五度目の転生
※あくまでフィクションです。自傷行為や自殺などを促す意図はありません。
「また来週来てくださいね〜!高山おじいちゃ〜ん!」
「はぁ〜い。」
もう70歳か。人生あっという間だった。快活クラブ帰りにそんなことを考えながら歩いていた。まだ心の中は若いままなのに、体はもう年季が来てしまっている。なんて虚しいことだ。
それでも、過去の話は絶対に振り返らないと決めている。100年程度しかない人生で過去を振り返るなんて時間が勿体ない。そんなの死んでから天国か地獄で考えればいい。
そんなことを考えていたせいかもしれない。横断歩道の信号が赤なのにも気付かず、そのまま歩いてしまっていた。真横でトラックの走る音が聞こえた。
もうここまでの展開は言わなくても分かるだろう。転生だ。最近十分流行ってるし、この200文字程度で収めておこう。
だが、わし……いや、俺が言いたいのはここからだ!何故俺の転生先が貧弱な空兎なんだ!?この世界に存在する空兎という生物は、せいぜい雲の上を走っているところを鳥に食べられて死ぬか、滑って雲の上から落ちて死ぬ運命。なぜそんなものに!?
よし、もういいや。俺は自暴自棄になった。
「リセマラしよう。」
痛みには慣れてる。それに、この雲の上から落ちるだけだ。飛び降りるというのは痛みが一瞬だけらしい。
「次は魔王とかに!」
目を開くと目の前から炎のような何かが飛んできた。
「え?」
思わず叫びながら、飛び跳ねるようにしてその炎の球を避けた。何が起きたんだ?手を見ると輝く綺麗な剣。そして目の前には……
「魔王!?」
見るからに悪役、というか魔王だった。つまりそうだな、俺は転生して勇者になったわけだ。覚悟が決まった。この魔王を倒して俺は世界の英雄になる!
「どこからでもかかってこい!!魔ぉ……」
叫んでいる途中に炎の波動を打たれて俺は即死した。
「三回目ェェ!!!」
何回転生すればいいんだ!!さっきの世界は悪くなかった。だが、良いものになれるとは限らない。気持ちを切り替えて辺りを見渡した。すると、悪くはない土地だった。食料は大量にある。それに、超巨大だ。
土地も広いし、なんでも出来る……
「ヒヨコォォォォ!!!」
あまりにも微妙である。ひよこ。人間に愛でられて、結局は飼育の質が悪くて死んでいくのが関の山だろう。
数日生きようとはしたものの、森に住む獣に食われてしまった。
「何回やるねん。」
もはや呆れてきた。これで四回目だ。別に何回死んだところで、痛いものは痛い。ここまで来ると人格崩壊してもおかしくはない。
だが俺は前を向く……向けたら良かったね。転生先はまさかのひまわりだった。え?動物ですら無くなったよ?
前ではなく永遠と太陽を向いているだけ。自死することも叶わない。これが生き地獄か……そう思っていた時、近くからヨダレと鼻水を垂らした子供が来て、引っこ抜かれた。
「みてみて!!これひまわりぃぃ!」
(ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛)
頭の中でそう叫びながら、また転生する羽目になった……
もうええでしょう!何回転生させるんだ。これで五回目だ。次は口がある。鼻もある、耳もある。目もある。四肢もあれば八頭身程のスタイリッシュな体型もある。それに、確実に人間だ。
しかも、周りを見渡しても、恐らくここは高校。ようやく普通の生活に戻ってきたのか……
すると安心で一気に緊張が解け、尿意が体を駆け巡った。急いで走って便所へ向かった。
「ふぅ……」
トイレを終え、手を洗った。この学校のトイレには鏡がついているのか。
そう思って鏡を見ると、そこにはなんと!ブサイクがいたのだ!!!突然の顔面ディスと思うかもしれないが、俺は昔からイケメンと自他ともに認める美青年だった。なのにこんな姿ぁぁぁ……!!!
思わずその場で気絶して倒れた。倒れた時に後頭部から流れ出た血だけが記憶に残った………
また転生か……そう思って目を開けたが、周りには高校生の野次馬ができていた。え?なんでだ?先程俺は頭を打って死んだはず……それに、あまりに言いたくはないが望んでいたといえば望んでいた。
野次馬をかき分けて調理室まで行った。最早俺は気が狂っていた。元の人生のような最高の人生を……包丁を心臓に突き立てた。今度こそ……だが、死ぬどころか、もう気絶することすらなかった。
そう、人生を舐めて、転生のリセマラなどをして結果、俺は『不死身のブサイク』になったのだ!!終わった……人生は終わらないのに……
『五度目の転生』 完
冷静に考えると主人公、性格に問題がありすぎる。