第107話 二人の姉妹
パンッ。
「あれは事故だ。クレアのせいじゃない」
ベルがアナスタシアの頬を軽く叩いた。
鱗の生えた大きな手で彼女を怪我させてしまわないように注意して。
「・・・相変わらず器用ですね」
「減らず口を叩くな」
「・・・」
少しの沈黙。
「ごめんなさい、クレアさん。先程のことは忘れてください」
アナスタシアが謝った。
「いえ、悪いの私・・・」
「クレアちゃん?」
「・・・!?」
家の扉が開いていた。
そこには・・・マリアがいた。
「どうして、マリアがここに!?」
クレアが逃げようとする。
(でも、どこに?)
狭い家の中、ひとつしかない入口にはマリアがいた。
逃げ場はなかった。
「いや、来ないで・・・」
クレアがマリアを拒絶する。
「クレアちゃん!」
マリアがクレアに向かって駆け出す。
しかし、目の見えないマリアは足がもつれて・・・
「危ない!」
クレアが転びそうになったマリアを受け止めた。
その隙をマリアは見逃さなかった。
マリアがクレアを抱きしめる。
「もう、絶対に離しません!」
「マ、マリア・・・」
予想外の反応にクレアが驚く。
「ど、どうして?神父様を殺した私を恨んでるんじゃ・・・」
クレアが困惑する。
「そんなことあるわけないじゃないですか!」
マリアが怒る。
「ごめんなさい。クレアちゃんが苦しいときに一緒にいてあげられなくて」
マリアが謝った。
「ち、ちが・・・謝るのは私の方で・・・ごめんなさい」
クレアが謝る。
二人はしばしの間、無言で抱き合っていた。
「・・・じゃあ、これで仲直りです。いいですね」
「・・・うん」
マリアの言葉にクレアがうなずく。
「ふふ、良かった」
マリアが安心したように微笑む。
「ごめんね。勝手にいなくなって、私・・・マリアに嫌われるのが怖くて」
クレアが心の内を明かした。
「嫌うわけないじゃないですか・・・私はクレアちゃんのお姉さんですから」
マリアが言う。
「違うわ。姉は私よ」
クレアが訂正する。
「そうでしたね。ごめんなさい」
マリアが肯定した。
「・・・本当に大きくなりましたね」
さっき抱きしめた感触を思い出しながらマリアが言った。
それは・・・あの頃の幼い少女のものではなかった。
大人の女性の体だった。
「うん、大きくなったよ。マリアと同じくらい」
クレアが自身の体をマリアと重ねる。
服越しでも確かにその成長を感じ取れた。
(本当に長い時間が経ちました・・・)
マリアは思いだす。
幼いクレアと過ごした楽しかった時間を。
永遠に続いて欲しかった日々。
けれど、その日々は続かず・・・悲しみが残った。
「でも、また会えました」
今は・・・それだけで十分だった。
神父の死をきっかけにすれ違い、離れ離れになった二人の姉妹。
それがついに・・・再会を果たした。




