をかけてくる。
「ごめんなさい。僕が悪かったです」
圧に屈する勇者。
「あはは、二人は本当に仲がいいんだね」
「まだ出会って二日なんですけどね」
「まあ、死中を共にしましたから。絆は深まったってことにしておきましょう」
うんうんと頷く勇者とメイ。
死にかけたことをどうにかポジティブに捉えたいみたいだ。
「二人は旅の途中だったのかい?」
「途中というか始まりです」
「先ほど終わりかけましたけどね」
「なるほど、じゃあこれから勇者の伝説が始まるんだね」
「で、伝説」
目を輝かせる勇者。
「そうですね。アレスさんは勇者様の命を救った英雄として語り継がれ、勇者様は出発してすぐに迷って死にかけたと後世まで笑われるでしょう」
「嫌だー。そんな伝説」
頭を抱える勇者。
「こうなったらこれから挽回するしかない」
気持ちを切り替える勇者。
「アレスさん、僕たち草原を超えた先にあるはずの街を探してまして心当たりありませんか」
「そうだね。この辺りの街って言うと、フォザリア王国の城下町のことじゃないかな」
「メイさん、合ってる?」
「そうですね。合ってます」
勇者の言葉に頷くメイ。
「すいません。アレスさん、フォザリア王国への道を教えてもらってもいいですか」
「もちろん。というか僕が直接街まで案内するよ」
「いえ、そんな。そこまで迷惑をかけるわけには・・・」
「いいよ、いいよ。むしろ、また道に迷ったら大変だからさ」
「何から何まですいません」
頭を下げる勇者とメイ。
こうして三人の冒険が始まった。
一時間後。
「着いたよ」
「早っ!?」
「私たちの二日間は一体・・・」
街の入り口でがっくりと肩を落とす勇者とメイ。
「あはは、そうだ。二人は街のどこに用があるだい?良ければそこまで案内するよ」
「いえ、さすがにそこまでは」
「はい。ここからは私と勇者様の二人で探そうと思います」
「そっか気をつけてね。もし困ったことがあったらこの大通りを真っ直ぐ行った先にある冒険者ギルドを訪ねるといいよ」
「えっ」
メイが驚いた顔をする。
「どうしたのメイさん?」
勇者が尋ねる。
「あっ、いえ。実はその冒険者ギルドが目的地だったんです」
「「えっ」」
固まる三人。
そして・・・
「「「あははは」」」
笑った。
「それじゃあ、今度こそお別れだね」
「はい。本当にありがとうございました」
「アレスさんもお気をつけて」
二人に別れを告げた後、アレスは一枚の紙を取り出す。
『討伐クエスト。森で暴れるスライムキング』
「さーて、改めて冒険に出発しますか」
冒険は一期一会。
アレスの冒険はまだ始まったばかりだ。




