第0.5話 スライムと勇者
スライムはミコトの膝の上にいた。
ミコトは四角い箱の描かれた本を置いて代わりに絵本を取り出す。
「これは千年前の勇者の物語」
ミコトが絵本に書かれた内容を語り出す。
千年前。
悪い魔王が悪い人間の邪悪な願いをどんどん叶えていきました。
そのせいで世界は大変なことになってしまいました。
そんな中、一人の人間が立ち上がったのです。
それが勇者様です。
勇者様は魔王と死闘を繰り広げ、ついに大きな四角い箱に閉じ込めることに成功しました。
地下にある四角い箱。
あの中に封印されている限り魔王は人の願いを叶えることができません。
「こうして世界に平和が訪れたのです」
ぱたり、と読み終えた絵本を閉じるミコト。
「どうでしたか、スライムさん。勇者の物語は」
ミコトがスライムに尋ねる。
『僕が知っている勇者の話と違う』
人の願いを叶える邪悪な魔王が出てくるのは一緒だ。
でも、スライムの知る勇者の物語には封印なんて話は出てこなかった。
逆にスライムの知る物語にいた姫がミコトの語った物語にいない。
「勇者の物語は国ごとに脚色されていて、人の願いを叶える魔王を勇者が倒すという部分は同じで、それ以外は異なるんですよ」
ミコトがスライムの疑問に答える。
「スライムさんは四角い箱の正体を知りたがっていたのでこの絵本を読まさせていただきました」
『そうなんだ』
その言葉を聞いてスライムは暗い顔をする。
スライムは助けを求めている声の主を助けたいと思っていた。
しかし、先程の物語を聞くかぎり声の主の正体はーー
魔王。
世界を混沌に陥れ勇者に倒された正真正銘の悪。
助けるべき存在じゃない。
スライムは思い出す。
助けを求めている声を。
地下で四角い箱を触った時に見た泣いている少女のことを。
スライムには彼女が魔王だとは思えなかった。
「魔王は悪い人じゃないと思います」
『えっ』
ミコトの言葉にスライムが驚く。
「この本に書かれていました」
ミコトが最初に持っていた四角い箱の絵が描かれた本を差し出す。
「千年前の勇者様が書かれた本です」
『勇者の書いた本!?』
スライムが驚く。
「勇者様は以下の通り書かれています。私はーー」
私は本物の勇者ではない。
あれは悪ではなかった。
ただ、人の願いを叶える力を持っていただけだ。
悪いのは邪悪な願いを持ってしまった人間か?
違う。願うことは罪ではない。
生きていれば誰でも魔が刺すことくらいある。
問題なのはそれは叶えてしまう存在がいたこと。
願った者も叶えた者も悪くない。
誰も悪くない。
あれは誰よりも優しかった。
その優しさが世界を壊した。
だから私は世界を守るためにあれを魔王として封印した。
私は本物の勇者ではない。
何よりも大切だった存在を守れなかった。
この手でーー(紙が滲んで読めない)
そんな私が勇者であるはずがない。
私は偽物の勇者だ。
真の勇気を持つ者よ。
魔王の封印を解け。
さすればそなたはーー
「真の勇者となるだろう」
『真の勇者!』
その言葉にスライムがざわつく。
「スライムさんは魔王の封印を解きますか?」
ミコトがスライムに問いかける。
『もちろん』
スライムは自分の意思を伝えるために体を動かそうとする。
『あれ?』
スライムは気付いた。
これまで自分は体を動かしていなかった。
なのに自分の考えがミコトに伝わっていたことに。
『どうしてだろ?』
疑問を浮かべるスライム。
「あっ」
はっ、とした顔をするミコト。
見る見る顔色が悪くなる。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめ・・・」
急に泣きながら謝り出すミコト。
『えっ、えっ』
何が何だか分からず戸惑うスライム。
「気持ち悪くてごめんなさい。もう心を読みません」
『心を読む?』
ミコトの言葉に反応するスライム。
「もうあなたの考えを読んだりしません。だから許し・・・」
『凄いよ!ミコトさん』
スライムが興奮しながら『言う』。
『僕これまで誰かと会話したこと無かったんだ。今も僕の考えてる事が分かるの?』
スライムがミコトに『尋ねる』。
「は、はい。分かります」
『うわー、これが会話・・・僕、今すごく嬉しいよ』
スライムが満面の笑顔で『言う』。
そんなスライムを見て固まるミコト。
そして・・・
「はい、私も嬉しいです」
ミコトが嬉しそうに笑った。




