第109話 クレアと願い
冒険者ギルド。
いつもは騒がしいギルドが今日は静かだった。
「寂しくなるな・・・」
冒険者の一人がつぶやいた。
・・・クレアが冒険者をやめた。
彼女はシスターとして教会に復帰することになった。
だから、彼女がギルドにくることはもうない。
詳しいことはアナスタシアが教えてくれた。
なぜ、クレアは教会をやめたのか。
パテル派の教祖であるマリアがどれだけクレアを愛していたのか。
「このままじゃ駄目にゃ!」
マスターが大声で言う。
「クレアさんはマリアさんと再会できたんだにゃ。むしろ喜ぶべきだにゃ」
マスターがみんなに言い聞かせる。
「そうだよな・・・そう、その通りだ!」
冒険者達が叫ぶ。
「二人の再会と・・・クレアさんの新しい門出を祝おう!」
冒険者達が少しずつ元気を取り戻していく・・・
「・・・俺のせいだ」
祝いムードに水をさす人物が一人。
・・・ランドルフである。
「俺がクレアを連れ帰ったせいで・・・」
ランドルフが自身の過去の行いを反省していた。
その顔は今にも死にそうなほど真っ青になっていた。
「ランドルフさんのせいじゃないですよ」
「ええ、ユウキ様の言う通りです。元気を出してください」
ユウキとメイがランドルフの左右に座り慰めている。
まさに両手に花(片方は男だが)。
(普段ならからかってやるところだが・・・)
冒険者達がランドルフを見る。
「俺のせいで二人は離れ離れに・・・」
ランドルフが懺悔を続ける。
「俺が二人の仲を引き裂いたんだ!」
ランドルフが自身の頭を壁に叩きつける。
「ランドルフさん!?」
「駄目です。そんなことをしては!」
ユウキとメイが慌ててランドルフの自傷行為を止める。
(・・・っ)
痛々しい姿のランドルフ。
とてもじゃないがからかえない。
励まそうにも奪われたクレアの時間は戻ってこない。
冒険者達は歯を食い縛ることしかできなかった。
(頼む。ユウキさん、メイさん・・・)
冒険者達は二人に託した。
しかし、その願いも虚しく・・・
「もうやめて・・・死んじゃうよ。ランドルフさん」
ユウキが泣きながらランドルフにすがる。
「もう無駄です。一緒に入る墓を考えましょう」
メイにいたっては諦めるどころか一緒に死ぬつもりだ。
「姉さん!ランドルフさんの弟子だろ。どうにかできないのか!」
アレスが叫びながらアンに尋ねた。
「・・・私にできると思うか?」
アンが逆に聞いてきた。
「ごめん・・・」
アレスが素直に謝った。
(がさつな姐さんに説得なんてできるわけなかった)
アレスは自分の愚かさを呪った。
「・・・」
アンは無言で自傷行為をするランドルフを見つめていた。
(弟のときも・・・今回の先生に関して私はなにもできない)
普段は明るく振る舞っているアンだが、内心では自身の無力さを痛感していた。
(このままじゃ駄目だわ!・・・帰ったら筋トレしましょう)
彼女は脳みそまで筋肉でできているのかもしれない。
「ちくしょう!ランドルフが惚れているユウキでも止められないなんて・・・どうすればいいんだ!」
冒険者の一人が叫んだ。
「えっ」
その言葉を聞いたランドルフが一瞬固まる。
・・・そのとき、ギルドの扉が開いた!
「何してるんですか・・・ランドルフさん!」
そこにいたのはシスター服を着たクレアだった。
「クレア!?」
「クレアさん!?」
「クレアちゃん!?」
冒険者達が一斉にその名を呼んだ。
「全くなに馬鹿なことをしているんですか」
クレアが真っ直ぐランドルフの元へ歩いていく。
「ほら、傷口を見せて。治してあげますから」
クレアがランドルフの治療を始める。
「・・・っ、・・・」
ランドルフが口をパクパクさせている。
驚きのあまり言語を失っていた。
「ど、どうしてクレアさんがここに?」
冒険者達がクレアに聞く。
「ギルドの常駐シスターとして教会から派遣されてきました」
クレアが答える。
「みなさん、改めてよろしくお願いします」
クレアが挨拶をした。
「や、やったー!!」
ギルドの面々が大声で喜んだ。
「で、でも俺のせいでお前は・・・」
ようやく言語を取り戻したランドルフがクレアに話しかける。
「はあー」
クレアがため息をついた。
「アレスさんも言ってたでしょ・・・『あんたは間違ってない』って」
クレアが治療を終えたランドルフの頬を引っ張る。
「みなさんに出会えて私は幸せでした」
クレアが話す。
「私はフォザリア王国のみなさんが大好きです」
クレアが続ける。
「だから、私を連れてきてくれて・・・ありがとう。ランドルフ」
クレアが屈託のない笑顔を見せた。
「あ、あ・・・」
ランドルフの目から涙がこぼれる。
クレアのその言葉でランドルフは救われた。
「ラ、ランドルフさんはクレアさんが好きなんですか?」
ユウキがこの世の終わりみたいな顔で言った。
「「いや、そういうんじゃないから」」
クレアとランドルフが真顔でハモリながら言った。
「ユウキ様、少しは恋愛脳を抑えてください」
メイがユウキに注意した。
「ご、ごめんなさい」
ユウキが謝った。
「あのー、すいませーん。」
ギルドに声が響き渡る。
声の主は街の住人だった。
「クレアさんに助けてもらいたいことがありまして・・・」
「はい、今行きます」
クレアは声の主と共に出て行った。
・・・クレアとマリアは再び離れ離れになった。
クレアにはフォザリア王国の人々が、マリアにはパテル派の教祖としての立場があった。
もう昔みたいにずっと一緒にはいられない。
(でも、もう大丈夫)
二人の姉妹には決して消えることのない確かな絆があった。
(どれだけ離れていても私達はその絆で繋がっている)
・・・クレアは思いだす。
神父の願いを。
『心のあるがままに生きて』
・・・クレアには夢があった。
誰もが笑顔で暮らせる世界を作るという夢が。
「クレアちゃん、実は・・・」
「クレアさん・・・」
「クレアー・・・」
街の人達がクレアの名前を呼ぶ。
「ふふ、大丈夫です。全部、私が解決してみせます!」
クレアは今日も街を奔走する。
大好きなみんなの笑顔を守るために。




