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第13話 神様の魔法

 これはユウキがランドルフに負けて勇者じゃなくなった直後のお話。


「あれ、この時点では僕まだユウキって名付けられてないよね」

「実はあれ二回目の命名なんです。今回のお話の最後にユウキ様は意識と一緒に今日の出来事の記憶も吹っ飛ぶので」

「酷いネタバレ!?」


 今回の話の矛盾をつくユウキと雑に解決?するメイ。


「まあ、その話は置いといて今回の話の本題に入りますね」


 前置きを入れるメイ。


「ユウキ様には神様の魔法がかかっています」

「そんな凄い魔法が僕に!?」


「いえ、別に凄くはないです」

「凄く無いの?神様の魔法なのに?」


「はい、ユウキ様の姿が他人から男に見えるようになるだけなので」

「今なんと?」


 メイのとんでもない発言に思わず聞き返すユウキ。


「伝承に伝わる勇者が男だったのでそれに合わせてユウキ様も男に見えるようにしたんです。神様の粋な計らいですね」

「そうなんだ。じゃあ、もっと男らしく振る舞うようにしなきゃだね」


 こほん、と咳払いをするユウキ。


「俺はユウキ。元勇者のハードボイルドな男だぜ」

「ユウキ様の思う男らしさはよく分かりませんが問題なのはこれからです」


「男に見えることが問題じゃないの?」

「はい、問題なのはこの魔法が不完全だということです」


「不完全?」

「はい、全ての人に男に見える訳ではありません」


「じゃあ、女に見える人もいるの?」

「半々くらいの割合で」


「まさかの二人に一人!?」


 驚くユウキ。


「はい、ですのでめちゃくちゃ不便です」

「そうだね・・・トイレどちらに入ろう」


 頭を悩ませるユウキ。


「ですが、運がいいことにこのギルドのみなさんはユウキ様を男だと思っているようです。なので、普段から男らしく振る舞っていれば良いかと」

「確かに。さっきの様子だと僕のこと完全に男扱いだったよね。ランドルフさんなんて僕の頭を容赦なく木刀で殴ったしね」


 うんうん、と頷くユウキ。


「あっ、そういえば。出会った時の会話的にメイさんも僕のこと男に見えているんだよね」

「いえ、私には男性と女性の両方の姿が見えています」


「えっ、そうなの」

「はい、私の目はそういう誤魔化しは通じないので」


「ふーん、そうなんだ。ところで、メイさんってこの世界に来る前に会った天使さんでいいんだよね」

「はい、そうですけど・・・どうかしましたか?」


「い、いや、なんでもないんだ。変なこと聞いてごめん」

「ふふ、変なユウキ様」


 くすくす、と笑うメイ。


「うーん、でも本当に男に見えてるのかな?」


 メイと別れた後、ユウキは一人で歩いていた。


「全部メイさんの嘘だったりしないかな」


 メイを疑うユウキ。


「よーし、試してみよう」


「団員さーん」

「!?」


 ハートの盗賊団の団員Aに抱きつくユウキ。


(腕に何か柔らかい感触が・・・いや、落ち着け。ユウキは男だ。男?男ってなんだ?)


 脳に深刻な混乱をきたす団員A。


「ありがとうございましたー」


 お礼を言って団員Aから離れるユウキ。


「団員さんは僕が女に見えてる・・・と」


 紙にメモをとるユウキ。


「よし、この調子で確かめていくぞー」


「・・・」


 団員Aはユウキがいなくなった後も動けずにいた。


「あれ、固まってどうしたっすか?」


 盗賊団の仲間達が固まったままの団員Aに声をかける。


「俺、ユウキちゃんに告白しようと思うんだ」

「へー、はっ!?ユウキは男っすよ」


 目を覚ませー、と団員Aの体を揺さぶる。


「ユウキちゃん・・・」


 心ここにあらずの団員A。


「ふむ、完全にハートを盗まれているな。ユウキの奴盗賊の才能があるんじゃないか?」


 ユウキに感心するお頭。


「そんなこと言ってる場合っすか!?・・・こうなったら歯食いしばれっす。とりゃー」

「ぐはっ」


 ドロップキックを喰らい体をくの字にして吹っ飛ぶ団員A。


「ふー、これでさすがに目が覚め・・・」


「なんだ人が吹っ飛んできたぞ」

「おい、こいつ息してないぞ」


「えー」


 慌てふためく盗賊と冒険者たち。


 このような事件が冒険者ギルドのあちこちで発生していた。

 全てはユウキがところ構わず抱きついたことに起因する。


「ふむふむ、なるほど」


 当の本人は今回の調査結果を書いた紙に夢中で気づいていない。


 調査によって酒場の半数近くはユウキのことが女性に見えていることが分かった。

 女性に見えているにも関わらずユウキを男だと思い込んでいるのは一人の冒険者が放った言葉が原因だった。


『よく見ろ。あいつ男だぞ』


 この言葉のインパクトがでか過ぎてユウキが男であるという共通認識ができてしまった。


(ユウキは今日も可愛いな・・・だが男だ)

(あんなに可愛い子が女の子のはずがない)


 うんうん、と頷く冒険者達。

 もう少し自分の目を信じてもらいたいものである。


 それから、しばらしくして・・・


「きゃー、なんですか。これ!」


 ギルドの惨状を見て驚くルイ。


「待っていたにゃ。ルーにゃん。これを」


 マスターがルイに衣装とマイクを渡す。

 その後・・・


「みんなー、ルーにゃんだよ」


 アイドル姿のルイが登場する。


「「ルーにゃん、ルーにゃん」」


 冒険者達が一斉にルイへのラブコールを始める。


「ルーにゃん、マジ天使!」

「うわー、団員Aが生き返った」


 こうしてルイのアイドルパワーによって、この日の惨状は冒険者達の記憶から綺麗さっぱり消え・・・


「ルーにゃん、最高ー」


 ルーにゃんとの楽しい思い出だけが残ったのだった。


「わー、ルーにゃんが歌ってるー」


 ルイの歌声に惹かれてのこのこ出てくるユウキ。

 すると・・・


「うわあああ」


 頭上から叫び声が聞こえてきた。


「えっ」


 上を見ると冒険者の男がユウキ目掛けて落っこちてきた。


「あああああーー」


 叫び声を上げるユウキ。

 近づいてくる男を見上げながらユウキはメイの言葉を走馬灯のように思い出していた。


『今回のお話の最後にユウキ様は意識と一緒に今日の出来事の記憶も吹っ飛ぶので』


 男が落ちてきたのは偶然ではない。

 彼はユウキに抱きつかれた場面を妻に見られて口論に発展。

 結局、誤解を解くことが出来ず二階から突き落とされたのだった。

 つまり、この結末はユウキの自業自得である。

 突き落とされた冒険者の男は可哀想だが・・・


「ぎゃふん」


 落ちてきた男の下敷きになって意識を手放すユウキ。

 薄れゆく意識の中で床に突き刺さった窓ガラスの破片が目に入った。


(あー、そういえば一つ気になることが・・・)


 窓ガラスの破片に映るユウキの姿はあの真っ白な空間で出会った天使にそっくりだった。

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