第46話 ライブ
女性が冒険者ギルドの扉を開けた。
「みんな楽しんでるー?」
「ルーにゃん、ルーにゃん」
そこはライブ会場だった。
「お姉さんもライブを見に来たのかにゃ?」
マスターが女性に声をかける。
「はい、そうです」
女性が頷く。
「じゃあ、こっちだにゃー」
女性が席に案内される。
席に座った女性は手渡されたペンライトを握りしめる。
「・・・」
女性はライブをしているルイをじっと見つめていた。
・・・。
アレスは冒険者ギルドに来ていた。
理由はもちろんアイドル姿のルーにゃんを目に焼き付けるためだ。
しかし、今アレスの目は別のものに釘付けになっていた。
「どう?似合ってるかー」
目の前に猫耳メイドの格好をしたリズがいた。
リズは冒険者を辞めた。
彼女は戦うのが好きじゃなかったので残当だろう。
しかし、それだけではなかった。
リズは酒場のウェイトレスの仕事に興味があったらしい。
その結果、ウェイトレスとなったリズが爆誕した。
(なんだ?この可愛い生き物は)
アレスの心臓の鼓動は尋常ないほど早くなっていた。
「くっ」
アレスは自身の胸を押さえる。
(く、苦しい。まさか、僕は今日・・・死ぬのか?)
自分の死期を悟るアレス。
「どしたー?同士アレス。ルーにゃんへの応援が足りないぞ」
ハートの盗賊団団員Aがアレスに絡んできた。
彼もまた猫耳メイドの格好をしていた。
「・・・」
おぞましいものを見てアレスの鼓動は正常に戻っていた。
(いや、普通に似合ってはいるんだけど・・・)
それが余計にアレスを苛立たせていた。
「君は料理人のバイトをしているんじゃなかったのか?」
アレスがウザ絡みしてくる団員Aに聞いた。
「クビになったよ・・・」
団員Aが悲しそうに言った。
「早いな」
アレスが言う。
「うん・・・料理の才能がありすぎるから自分の店を開けだって」
「予想の斜め上の理由!」
アレスが思わず突っ込む。
「じゃあ、ウェイトレスをやってるのは?」
アレスが続けて質問する。
「今日はルーにゃんのライブだろ?観に来たお客さんが多くて人手不足なんだ。それで手伝ってる」
団員Aが説明する。
「なるほど。それでユウキも猫耳メイドになっているのか」
ユウキは男だが可愛いらしい顔立ちをしている。
メイド服を着ていても違和感がない。
むしろ、似合っている。
問題なのは目の前の男である。
「・・・?」
アレスに見つめられ団員Aがきょとんとしている。
(こいつはなぜ似合っているんだ?というか、普段と顔が違くないか)
困惑するアレス。
「ふふ、理由を教えてあげるにゃ」
マスターが困惑しているアレスの顔を覗きこむ。
「なんと団員Aさんは特徴のない顔だから化粧映えするんだにゃ!」
衝撃の真実を公開するマスター。
「こ、これが化粧・・・」
もはや何も信じられなくなりそうになるアレス。
「アレスお前もウェイトレスを手伝わないか?化粧手伝ってやるよ」
顔を上げると猫耳メイドの格好したランドルフがいた。
化粧をしたその顔を含めガチでおぞましかった。
「今すぐ脱げ。メイドに対する侮辱だ」
アレスがランドルフにぶちぎれる。
「なんだと!?」
驚くランドルフ。
・・・この男は何を驚いているのだろう?
アレスの言葉は当然の意見だった。
「あきらめましょう。ランドルフさん・・・適材適所です」
ユウキがランドルフに言う。
「ちくしょうっ」
悔しそうにしながらランドルフは酒場から去っていった。
「ユウキ様。こちらの食器の片付けお願いします」
「あ、今行くよ。メイさん」
同じく手伝いをしているメイに呼ばれてユウキがこの場を後にする。
「さ、私たちも働くにゃ」
「はーい」
マスターと団員Aもウェイトレスの仕事に戻った。
今、この場はアレスとリズの二人っきりとなった。
「アレスはルーにゃんを観に来たのか?」
リズがアレスに聞く。
「えっ、あ、うん。そうだね」
衝撃的なことがありすぎてアレスは本来の目的を忘れていた。
「ルーにゃんのこと好きなのか?」
リズが続けて聞く。
「違うよ」
アレスが否定する。
アレスがルーにゃんのライブを見る。
彼女は笑顔で歌ってる。
「ルーにゃん!ルーにゃん!」
ギルドの冒険者達が大声でコールをする。
いや、冒険者達だけじゃない。
「ルーにゃんー」
ライブを観に来たお客さん達も一緒だった。
「・・・」
アレスは黙ってルーにゃんのライブを観ている。
彼女はいつもそうだった。
みんなに笑顔をくれる。
冒険者をしていると辛いことがたくさんあった。
(メンタルの弱い僕は特に・・・)
でも、そんな中でも彼女と話していると・・・その笑顔を見ると心が救われた。
それは僕だけじゃない。
「ルーにゃんー!」
それは今叫んでいる冒険者達も一緒だった。
冒険者達が街の人々を守っているのならルーにゃんは冒険者達の心を守っていた。
だから、僕は・・・たくさんの人を守れる彼女に・・・
「惹かれてた?」
そんなアレスの様子を見てリズが聞く。
「ううん」
アレスが首を振った。
「憧れてた」
それがルーにゃんに対するアレスの嘘偽りのない本心だった。
・・・。
女性がルイのライブを無言で見ている。
ルイは人々を魅了し熱狂させる。
その歌声で。
その可愛らしい笑顔で。
その一生懸命さで。
「「ルーにゃん!、ルーにゃん!」」
観客が叫ぶ。
彼女は老若男女・・・全てを虜にする。
「あり得ない・・・あなたのような全ての人に愛される人間など」
女性の声は観客の熱狂にかき消される。
「あなたのような人間は存在してはいけない・・・だから、あなたは・・・」
女性は嫉妬に狂った目でルイを見る。
「魔王の子だ」
女性が邪悪な笑みを浮かべた。




