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第一話

 私は神谷秋華(かみやしゅうか)30歳。

 精神科医としてしずくの森クリニックに勤めて3年になる。

 しずくの森クリニックは都内から少し離れた閑静な場所にある。

 院長の柳井健一(やないけんいち)は私の母の知り合いで勤務先を迷っていた時に院長からうちに来ないかと誘われた。


 うちのクリニックは一般の患者さんだけでなく芸能関係の人も診察することがよくある。

 芸能人の診察をする場合は配慮して病院を午後休診にして一般の患者さんがいない状態で芸能人を診察する。

 今日も芸能人の診察が1件入っている。

 私は医学部に入ってからは本当に勉強が大変でテレビを見ることやSNSをチェックする余裕もなかったから芸能人にはかなり疎い。

 大御所が診察に訪れることもあるが、そうゆう人は院長の柳井健一が診察する。

 今日の診察する芸能人も事前に入手したプロフィールを見たけど、

 本人の名前を見てもぱっとわからなかった。

 ただ、所属しているアイドルグループの名前は聞いたことある。けど、どんな人がいるのかとかは全く知らない。


 午前中の一般の外来患者の診察が終わり、院長と会議を込めた昼食をする。


 健一「午前中はおつかれさま、午後は芸能人が一件入っているね。結構有名人だけど名前聞いたことある?」

 秋華「いえ、プロフィールを確認したけど全然知らなかったです。グループ名は聞いたことありますけど」

 健一「え〜!そうなのか、めちゃくちゃ有名だよ?元気いっぱいなイメージだけど、芸能人だって人間だからな、心が病むことなんて普通にありえるよな、芸能界も楽しいことばかりじゃないんだしなぁ」

 秋華「ですね、プロフィール見た感じ、不眠が続いているみたいなので話を聞いて眠剤を処方します」

 健一「うん、よろしくね。僕は午後から大御所の在宅診察があるから、そっちに行ってそのまま

 直帰するから、神谷先生も午後の診察が終わったら退勤していいからね」

 秋華「はい、ありがとうございます」


 昼食が終わり、午後の診察が始まるまで私は医師室でコーヒーを飲む。

 すると親友の中塚美咲(なかつかみさき)から電話がかかってきた


 秋華「もしもし?」

 美咲「あ!おつかれー!今昼休みでしょ?今日夜暇なら一緒飲まない?」

 秋華「あ、いいよ!今日は午後の診察が終わったらすぐに帰れるから時間合わせれるよ」

 美咲「本当?私も今日は早く終わるだろうから19時にいつものお店に待ち合わせね。あ、大翔も誘ってみる?最近3人で集まれてないからさ」

 秋華「あ、確かに〜、最近それぞれ忙しくて美咲と会うのですら久々だもんなぁ。私から大翔に連絡してみるよ」

 美咲「あ、じゃぁお願いね!私今から診察だから!じゃぁね〜」

 秋華「うん!じゃぁね」


 相葉大翔(あいばひろと)は私と美咲と同じ医学部出身で美咲の幼馴染でもある。医学部卒業してからは大翔は小児科医として働いている。


 大翔「もしもし?秋華、久々じゃん!元気にしてた?」

 秋華「お疲れー!本当久々だよね、あ、今電話して大丈夫だった?」

 大翔「おう、今ちょうど昼休憩に入ったところ!どうした?」

 秋華「あのね、さっき美咲から電話があって、今日久々に3人で集まろうよって話になったんだけど、大翔どんな感じ?インフルエンザ増えてる時期だから忙しいかな?」

 大翔「まじか!久々集まりたいなぁ!うちは今日も午後診察あるし、インフルエンザのせいで忙しいかもしれないけど絶対間に合わせるから!20時には行きたい!先始めてて!」

 秋華「オッケー!じゃぁ先に始めとくね。仕事終わり次第いつものお店でね」

 大翔「おう!じゃぁな!」


 大翔との電話が終わるとちょうど昼休憩が終わり診察室に入って診察の準備をした。

 看護師を呼び、芸能人の患者を診察室に入れるように言った。

 診察室に入ってきたのは人気男性アイドルグループ『Sereineセレイン』の桜庭快斗(さくらばかいと)

 マネジャーの高山だった。

 快斗はいかにも高そうなスウェットを着て黒いキャップを深く被っていた。


 秋華「こんにちは。桜庭快斗さんですね。」

 快斗「はい」


 そう言って私の方を見た。

 院長が教えてくれた元気いっぱいだという快斗のイメージとは全く違って声も表情はとても暗くてその顔には目の下のクマがはっきりとあった。

 一瞬でずっと眠れてないんだろうとわかった。


 秋華「では、最近不調に感じる症状を教えてください」

 快斗「最近1週間近く眠れてません」

 秋華「それは仕事が忙しくてですか?」

 快斗「それもありますが、過去のトラウマが夜寝る時に蘇ってきてしまって眠れなくなります」

 秋華「そのトラウマについて教えてもらえますか」

 快斗「いや、大丈夫です。とりあえず睡眠薬だけください」

 秋華「不眠になっている理由があるならそこをちゃんと解決すれば薬に頼らずに眠ることができるんじゃないですか?」

 快斗「そうかもしれないですけど、あなたにそれを話したところで解決するわけじゃないし、それに昔からあまり寝れない体質だったから。いいんです、今更解決したいとも思わないし、薬で眠れるならそれで大丈夫です」


 不眠の原因となっているであろうトラウマについては絶対的に話そうとしない快斗。

 その態度に少しムッとしてしまう秋華。


 秋華「そうなんですね、わかりました。もう深く聞きません。今のあなたの状態からしてそのトラウマを克服することがとても大事な気がしますけど、本人にその意志がないのであれば今日はとりあえず一週間分の眠剤を処方して診察終わりますね」

 快斗「はい、では」


 そう言って快斗とマネジャーの高山は診察室から出ていった。

 精神科医として患者の気持ちに寄り添えていない気がしてすっきりしない秋華だが、あんな態度とられるならもう知らない。と思っていた。

 一週間分の眠剤を処方し、院内薬局で薬をもらってさっさと快斗と高山は帰っていった。


 外来看護師の葛西(かさい)まどかが慌てて診察室に入ってきた。


 葛西「神谷先生!私、快斗の大ファンなんです!!ファンクラブにも入ってて!こんな近くで会えるなんてヤバいです!帽子を深く被っていたから顔はあまり見れなかったけどもうやっぱりオーラが違いますね!もうオーラですらイケメンです!!私、ここに勤めてて本当によかったぁ」


 とかなり興奮した状態で話しかけてきた。

 秋華「そうなの!?なんかめちゃくちゃ態度悪かったけど、まどかちゃんあんなのがタイプなの?まぁ、表情は暗かったけど、顔はイケメンって感じだったけど」

 葛西「快斗はグループの中で一番の元気印でいつも笑顔でファンのことを大事にしてて、歌もダンスも抜群に上手くて!最近映画の主演も決まったってSNSに書いてました!もう今めちゃくちゃ売れっ子です!テレビで見ない日なんてないし!態度悪いなんてありえません!神谷先生なんか変なこと言っちゃったんじゃないですか〜?」

 秋華「いやいや、私は普通に診察しただけよ。まあいいや、念の為に言っとくけど、桜庭快斗さんが診察に来たことは絶対に口外しちゃダメだからね」

 葛西「わかってますって!快斗が困るようなことはファンとして絶対にしませんから!」

 秋華「ならいいけど。院長が桜庭快斗の診察が終わったら退勤していいって言ってたから、まどかちゃんも片付けして今日は早く帰りなね。お疲れ様」

 葛西「はーい、お疲れ様でした」


 秋華は医師室に戻って、快斗の診察についてカルテを作成し、片付けを済ませて退勤した。

 美咲と大翔との飲み会まで少し時間があるので買い物をすることにした。

 なんとなく立ち寄った本屋の芸能雑誌には快斗が所属するアイドルグループ「セレイン」が表紙となっているのばかりだった。


 秋華「うわー、まじで売れっ子じゃん」


 そう言いながら快斗が表紙になっている雑誌をペラペラとめくる。


 秋華「けど、やっぱり顔はイケメンだなぁ。めっちゃいい笑顔するじゃん。こりゃファンが多い

 のがわかるわぁ」


 そうこうしていると美咲と待ち合わせしている時間になったので待ち合わせの場所へ行った。

 よく行く店は気兼ねなく長居できる居酒屋で「天の鳥」という店名だ。

 医学部を卒業してから美咲と飲むときはほとんどここの居酒屋に来ている。

 マスターも私たちのことを覚えて気に入ってくれているのでよくサービスしてくれる。


 秋華「こんばんはー、3人なんですけどいいですか?」

 マスター「お!神谷先生!久々だね!どうぞどうぞ!好きなところに座って!」

 秋華「ありがとうございます、あとで美咲と大翔も来ますんで」

 マスター「そうかそうか、3人で来てくれるなんてかなり久々で嬉しいなぁ。先に何か頼むか

 い?」

 秋華「あ、じゃぁとりあえず串盛りをお願いします」

 マスター「あいよ!」

 美咲「こんばんはー!」

 マスター「いらっしゃい!中塚先生!久々来てくれて嬉しいよ!」

 美咲「本当久々ですもんねー!」

 大翔「こんばんはー!」

 マスター「相葉先生―!元気そうだねー!」

 大翔「マスター!久々ですね!お邪魔しまーす」

 美咲「あ!大翔ちょうどよかった!早く終わったんだね」

 秋華「本当!仕事大丈夫だったの?」

 大翔「うん!3人集まるのってかなり久々だからめっちゃ急いで残務処理してきた!」

 美咲「さすがだねー!あ、何頼む?」

 秋華「先に串盛りは頼んどいたよ、じゃぁ飲み物は生で!」

 美咲「私も!」

 大翔「俺も!」


 久々に3人集まることができて、医学部時代から今日までの思い出話や近況を話し合った。

 気づくと閉店時間だった。


 大翔「うわ!やべ!もうこんな時間じゃん!そろそろ帰るかー」

 美咲「あっという間だねー、明日が休みなら二次会行けたのにね」

 秋華「そだねー、明日も朝から外来診察びっしりだわ、早く帰って寝よう寝よう」


 お会計を済ませて3人は別々に帰って行った。


 帰りのタクシーの中で秋華の携帯が鳴った。院長の健一からだった。


 健一「あ、神谷先生、こんな時間に本当すまない。今電話できる?」

 秋華「大丈夫ですよ、どうなさいました?」

 健一「今日、午後に診察があった桜庭快斗さんなんだけど、急なんだけど明日も診てほしいらしくてさ。マネジャーから電話があったんだよ」

 秋華「え、そうなんですか?でも明日は外来診察でびっしり埋まってますけど」

 健一「そうだよなあ。日にちをずらしてくれないか頼んだんだけど、どうしても明日じゃなきゃ向こうの都合が合わないみたいでさ」

 秋華「そうなんですか、どうしましょう」

 健一「すまないけど、明日、時間外で診てもらうことできないかな?何か予定ある?」

 秋華「いえ、予定はないですけど」

 健一「よかったぁ。どうしても神谷先生がいいって言っててさ、20時から診察お願いね」

 秋華「あ、はい、わかりました。では失礼します」

 健一「すまないね、よろしくね、じゃ」


 今日診察したばかりだし、もう話すことはない!って感じだったのになんでだろう。


 と不思議に思いながら家に帰りつき、寝る準備を済ませて就寝した。


 大翔と美咲と楽しすぎて飲みすぎたせいか、朝起きると少し頭が痛かった。

 二日酔いに効くドリンクを飲み、出勤準備をして家を出た。


 勤務先に着くとすぐに白衣に着替えて今日診察する外来患者のカルテを再度見直して

 9時に診察スタートした。

 一週間の中で一番忙しい金曜日なので目まぐるしく1日が過ぎて行った。

 気づくと昼休憩もあまりできず、昼食も水分もあまり取れなかった。


 17時、外来患者の診察が終わった。


 秋華「うわー!やっと終わったー!長かったー!多かったー!疲れたー!」

 診察室の椅子に座った状態で背伸びをしながら少し大きめの声が出た。


 健一「お疲れ様、今日はなかなかの忙しさだったね、疲れてるのに桜庭さんの診察入れてしまっ

 て本当申し訳ないね」

 秋華「あ!そうでしたね、20時から桜庭さんの診察でしたね」

 健一「本当ごめんね、芸能人は時間合わせるの結構大変だからさ。夜ごはんは何か調達しようか?」

 秋華「いえいえ、大丈夫です、自分で簡単に食べるので、院長先生もお疲れ様でした」

 健一「そっか、うん、ありがとうね。何かあったら連絡してね」

 秋華「はい」


 快斗の診察があるのをすっかり忘れていた。

 昼食もあまり取れなかったので帰りに好きなカレー屋さんでマッサマンカレーでも食べようと思っていたのに・・・

 まぁ仕方ない。仕事だし。近くのコンビニで調達してくることにした。


 コンビニでおにぎり二つとデザートのプリンとエナジードリンクを買った。

 クリニックに戻り、快斗の診察時間になるまで医師室でおにぎりとプリンを食べながら残務処理をした。


 20時前になると、クリニックの駐車場に黒い大きい車が停まった。

 桜庭快斗とマネジャーが降りてきたのが医師室の窓から見えた。


 秋華は待合室まで行った。

 今日も高そうな上下スウェットを着た快斗は昨日よりは顔色も良いように見えた。


 秋華「こんばんは、早速診察室にお入りください」

 高山「すみません、時間外に。お願いします、今日は僕は待合室で待ってますので」

 秋華「あ、そうですか、わかりました、では桜庭さんどうぞ」


 秋華は快斗を診察室に案内した。


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