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第0.9話 魔物の勇者
それは数多の情報の奔流。
あるいは無数の呪い。
外から誰も入って来れないように。
中の存在が外に出れないように。
幾重もの結界が全てを拒む。
結界を超えるたびにスライムは自身の存在を失っていく。
夢。
記憶。
思い出。
肉体。
好きだったもの。
大切な人。
全てが消えた。
彼はスライムとは呼べない何かへと成り果てた。
それでも彼は確かに存在していた。
自身を構成する全てを失っても消えることなく。
勇者の称号。
それだけが彼をこの世界に留まらせていた。
長い長い旅路の果てに。
彼は辿りついた。
これが彼の冒険の終着点。
そこは真っ白な何も無い空間だった。
そこで泣いている少女ーー魔王がいた。
「誰?」
魔王が彼に問いかける。
『僕は勇者。君を助けに来たよ』
彼のその思いが言葉になることは無かった。
それでもその思いは確かに魔王へと届いた。




