聖女として召喚されましたが、王子の第一声が「貴様の力など必要無い」でした。なら、何故呼んだ。
気が付いたら私は中世のお城っぽい所に居た。そして、私の目の前には王子っぽい人が居た。
「良くぞ来た、聖女よ!」
成る程、こりは聖女召喚ってやーつですな。だとすると、次にこのクソ王子(誘拐犯)は私に魔王を倒せだとか、帰る手段は無いとかほざく訳だ。さあ言うぞ、ほら言うぞ。私は王子の口が動くのをじっと待った。だが、王子の初セリフは私の予想とは少し違った。
「聖女よ、残念だったなあ!俺はお前の様な得体の知れん奴の力なぞ借りん。このまま何もせず、俺達が魔族を倒す瞬間を見ているが良い!」
「…はい?」
「我が父と兄は、魔王を阻止する為にお前を召喚しようとしていた。だが、異世界の人間なぞ信用出来るか!この王国は俺達自身の手で守る!俺達聖女否定派は立ち上がり、そして父と兄を倒して革命を成功させた!後はお前を納得させるだけだ!さあ、来るぞここに魔族が」
王子の言葉通り、城門の方が騒がしくなり大量の魔族が押し寄せて来た。
「さあ聖女よ、とくと見よ!革命により数は数百人まで減ったが、ここに居るのは全てが鍛え抜かれた精鋭よ!聖女を信仰していた国民は貴族だろうと子供だろうと斬り捨ててきた覚悟を持った同志達だ!例え、魔族が相手でも負けるはずが…グぱ!」
ミノタウロスの戦斧を受けて、王子は紙屑の様にふっ飛ばされた。周りに居た精鋭達も魔族に全く歯が立たず、次々と殺されていく。
「で、殿下!魔族って我々が思っていたよりも強いです!聖女様へ助けを!」
「うるせえ!」
私に助けを求めようとしていた騎士の首を王子が跳ねる。
「俺達は革命の為に聖女信者全員殺してるんだぞ!この王国の腐敗を憂いていた帝国の誘いに乗って革命したのに、『君達ただの犯罪者だから、新王国なんて認めない』と言われて支援も受けられなくなった!今やここに居るのが全国民だ!ここまでやっておいて、やっぱり聖女に救って貰おうなんてダセえ真似出来るか!」
「し、しかし生き残ってこそ…」
「黙れっ!この腰抜けが!」
貴重な王国民の命がまた王子によって散らされた。更には逃げようとする者や王子を止めようとする者まで手に掛けて行く。
「ンモー」
ミノタウロスと彼の率いる魔族達が私の横に座り休憩を始めた。どうやら、このまま王子達に仲間割れさせていた方が楽だと思った様だ。
「ンモー」
「あ、ども。助かります」
ミノタウロスさんは近くから椅子を持ってきて、私に座るように促す。丁度、立ちっぱなしで足が疲れていた所だ。指揮官なだけあって気が利くミノタウロスさんだ。
「ンモー」
「えっ、いいんですか貰って?オス、頂きます!」
ミノタウロス先輩から携帯食とお茶を分けて貰い、一緒に食べていると、王子達の喧嘩も終わりが見えてきた。
「ハアっ、ハアっ、ハアっ、この軟弱者めが!」
立っていたのは王子一人だけ。彼は王国最後の生き残りとなってしまった。そして、部下の反撃で傷だらけになった彼も長くは生きられないだろう。
「父も…兄も…愛する国民も…皆死んだ。聖女、貴様のせいでっ!」
「え、私?」
王子は猿の様に歯を剥き出しにして私が悪いと睨みつける。腹は立たなかった。愚かだとも思わなかった。死の間際だ、理路整然と話せるはずが無い。
「聖女っ、お前の存在があったから国が割れた!王国が一丸となり帝国や魔族と戦える未来もあったはずなのにっ、お前のせいで、お前のせいでぇ!」
「はいはい、私が悪いです。あ、そだ!帰る方法!」
私は大事な事を思い出す。帰還方法が分からんから、こいつが死ぬ前に聞かないといけない。
「おい誘拐犯、私が元の世界に帰る方法…」
「言われずとも帰らせてやる!そして二度と来るなっ!」
王子の手がぺかーと光り、私の身体が足元から消え始める。良かった。帰る手段用意したんだ。
「聖女よ、これはただの帰還魔術ではないっ!俺の残りの魔力でこの世界と貴様の因果を断ち切った!貴様は二度と王国に召喚されないし、他の聖女がこの地に現れる事もなぁい!」
王子は勝ち誇っていた。最早彼は自分や王国の事はどうでも良くて、聖女を否定すれば勝ちみたいな気分になっていた。そう思わないと正気を保てないのだろう。だが、私の身体が消えていくにつれて王子の顔は青ざめていき、涙を流して私に縋り付いた。
「せ…聖女様だずげでぇ!やっぱ…死にだくない!」
「今更そんな事言われても、私もう首から下消えてるから無理だよ」
「何でぇ!何でこんなごどにぃ!」
「ンモー」
「ひいっ!」
しょうがねーなーといった感じで、ミノタウロス先輩が王子に迫る。王子は土下座の様な動きで這いずり回り、王様らしき死体を瓦礫の中から引きずり出すと、それを先輩の前へ差し出した。
「こいつでふっ!こいつが魔族に喧嘩売って、聖女召喚も計画しましたぁ!ぼ、僕は純然たる被害者なんでしゅ!てふよね、聖女様ぁ!」
いや、私に話振るな。こっちはお前の革命の後に召喚された身だぞ。知らんわ、王家の誰が何を企んでたかなんて。ただ、この短い時間でも得た情報はあるし、それを先輩に伝えよう。
「先輩、騙されちゃいけませんぜ。この誘拐犯は、魔族と戦うつもり満々だったのは確かです」
「ンモー」
私の証言を聞き、先輩は深く頷いた後に王子を腹パンで気絶させた。
「ぎぴゅっ!」
風船から空気が抜ける時の様な悲鳴を上げ、王子は動かなくなる。
「ンモー」
先輩は部下に命じて王子を外へ運び出した後、私に向かって何かを投げて寄越した後、深く頭を下げた。
「先輩、これ何で…」
先輩が私の頭の上に載っけたのが何かを確認しようとしたが、どうやら時間切れの様だ。私の身体は完全に消え去り、先輩と会う事は二度と無かった。
「あ、帰ってこれた。うん、身体にも異常ナッシン」
見慣れた自宅に戻ってこれた私は、まず自分の身体を、次に周囲の様子を確認したが全くもっていつも通り。さっきまで見ていた光景は、風邪を引いた時に見た夢の様なもんだとも思ったが、私の頭の上に載せられたお土産がそれを否定した。
「これは…手紙?それと先輩が着けてた鼻輪だ」
別れ際に先輩がくれた手紙を確認すると、そこには短い文章が書かれていた。
『うちの世界の者がゴメン。鼻輪、銀で出来てるから、売ってお金にして。牛』
・聖女
語り手。ちゃんと聖女としてのチートパワーはあったんだけど、何一つ発揮しないまま現世へ帰還した。そして、二度と異世界に呼ばれず普通に暮らし結婚して、争いとは無縁の平和な一生を終えた。先輩から貰った銀の鼻輪は、フリマアプリを使って3500円で売れたのて、その日の内に一人焼肉で使い切った。
・ミノタウロス先輩
王国制圧と聖女が二度と王国領内に現れない情報を持ち帰った成果で四天王に出世。その後、帝国の騎士団長と何度も死闘を繰り広げ、停戦間際に戦死した。かつて王国だった地域の復興後には彼の像が建てられ、人間からも魔族からも優しき武人として称えられたそうな。
・王子
人と魔族の戦争終了後、裁判にかけられる。裁判の最中はひたすら保身に走り、自分は聖女による支配から王国を守ろうとしたと主張。だが、聖女を信じる女子供を殺し回った事実が明るみになり、それに対し『あんな奴らほっといても魔族に殺されてたんだから別にどうでもいいだろ』と答えると、人からも魔族からも嫌悪と侮蔑の目で見られる事になってしまう。だが、彼が死罪となる事ほ無かった。国民虐殺、親殺し、聖女への暴言、敵前逃亡未遂、彼の罪を裁判て裁き切る前に、命が尽きようとしていた。彼を救う為に、研究中の新医療が次々と施されたが、終戦から二十年後裁判中に新薬の拒絶反応を抑える為の新薬の拒絶反応を抑える為の新薬の拒絶反応で絶命した。彼が最後に残した意味のある言葉は、『他人からダセえとかバカだとか言われたく無かった』だった。この他にも、『自分が幸せになる為に、話の通じない毒家族と縁を切るのは正当な権利』『喧嘩を売る相手を間違えない事が大事。もし間違えたら直ぐに謝れ、無駄に高いプライドは身を滅ぼす』といった言葉を残している。