第146話 贖罪の旅
話は少し飛んで冒険者達が魔王を倒した後の話。
世界が救われてから少し経ったある日のこと。
「今までありがとうございました」
アナスタシアが教会のシスター達に別れを告げた。
彼女はシスター服を着ていなかった。
アナスタシアは教祖を・・・シスターをやめた。
そんな彼女の行く手には彼がいた。
「本当に良かったのか?」
吸血鬼がアナスタシアに聞いた。
彼は最終決戦のあのとき消える直前に、アナスタシアから血を与えられて一命をとりとめた。
その後もアナスタシアから血をもらい、ついに完全復活を果たした。
「はい、大丈夫です」
アナスタシアが言った。
「・・・」
吸血鬼がアナスタシアの首元を見る。
そこには吸血鬼に吸われた跡が残っていた。
「・・・吸いますか?」
吸血鬼の視線を感じたアナスタシアが首を差し出す。
「いや、大丈夫だ・・・体は治った。もう、血は吸わない」
吸血鬼が言った。
「そうですか・・・少し寂しいですね」
アナスタシアが残念そうな顔をする。
「・・・」
吸血鬼がアナスタシアの顔を見つめる。
吸血鬼と再会したアナスタシアは少しずつ感情が蘇り始めた。
その表情は演技だったが・・・
(今はそれで構わない。少しずつ取り戻していけばいい)
吸血鬼は思った。
吸血鬼が顔をあげる。
二人は今日、フォザリア王国を旅立つ。
その旅の目的は・・・
「私は償えるだろうか・・・」
吸血鬼はこれまでの罪を償うための旅に出ることに決めた。
自分が殺めてしまった人達と・・・
そのせいで人生が狂ってしまった人達に・・・
贖罪するために。
「大丈夫ですよ。あなたなら・・・」
鏡写しの代弁者・・・アナスタシア。
彼女が罪を犯したあなたに優しい言葉をかけるなら・・・
それはあなたが本気で罪を償いたいと思っている証拠。
「私がついていますから」
アナスタシアが微笑みかける。
「ありがとう・・・アナスタシア」
吸血鬼がお礼を言う。
ここから吸血鬼の贖罪の旅が始まる。
「その前にひとつ」
アナスタシアが言った。
「なんだ?」
吸血鬼が聞いた。
「吸血鬼さんの名前はなんですか?」
「・・・あっ」
吸血鬼がようやく気付いた。
自身が名前を名乗っていなかったことに。
「・・ヴァンだ」
ヴァンが名前を名乗った。
「末永くよろしくお願いしますね、ヴァンさん」
「ああ、よろしくな。アナスタシア」
二人の長い長い旅が始まった。




