第12話 クレアと探し物
「ふっふーん。薬草、薬草、傷治すー」
大きな籠を背負った女の子が歌を歌いながら歩いている。
彼女の名前はクレア。
この街のギルドに所属する冒険者だ。
「あっ、クレアちゃん。薬草ありがとね。おかげでお爺ちゃんの腰が治ったわ」
「クレアちゃん、この前は猫探し手伝ってくれてありがとう」
「クレアちゃん、クレアちゃん・・・」
行き交う人々がクレアを見かけるたびに声を掛けてくる。
その言葉の多くは彼女への感謝に満ちていた。
(ふふ、みなさん元気そうで良かったです)
クレアは満面の笑顔を浮かべながら冒険者ギルドの扉をくぐった。
「ルーにゃんさーん。頼まれてた薬草取ってきました」
「ありがとうございます。クレアさん」
受付嬢のルイはクレアから薬草の詰まった籠を受け取る。
「さーて、次はどのクエストを受けようかなー」
クレアは採取クエストと書かれてた張り紙を確認する。
ギルドには大きく分けて三つのクエストが存在する。
討伐、護衛、採取。
クレアはこのうち採取を専門とする冒険者だ。
「クレアさん・・・」
クレアがクエストを選んでいると、今にも泣き出しそうな少女が話しかけてきた。
「何があったの?」
クレアはしゃがんで目線を少女と合わせる。
「今日ね、おままごとをしたの。それでね、内緒でママの指輪を借りたの。でも、気づいたら無くなってて。うわーん」
泣き出してしまう少女。
「大丈夫。お姉ちゃんが必ず見つけてあげるからね」
少女の頭を撫でてあやすクレア。
クレアは普段からクエストとは別に街の人のお願いを聞いてあげていた。
これはクレアがシスターだった頃から行っていた慈善活動の一つだ。
クレアの夢は誰もが笑顔で暮らせる世界を作ること。
クレアは今日もみんなの笑顔のために頑張る。
そう、頑張っていたのだが・・・
「駄目だ。見つからない・・・」
時は夕刻。
子供はお家に帰る時間だ。
「うっ、うっ」
再び泣き出しそうになる少女。
「あわわわ」
慌てるクレア。
(どうしよう。このままじゃ、この子の笑顔を守れない・・・)
そんな二人にメイが声をかける。
「落としたのはこの指輪じゃありませんか」
「あっ、ママの指輪だー」
少女はメイから指輪を受け取った。
「排水溝に落ちてました。友達と追いかけっこしてるときに落としたようですね」
「そっか、あの時に。メイドのお姉さんありがとう。クレアさんも一緒に探してくれてありがとう」
少女は二人に礼を言い帰路に着く。
その場にはクレアとメイの二人だけが残された。
「それじゃあ、私達もギルドに帰りましょう。クレアさん」
「はい。えーと」
「ごめんなさい。自己紹介がまだでしたね。新しく冒険者ギルドでお世話になることになりましたメイドのメイです。以後お見知りおきを」
「く、クレアです。よろしくお願いします」
自己紹介を済ませ帰路に着く二人。
「メイさんは猫耳つけて無いんですね」
「私はユウキ様専用のメイドなので」
「ユウキ?」
「私のご主人様です。ギルドに着いたら紹介しますね」
それからしばらくして何かを思い出したようにメイが口を開く。
「クレアさんはシスターなんですよね。街の人が話してました」
「はは、元ですけどね。この街には教会がありませんから」
そんなたわいもない会話をしていると目的地のギルドが見えてきた。
「初めまして、クレアさん。新しく冒険者になったユウキです」
ギルドに着いたクレアは早速メイの紹介でユウキに会うことになった。
そこでクレアがユウキに抱いた第一印象は・・・
「わー、可愛い女の子」
「ふふ、やっぱりクレアさんもそう思うかにゃ」
黒猫メイドのマスターが含みを持たせた言い方をしてくる。
「なんと、ユウキさんは男だにゃ!」
「えー、そうは見えません」
驚くクレア。
「よく見ると男だって分かるぜ」
近くを通りかかった冒険者が補足する。
「なるほど?」
クレアは言われた通りユウキをじっくり観察する。
華奢な手足に出るところは出てる女性らしい体。
(どこからどう見ても女の子だよね?)
首を傾げるクレアだった。