第151話 最終決戦の六日前(ユウキ視点)
魔王が誕生したその日。
ユウキは夢を見た。
そこには勇者に憧れたあのスライムがいた。
『・・・』
スライムがじっとユウキを見つめている。
『・・・!』
そこであることに気付いたスライムが自身の体を動かす。
『ごめん、ごめん。喋れないのを忘れていたよ』
スライムが体を動かしたことでユウキに意思が伝わった。
『君に読んでもらいたい本があるんだ』
スライムが一冊の本を取り出した。
それはスライムが書いた本だった。
「・・・」
ユウキがその本を広げ、読み始めた。
・・・。
一匹の幸せを運ぶ鳥がいました。
その鳥は世界を飛び回り世界中の人達に幸せを運びます。
世界中の人達を幸せにして役目を終えた鳥は・・・鳥かごに閉じ込められてしまいました。
けれど、その鳥はそんな状態になっても人間を愛していました。
幸せを運ぶ鳥は今も人間達を見守っています。
狭い狭い鳥かごの中から・・・
おしまい。
「・・・」
ユウキが本を閉じた。
『どうだったかな?』
スライムが聞いた。
「・・・悲しい話だと思いました」
ユウキが答えた。
『そうだね・・・』
スライムが悲しそうな顔をした。
『どうやら僕には本を書く才能がなかったみたい』
スライムが自身の実力不足を認めた。
『僕にはあの本の作者みたいに誰かに希望を与える本は書けなかった』
スライムは思い出す。
あの大好きだった本を・・・
「でも、スライムさんの思いはしっかり伝わりました」
ユウキが本の感想を言う。
「この鳥を助けたいんですよね?」
ユウキがスライムに問いかけた。
『・・・うん、そうなんだ』
スライムがユウキの言葉を肯定した。
『ねぇ、ユウキ。覚えているかい?』
スライムが聞く。
『あの日・・・無の世界で出会った魔王が君になんて名乗ったか」
スライムの言葉を聞いて、ユウキはこの世界に来る前のことを思い出す。
「天使を・・・名乗りました」
ユウキが答えた。
『うん。そうだね・・・天使がなんなのかは知っているかい?』
スライムがユウキに聞く。
ユウキは首をふった。
『天使はね、創作上の存在で神の言葉を代わりに伝えてくれる存在なんだ』
スライムが天使について説明してくれる。
『だから、あの夢を君に見せた神様は願ったんだ』
スライムが神の願いを代弁する。
『天使が神と人間をつないでくれることを』
スライムが真っ直ぐユウキを見る。
『神様は天使が迎えに来てくれるのを待っている』
スライムの言葉を聞いてユウキは・・・
「・・・!」
自身が生まれた意味を知った。
「僕に任せてください・・・なんたって、僕はあなたなんですから!」
ユウキが笑顔で言った。
『ユウキ、それは・・・』
スライムのその言葉が伝わる前にユウキは夢から覚めてしまった。
・・・。
・・・。
ユウキの心の中。
少しずつスライムが消えていく。
『違うんだ、ユウキ・・・君は僕じゃない』
あの日、無の世界にたどり着いたスライムはそのまま・・・死んでしまった。
それを見た神様はその事実に堪え切れず、スライムを死ななかったことに・・・代わりの存在を生み出してしまった。
それが天使であり・・・ユウキだった。
それは、神様が叶えていい、ささやかな願いの範疇を超えていた。
『ユウキが生まれた日から勇者の嘘はこれまで以上にほころびが生じ・・・世界の終わりは早まった』
神様が生んだ・・・正真正銘の魔王の子。
それがユウキだった。
『けれど、僕は君が生まれたことが間違いだったとは思わない』
無の世界で生まれ・・・こちらの世界に飛ばされたユウキ。
その際に死んだスライムの魂は呪いとなりユウキにとりついた。
スライムはずっとユウキの中からユウキのことを見守っていた。
そんなスライムが願う。
『君が僕とは違う結末にたどり着くことを』
『そして、幸せな始まりが待っていることを』
スライムがユウキの中から消えた。
ユウキの幸せと・・・たった一つの願いを託して。




