第128話 少女が死んだ日
入口の扉が開いた
『あなたを助けにきました』
入ってきたのは吸血鬼ではなかった。
シスター服を着た女性達だった。
「あの人・・・吸血鬼は?」
少女が聞いた。
『私たちが殺しました』
その言葉を聞いて・・・
少女の中に芽生えていた心が・・・死んだ。
・・・。
少女とシスター達が向かい合う。
(この子は吸血鬼を魔物ではなく・・・人と呼んだ)
シスターはそんな少女に聞いてみたくなった。
「吸血鬼は最後に言っていました」
シスターが吸血鬼の言葉を話す。
『この先の部屋に人間の女の子がいる・・・助けてやってくれ』
シスターが少女を見る。
「あなたから見て吸血鬼はどんな『人』でしたか?」
シスターが聞いた。
「あの人は屋敷の住人達・・・私の家族を殺した悪人です」
少女が話す。
「けれど、彼は最後に私を助けてとあなたたちに頼んだ」
少女は続ける。
「彼は私と出会って悪人ではない『何か』になった」
少女がまっすぐシスターを見た。
その心を探るように。
「私はそう思います」
そんな少女を見てシスター達は動揺した。
少女はずっと泣いていた。
(この子は吸血鬼の死を悲しんでいる)
シスター達はそう思った。
・・・その涙が演技だとは夢にも思わない。
少女の心はさっき死んだ。
今、シスター達の目の前にいるのは吸血鬼に出会う前の壊れた少女。
けれど、シスター達は気づけない。
見世物の少女は学んでしまった・・・『演技』を。
「吸血鬼を殺した私達は悪ですか?」
シスターが少女に聞いた。
「あの人はあなたたちに私を助けてくれと頼んだ・・・あなたたちが悪人なら頼むはずがない」
少女は答える。
「あなたたちは紛れもない・・・『善人』だ」
「・・・!」
少女の言葉にシスター達は衝撃を受ける。
それは彼女達が一番言われたかった言葉だった。
・・・少女に心はない。
ただ、演じただけ。
演じるには真似る対象が必要だ。
少女は目の前のシスターの真似をした。
少女がシスターに優しい言葉をかけたのは・・・シスターが善良だったから。
善良なシスターを演じた結果に過ぎない。
「・・・っ」
シスター達が涙を流す。
少女の優しい言葉に心を動かされたのだ。
そして、後悔した・・・吸血鬼を殺したことを。
(きっと、あの吸血鬼はこの優しい少女と出会い『善人』になった・・・)
シスター達は思った。
(私達は殺すことでしか悪を裁けなかった・・・けれど、この子なら・・・)
シスター達は少女から感じた・・・新たな可能性を。
「私達と一緒に来ますか?」
シスターが手を差し伸べた。
「・・・」
少女は無言でその手をつかんだ。
・・・。
吸血鬼が見つけたとき・・・四肢の腐った少女は死んでなどいなかった。
なぜなら、生まれてすらいなかったから。
心のない彼女は見世物で人形だった。
けれど、少女は吸血鬼に救われ・・・心をもらった。
少女は人形から生き物になった。
・・・その心は今日死んだ。
生き物から人形・・・見世物に戻った。
この日、少女は本当の意味で死んだ。




