第29話 アレスとゲロ
アレスが目を覚ますと目の前にリズの顔があった。
「!?」
驚いたアレスがリズを思わず突き飛ばす。
「いたっ」
リズが壁に背中をぶつけた。
「ご、ごめん」
アレスが慌ててリズに駆け寄る。
「えへへ、大丈夫だ」
アレスが差し出した手を掴みながらリズが立ち上がった。
「でも、リズさんがどうして僕の部屋に?」
アレスが問いかける。
「昨日のこと忘れたのか?」
リズが逆に聞き返してきた。
「昨日のこと?」
アレスが頭をひねる。
寝起きのせいで頭が働かない。
「アレスは私を泣かせて傷物にしかけたんだ」
「僕はなんてことをしてるんだ!」
リズの言葉にアレスは自らを叱責する。
(よく思い出せ!昨日のことを・・・うっ)
思いだした。
僕は決闘をしたんだ。
そして・・・
「うっ、おえ」
アレスが吐きそうになる。
(思いだした。あの・・・)
失望の眼差しと哀れみの目を。
「うっ」
アレスが口を押さえる。
「もう大丈夫。弟子の私がついてるぞ」
リズがアレスを優しく抱きしめる。
(ああ、そうか。僕は君の師匠になったんだっけ・・・)
リズに優しく包まれアレスの心は・・・
「おえええ」
アレスの吐き気は治まらなかった。
「本当にごめん」
アレスが謝る。
「気にするな。師匠のゲロを浴びるのも弟子の務めだ」
シャワーを浴びて服を着替えたリズが言う。
「そんな務め聞いたことないよ・・・」
アレスがうなだれながら言う。
(女の子にゲロをかけてしまうなんて・・・)
自分は人として色々失ってしまったのではないだろうか?
アレスが頭を抱える。
「さっきの続きはいいのか?」
リズが腕を横に広げる。
「も、もう大丈夫だよ」
アレスがリズの誘いを断る。
「はあ」
アレスがため息をつく。
「アレス・・・さっきのこと気にしているのか?」
リズが心配そうに問いかける。
「そりゃまあ・・・むしろ、君の方が辛かっただろ。ごめん」
アレスの表情がどんどん暗くなる。
「私は別に・・・あっ、そうだ!」
何かを思いつくリズ。
彼女は自身の喉に指を突っ込み・・・
「おえええ」
アレスの顔面にゲロをぶちまけた。
「えへへ、これでおあいこだなー」
リズが口元のゲロを拭いながら笑顔で言った。
「・・・そうだね」
アレスは色々考えるのが馬鹿らしくなった。




