第26話 殺意の果てに
「ふふ、行くぞ!」
リズが戦闘の構えに入る。
竜人であるリズの戦闘スタイルは鋭い爪による引っ掻き攻撃だ。
そのためリズの構えは肘を曲げて軽く握った拳を顔の前に突き出す引っ掻きのポーズだった。
当然、手の力を抜けば・・・
カラン。
リズの握っていた木刀が地面に落ちた。
「ギャハハ、アイツ馬鹿だー」
アンが木刀を落としたリズを笑う。
「・・・」
ランドルフは笑わない。
その目はアレスだけを見ていた。
アレスが剣を構える。
その眼光は瞬き一つせずリズを捉える。
そしてーー消えた。
「ーー!」
ユウキを含め見ていた者達が驚きの声をあげた。
しかし、竜人であるリズにはアレスがしっかり見えていた。
見えてしまっていた。
アレスが物凄い速さでリズに突っ込んでくる。
ーーリズは捕食者だった。
各地を転々としその土地の強い魔物を狩っていた。
魔物達は自らの命を守るために抵抗した。
リズはそれを竜の力で圧倒した。
だが、目の前の人間は違った。
自分の命を守ろうなど微塵も考えていない。
ただ、目の前の獲物を狩る・・・いや、殺すことしか考えていない。
この日、初めて狩る側だった竜が狩られる側になった。
「い、いや・・」
初めて浴びる殺気にリズはすくんでしまっていた。
体は動かないのに目は自分を殺しにくる男を捉え続ける。
殺意の塊が。
避けられようのない恐怖が近づいてくる。
「・・・」
怯えるリズを見てもアレスは手を緩めない。
アレスの人生は後悔の連続だった。
自身の弱さゆえに取りこぼしたものの数は両手で数えても足りない。
この前もそうだ。
自分の弱さのせいで呪術師の魔物に負けスライムに変えられた。
挙句の果てに新入りのユウキの機転で助けられた。
情け無い。
自分が本当に情け無い。
もっと力がいる。
呪術者が呪いを使う前に殺せるだけの速さが。
アレスの目にリズの姿は映っていなかった。
その目に映るのはあの日の呪術師。
(殺す。今度は必ず)
脳裏にさっき聞いた言葉がこびりつく。
『あいつは私に勝った女だぞ』
姉の言葉が。
姉への劣等感が。
アレスを殺意へと駆り立てる。
「た、助けて」
リズがその目に涙を浮かべる。
その言葉も涙もアレスの目には映らない。
「死ね」
アレスが全力で木刀を振るった。




