第32話 剣の稽古
「今日は剣の稽古をするよ」
アレスがリズに言う。
「えー、それより料理を・・・」
リズはあまり乗り気ではない。
「そうか。なら、僕らの師弟関係はここまでだ。姉さんに弟子入りして料理でもなんでも作るといい」
アレスがリズに言い放つ。
「それじゃあ、意味がない。剣の稽古する!」
リズがやる気を出す。
「うん。分かってくれればいい」
アレスが満足気に頷く。
・・・意味がないってなんだ?
少し気になったが今は稽古を優先することにしたアレス。
「今日は素振りをしてもう」
そう言って、アレスは木刀をリズに渡す。
「これを振ればいいんだな」
リズが勢いよく木刀を振る。
すぽーん。
木刀がリズの手からすっぽ抜けていった。
「あれ?おかしいな」
リズが木刀を拾って再度振る。
すぽーん。
また、木刀がすっぽ抜けた。
「あれれ?」
リズが戸惑う。
「・・・」
その様子をアレスが黙って見ている。
リズにはおかしな癖があった。
剣を振り下ろすとき本来は手に力を込める。
でも、リズは逆に力を抜いてしまう。
「あれー?」
また、力の抜けたリズの手から木刀が離れる。
(なんで、彼女はこんなおかしな癖がついてるんだろ・・・)
アレスは考える。
ふと、決闘の時のことを思い出した。
あの時もリズは木刀を落とした。
だがあの時は・・・
(木刀を振ってすらいなかった)
あのとき彼女は手を半開きにして指にだけ力を込めて曲げていた。
ーー引っ掻きのポーズ。
もしかして・・・
「・・・」
アレスは注意深くリズの手を見る。
「とりゃあ!」
リズが木刀を振る。
すると、どんどん手の形が変わっていく。
決闘の時と同じよう手が半開きになる。
そして手のひらが下を向く。
そうそれはまるで・・・
「引っ掻いてる?」
リズには引っ掻き癖があるようだった。
「リズさん」
アレスがリズの名前を呼んで近づく。
そしてリズの手を掴んだ。
「えっ、あっ」
いきなり手を掴まれてリズが驚く。
「・・・うん、いいよ」
リズがアレスの手を握り返す。
「それでお前の心を癒せるなら」
リズが自身の体をアレスにくっつける。
上目使いでアレスの顔を覗き込む。
そして目を閉じた。
これから何をされてもその全てを受け入れるという意味を込めて。
「いや、なんの話さ」
アレスはリズの手を振り解いて離れる。
「僕は剣のアドバイスがしたかっただけだ」
アレスが説明する。
「そっか。誤解してごめんな」
リズが改めてアレスの手を取る。
「アドバイス。お願いしていいか」
リズがアレスにお願いする。
「う、うん。まずは手の握り方なんだけど・・・」
アレスが剣のアドバイスを始める。
『お前の心を癒せるなら』
アレスはその言葉を聞かなかったことにした。
彼のくだらないプライドがリズの真意を理解することを拒んだ。




