第三話
秋華「あ、はい。あ、すみません」と手を引いてもらい、その人の顔を見ると
なんと快斗だった。
秋華「え!?桜庭さん!?どうして!?」
びっくりし過ぎて大きい声が出てしまった。
快斗「シー!!!歩いてる人たちにバレちゃまずいから!!!静かに!!」
秋華「あ、そうですね、ごめんなさい。けど、どうしたんですか!?」
快斗「いや、診察終わる時になんか先生の様子がおかしいなって思って、タクシーで帰るふりして先生の後をこそこそとついてきたんです。そしたら先生が転んだのが見えて」
秋華「え!?そうだったんですか!?てか桜庭さんもびしょびしょじゃないですか!!」
快斗「僕は大丈夫です!体、結構丈夫なので!先生は怪我ありませんでしたか?」
そう言いながらエコバッグから飛んでいったものを一個ずつ拾ってくれる快斗。
秋華「あ、すみません。ありがとうございます。怪我は幸いないみたいです。医者が怪我なんてしたら元も子もないですからね」
快斗「お医者さんも一人の人間なんですから、そんなことないですよ」
『なんて良い人なんだ・・・やっぱりこのままだと絶対に好きになってしまう///
あ〜!でもダメだ!この人は人気アイドルで、しかも彼女の「あんな」だっているんだし!!』
秋華はその数秒の間で心の中でたくさん葛藤した。
秋華「そうやって言ってくれるの桜庭さんだけです」
快斗「そうなんですか?なんか嬉しいなぁ」
秋華「あ、雨もひどくなってきたし、早いとこ帰りましょうか。タクシー拾いますね」
タクシーを拾うために車道のほうに行こうとすると、快斗が手を掴んできた。
快斗「また僕を避けるようなことするんですか?」
秋華「え?」
快斗「だって、さっきだって話聞いてもらってるのに急に強制的に終わったし。今だって。先生のこと助けたのに。もっと僕に優しくしてくださいよ」
秋華「いや、そんなつもりじゃ・・・」
そんなこと言ってしまったけど、快斗の言う通りだった。
もう自分のためにもこれ以上関わりたくなかったのだ。
快斗は少し怒ったように見えた。
快斗「最初からタクシーで帰ればよかったのに。そしたら雨にも濡れないし、僕も心配しなくて済んだんだから」
ボソボソと言いながら快斗は車道のところに出てタクシーを拾ってくれた。
快斗「先生、お先にどうぞ」
秋華「え!?」
快斗「もう!早くして!周りに僕のこと気づかれちゃうから!!」
秋華「あ!ごめんなさい」
そう言いながら秋華は快斗が止めてくれたタクシーに乗り込んだ。
秋華「桜庭さん!また何かあれば遠慮なく診察に来てください!!」
タクシーの後部座席の窓を全開に開けて快斗に声をかけた。
快斗は二回頷いた。
タクシーが発進して小さくなっていく快斗をリアガラスから見ていた。
快斗もずっと秋華が乗っているタクシーを見つめているように見えた。
『雨に濡れて大丈夫なのかな・・・大事な映画撮影中なのに風邪引いたら大変なのに・・・』
家に帰り、冷えた体を湯船で温めた。
夜食買ったけど、雨で濡れちゃったし、なんだかもう飲む気分じゃなくなっていた。
秋華の頭の中は快斗でいっぱいだった。