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偽物勇者とメイド天使  作者: ああああいい
第4章 ヒーロー編
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第113話 吸血鬼と人間

「ふむ、もう全員死んでしまったか」


 おびただしい血の中で吸血鬼が言った。


「あっ、そうだ。忘れるところだった」


 吸血鬼が落ちている死体を拾った。


「ちょっと失礼」


 そう言って、死体の血をすすった。


 彼は血を吸うために人を殺しているのではない。

 人を殺すついでに血を飲んでいた。


「・・・ん?なんだ、この臭いは?」


 悪臭に吸血鬼が顔を歪める。


 血の匂いではない。

 血の匂いは吸血鬼にとっては心地の良いものだった。


(これは死体の腐った臭い?)


 吸血鬼が殺した人間達の匂いではない。

 彼らはまだ腐っていない。


「臭いはこの部屋からか・・・」


 吸血鬼がドアの取っ手に手をかけた。

 そして開けた・・・開けてしまった。


「おええええ」


 扉の先にあったものを見て吸血鬼が吐いた。


(なんだ!?あれは!?)


 それは・・・人間だった。

 四肢は腐り、目にはウジが湧いていた。


(気持ち悪い、気持ち悪い)


 吸血鬼は血が大好きだった。

 人間なら気味悪がる血塗れの臓器も吸血鬼には宝石にも勝る芸術品だ。


 だが、これは違う。

 吸血鬼の許容範囲を超えていた。


「おえー」


 吐き気が止まらない。

 視覚の気持ち悪さ。

 悪臭による不快さ。


(耐えられん。早くこの部屋を出ねば・・・)


 そのとき、人間の目に湧いていたウジが人間の口に落ちた。

 そして、人間の口が動いた。


『むしゃ、むしゃ』


 ・・・人間は生きていた。

 そして、ウジを食い始めた。


「はあー!?」


 吸血鬼が驚きの声をあげた。


(なんで?なんで、生きている?)


 理解できないものを見て吸血鬼は恐怖する。


「アハハハ」

「はっははは」

「わはっははは」


 どこからともなく複数の笑い声が聞こえてきた。


「・・・!」


 その声に吸血鬼が驚く。


 その声は当然吸血鬼でもなければ、目の前の人間のものでもない。

 ・・・死んだはずの屋敷の住人達の声だった。


 人間は生きているのではない。

 屋敷の住人達に生かされていたのだ。

 ・・・その人間は見世物だった。


 体が腐っていく様を・・・

 少しずつ死んでいく様を・・・

 屋敷の住人達は楽しんでいたのだ。


「おえええー」


 吸血鬼がまた吐いた。

 今日、吸った血は全て吐き出してしまった。

 いや・・・むしろ、吐き出してしまいたかった。

 こんなおぞましいものを見て楽しむ生き物の血など、飲みたくもなかった。


『もぐもぐ』


 人間は気にした素振りもなく、ウジを食べ続ける。


「化け物・・・」


 吸血鬼がつぶやく。


 この日、吸血鬼は自分のような悪よりもおぞましい人間がいることを知った。


「・・・っ」


 吸血鬼が人間の首を絞めようとする。

 こんなおぞましい存在を残しておきたくなかった。

 早く消し去りたかった。


『ガブッ』


 人間が吸血鬼に噛みついた。


「・・・!?」


 吸血鬼が慌てて手を引っ込める。


 ・・・その拍子に人間がうつ伏せに倒れてしまう。


(て、抵抗した?)


 吸血鬼が驚いた。


「お、お前は・・・そんな状態でもまだ生きたいのか?」


 吸血鬼には信じられなかった。

 こんな生き地獄の中でそれでも生きようとするなど。


『うー、うー』


 人間は元の姿勢に戻ろうと体を動かしていた。

 そして、なんとか仰向けになることに成功した。


「・・・っ、・・・!」


 吸血鬼が思わず目を逸らした。


 見世物だった人間は・・・何よりも自身の姿を見せることを優先した。

 自分は何も見えないくせに。


「狂ってる・・・お前も、この屋敷の住人も」


 吸血鬼が人間に言う。


『・・・』


 人間は何も言わない。

 耳も聞こえず・・・

 喋ることもできず・・・

 その身が腐り落ようとも・・・

 生きることを選んだ。


 そんな人間にとどめをさすことなど・・・吸血鬼にはできなかった。


「私達のことは殺したくせに?」

「命乞いしたのにお前は殺した」


 殺したはずの住人達の声がした。


「・・・っ」


 吸血鬼が首をふり、幻聴をふりはらった。


 吸血鬼が人間の頬を優しくなでた。

 もう殺す気はない、という思いを込めて。


『・・・』


 人間は何も言わない。

 頬をなでる吸血鬼の手を黙って受け入れた。


(・・・)


 この人間は殺さない。

 だが、このおぞましい存在をそのままにしておくことはできない。


「すまない、少し痛むぞ」


 吸血鬼が人間の頬を少しつねった。

 すると、人間が頭を少し前に倒した。


 吸血鬼の意図が無事伝わったらしい。

 そのことに吸血鬼が安堵する。

 だが、これで終わりではない。


「それじゃあ、始めよう」


 吸血鬼が人間の頬から手を離す。

 そして腐った四肢をもいだ。


『・・・』


 人間は抵抗しない。

 吸血鬼のことを信じたのだ。


 吸血鬼がウジの湧いた眼球をくり抜いた。


「これで最後だ」


 吸血鬼が人間の口に自身の血を垂らした。


 吸血鬼に血を与えれた人間は、吸血鬼となり蘇る。

 ・・・しかし、人間は運悪く吸血鬼になれなかった。


(いや、違うな。運が良かったんだ)


 人間は幸運だった・・・人間として蘇ることができたのだから。


「・・・」


 人間がきょとんとしている。

 体が治ったことに驚いているのだろう。


 人間が吸血鬼を見た。


「はじめまして、私はこの屋敷に住む人達の娘です」


 人間が自己紹介をする。


「私の名前は『奴隷』です」


 それは・・・名前ではなかった。

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