<第十三章>予想外の感染
お久しぶりです~
書いた章があまりにつまらなかったので、書き直しを続けつつ何とか展開か進むところまで待ったところ、結構溜まってしまいました。
なので一気に三章分ほど投稿しますよ~。
大きく倉庫全体が揺れた。金属の軋む耳障りな音が跳躍する。隅っこに縮こまっていた夏は、そこでようやく自分の身が危険な状態にあるのだと気がづいた。
「え、嘘? 鬼!?」
壁一面に広がるようにして存在している正面の扉。その全体がガチャガチャと激しく揺れた。明らかに人間によるものではない。
――ほら――……やっぱり……
夏は自分の考えが正しいのだと確信した。ちょっと截から離れただけでもう自分の命の灯火は揺らいでいる。やはり危険だろうが何だろうが、彼から遠のくべきではなかった。もしこれがホラーゲームだとすれば、自分はプレイヤー。そして截は高威力の銃だ。その唯一の武器を手放すなんて馬鹿馬鹿しいにもほどがある。ゲームにおいて武器は生き残るための要。それを持たないプレイヤーなどすぐに死んでしまう。
「ザァァァアァァアッ――」
豪雨のような独特な声が轟く。作りこそ頑丈な倉庫だったが所詮はただの物置でしかない。その扉の鍵はごく一般的な南京錠、しかも内側から閉めることは出来ないため、現在は扉のスライドを防ぐために中に置いてあった箒で溝を押さえているだけだ。側面の壁にぶち当たってくる分なら十分に耐えられるが、扉をピンポイントで攻撃されれば実に脆い。鬼の力ならば殆ど時間をかけることなく破壊する事が出来るだろう。
「ど、どうしよう」
夏は困った。ここは密閉された狭い倉庫。出口はひとつのみ。鬼が入ってくれば絶対に自分は殺される。
しかしかといって脱出することも不可能な状況である。打開策など浮かばなかった。
「うぅ……截さん……!」
涙目になって『武器』の名前を呼ぶが、恐怖で声が喉に詰まる。その響きが相手に届く事はありえない。
ボコッと扉の一部が窪んだ。鬼の力に強度が負けたらしい。そろそろこの扉も限界のようだ。
夏は扉のすぐ横に移動した。運がよければ鬼が飛び込んできた隙をついて逃げられるかもしれない。成功する確率はかなり低いが、やれることはやっておくべきだ。正面にうずくまっているだけでは確実に死ぬ。
ボコンッ、ボコンッと、次々に窪みは増え扉の軋みも大きくなった。扉の横に居た夏の目に広がった隙間から相手の姿が映り込む。
筋肉と骨を反転させたような異様な外見。肥大化した体。それは最悪なことに鬼の進化した感染体、髑髏鬼だった。いよいよ自分の命は絶望的になる。
暴発しそうになる悲鳴を両手で必死に押さえ込み、夏は扉の横で息を殺した。怖い、怖いと、そのひとつの単語のみが何度も何度も頭の中を駆け巡る。
――あれが中に入ってくる? 本当に逃げられるの?
どう考えても自分の死という結果しか想像出来なかった。無事にここから脱出するためにはただ扉が破壊された隙をつくだけでは足りない。夏は視線を下に移した。鬼はこの扉がスライド式だと分かっているのか、最初は横にガタガタと動かしていたが、今は諦めたようで体当たりしかしていない。その体当たりが扉へ直撃する直前に自ら箒を外し扉を開け放てば、あの髑髏鬼は勢いのまま倒れこんでくれる可能性がある。
重要なのはタイミングだ。早いと鬼の勢いが止まるし、遅いと意味がない。まさに鬼が体をぶつけるその瞬間に開け放つ必要がある。隙間から髑髏鬼の姿を確かめつつ、夏は静かに立ち上がり、短距離走の選手のような姿勢を作った。ドクン、ドクンと鳴り響く心臓の音を聞きながら、その時に備える。
髑髏鬼が大きく後ろにさがった。そして膝を屈める。
――今だ!
震える手で箒をもぎ取り、素早く扉を自分の方へ引いた。ガラガラという音が響き、勢い良く倉庫と屋内庭園が繋がる。
「ザアアァア!?」
髑髏鬼は全くこちらの行動を予期していなかったらしい。運がいいことに、本当に運がいいことに、まんまと頭から中へ突っ込み、コースからはみ出たレースカーを連想させる動きで奥の壁に激突した。
「ぅあぁあああぁぁぁああっ!」
悲鳴に近い声で走り出す。鬼と扉の間にある本の僅かな空間を抜け、外へと飛び出した。大してダメージは無かったのか、その直後に髑髏鬼が立ち上がり怒りにも似た雄叫びを放つ。
「ザァァァァアアッ!」
それは二体目の鬼を倒した直後だった。截は二つの声を同時に聞き取った。甲高い悲鳴と雄叫び。
すぐに声の主悟り顔を青くする。
「不味い! あのお嬢さんのほうに最後の一体が居るぞ」
緊張感に満ちた表情で唐沢が唸った。ここからあの倉庫までは全力で走れば十数秒で辿り着く。しかし、声の調子から考えるに夏と鬼の距離はかなりの近さだ。彼は咄嗟に彼女の死を受け入れたようだった。
間に合わないことは勿論截も分かっている。だがそれでも何もしないよりはマシだ。もし彼女が生きていたとき、自分がその場に居るといないとでは辿り着く結末は大きく変化する。諦めずにすぐに体の向きを変えた。
人工的に作られた地面を蹴り、摩擦力と行進力によって前へ己の体を強く浮かせる。そして馬車馬のごとく走り出した。
――間に合え!
速く、速く、と何度も脳から信号を飛ばす。夏の死はあってはならない。一度自分が守るときめたのだ。絶対に助けると決めたのだ。彼女が死ぬことは己の力の無さを証明するのと同じ事。『意地』から截はどうしても彼女を死なせるわけにはいかなかった。
きゃぁぁぁぁぁああっ! と、大きな声を周囲に振りまきながら走る夏。その小さな背中に狙いを定め、他のものは何一つ目に入らないというように鬼は圧倒的な速度で倉庫から躍り出た。
数秒間の時間が経過する間もなく二者の間の距離は一メートルを切る。
目前に迫った己の死という事実に対面し、夏は大粒の涙を流した。
髑髏鬼の岩のような拳が背中をなぶり頭から地面に押し込まれる。それだけで、決死の逃避行は終了した。
背にかかる重さから自分が固定されたのだと気がついた。逃げられないようにするために。
乱れた服の隙間から覗く肌から髑髏鬼の熱い体温を感じる。
小刻みに震えたまま、その醜悪極まる相手の顔から全く目が離せない。
殺されるという事実を十二分に理解した状態で、残酷にも鋭く尖った歯が喉元へと近付く。
血や腐敗、唾液、それらがごちゃ混ぜになった匂いが一気に鼻孔の中を満たした。
――誰か――
辛うじて動く左手を健気に伸ばそうとするも、髑髏鬼の体が邪魔で遮られる。
あれほど叫んでいたというのに、今は一切の声が喉から漏れない。強者と弱者。慣れ親しんだその構図が完全に出来上がっていた。
中学でも、高校でも、夏はいつもリーダー格につき多くの仲間とともに、好きなようにいいように振舞ってきた。
教師も知らない学生間のみでの権力。形無き「空気」という名の強制。
自分が振るう力に耐えるしかなかったクラスメイトと同様、今まさに自分自身が拒否することの叶わない運命に直面している。
この化物は力があるからこちらを蹂躙でき、自分は力が無いからこうしていいようにされる。力無き者が力ある者に単独で勝つことなど不可能。身をもって体験している事実だ。はっきりと己の運命を認識させられる。
弱者が強者にかつには、その弱者自身が強者になるか、新たな助けを得るしか方法がない。この現状では当然どちらも叶わない。
心のどこかで、夏は絶対に自分だけは助かると思っていた。
他の誰が死んでも自分は生き残ると。
己を主人公、己を中心に据える生き方が身にしみこんでいるからこその根拠のない確信だった。
だがもうはっきりした。今までいいように扱ってきた人間と自分は同じ。この世に主人公も脇役も存在しない。あるのはただ完膚なきまでの平等、自由のみ。
努力すれば運をよび、しなければそれは来ない。
運がよければ幸運にありつけ、運が悪ければ不幸になるだけ。
今自分はその不幸に遭遇しただけなのだと理解した。
片目にこちらへと駆けている截の姿が映る。救出しようとしてくれているらしいが、あの距離では間に合わない。
これほど死に近付こうとも、別れを言いたい人間の顔も浮かばなかった。
殆ど家におらず、会話したことも数えることしかない父。
自分の意見を押し付けるだけで、こちらの主張など一切理解しようとはしない母。
そして、力に従がっていただけの友人たち。
一体誰に別れを言えというのだろうか。
涙を流したまま、夏はそっと目を閉じた。瞼の裏は、ただただ、真っ黒だった。
「殺させぇるかぁあぁぁあ――!」
截は腹の底から声を張り上げた。
ここで夏を死なせることは、自分の三年間を完全に否定することと同じ。誰も助けられないのなら、一体なんのために黒服に入ったのだ。
物理的な距離では到底間に合わない。ならばと、截は己の持つ二本のナイフを取り出した。
唯一の武器であり、失えば自分の戦闘能力は大幅に半減する。しかし彼女を助けるにはこれを投擲するしかないのだ。大きく振りかぶり、全体重を乗せるようにしてそれを髑髏鬼に向って放った。空中へと投げ出された白柄の刃はぶれることもなく直線上を進み、まさに今夏の喉を切り裂こうとしていた髑髏鬼の首元に突き刺さった。
「ザアアァァアア!?」
飛び散る黒い血。
跳ね起きる生者でも死体でもない赤き存在。
髑髏鬼は黒っぽく濁った眼球を憎憎しげに截へと向け、夏から離れた。
「逃げろ!」
残った最後の黒柄ナイフを右手に沿え放心状態にあった夏に呼びかける。彼女はこちらを見ると、はっとしたように駆け出した。
――髑髏鬼――けど、一体だけなら……!
いくら強力な髑髏鬼といえども所詮は一般感染体。巨狼や赤鬼には及ばないはず。截はこれまで多くの大型感染体との戦闘を経験してきた。それによって培われた自信が、感覚が、相手を倒せると判断した。
ナイフ一本では心許ないが、あるだけマシというものだ。後方から走ってきた唐沢に彼女を避難させるように指示し、自分は戦闘に備えて腰を落とす。
己に降りかかる危機回避を優先したのか、髑髏鬼はこちらを最優先抹殺対象に決めたようだった。相手の攻撃に備え身構えた瞬間、截は突然真横から何者かに掴みかかられた。反射的に意識を囚われ横を向くと、泣きはらした顔の夏が縋るようにしがみ付いている。何故か彼女は唐沢の方へは行かなかったようだ。
「怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖いよ! 截さん助けてぇ!」
「馬鹿っ――今は――!?」
目の前に髑髏鬼が迫っているのだ。この状況で自分に抱きつくなんて、正気の沙汰とは思えない。明らかに彼女の様子はおかしい。
振りほどこうとしたが、よほど強く掴んでいるのか全く離れない。それどころか一層腕の力を強めている。
――くそ、これじゃあ――……!
「ザァアアアァアアー!」
眼前に髑髏鬼の顔が大きく映り込む。
受身を取る暇も無く截と夏はそれぞれ後ろに吹き飛んだ。
「ぐぅうっ!?」
辛うじて受身を取りダメージを和らげる。夏は衝撃で意識を失ったらしく、ぐったりと数メートル横に倒れていた。
截はすぐに起き上がろうとしたが、そこであることに気がついた。自分の持っていた黒柄ナイフが消えている。見ると、丁度自分の位置を中心に夏と反対方向に転がっていた。
流石に素手ではどうしようもない。苦虫を噛み潰したような表情で舌打ちし、截は左方向にある黒柄ナイフを必死に掴み取ろうとした。だがその手が届く前に髑髏鬼の頭が腕に激突する。今度は受身を取る暇もなく、截はさらに後方へと押し出され、その真上に髑髏鬼が覆いかぶさった。
「く――っそ!」
「ザアァアァア……」
唐沢が髑髏鬼の背後に突撃する。先ほどと同じように截が襲われている隙をつこうとしたのだ。だが髑髏鬼は敏感にその気配を読み、振り返りざまに唐沢の胸を足で蹴り上げた。
あの剛力をもろに胸に受けた唐沢は、口から血を吐きながらボロ人形のように吹き飛ばされる。
「唐沢!」
どう見てもあの一撃は重い。截は唐沢の身を案じ、大声を出した。
両手は髑髏鬼の腕を押さえるのに使用され、両足は相手の足によって固定されている。頼みの武器は既に遥か遠くにあり、自分が戦える手段はない。髑髏鬼の首元には白柄ナイフが突き刺さっていたが、腕を伸ばした途端に噛み付かれる恐れがあるため、それを実行するのは自殺行為と同じ。しかし何も出来なければ殺される事は確実だった。
「截……――!」
横に転がった体勢のまま、唐沢は首を動かすことで何とか截の姿をその目に捉えた。彼と髑髏鬼が接触してから約四秒。このままでは感染する。
ここで截を失う事は戦力的にも生存確率的にも極めてマイナスだ。何より、見方を一人減らして敵を一体増やす結果になってしまう。
唐沢は自分の体を確認した。痛みは強い。だが見た目ほどのダメージは受けていない。吐血したのは口の中を歯で切ったからであり、内臓出血を起こしたわけでも、肋骨が折れたわけでもない。今すぐに動くことは出来ないが、数分もあればパニック中の神経も落ち着くことだろう。
左足を伸ばし、截の落とした黒柄ナイフに伸ばした。血のこびり付いた靴先でそれを自身の体のほうへと近づけようとする。
「ぐぅっ!?」
無理な動きで自然に声が漏れた。じんじんとその存在を主張してくる痛みを精神の力によって無視し、やっとの事でナイフを掴み取る。
このナイフを投げても、髑髏鬼と肉迫している截が受け取れるとは思えない。だが、チャンスを作ることくらいは出来るはずだ。その僅かな隙に彼が奇跡を起こすのを期待するしかない。
右肘で体を支え、上半身を傾ける。そして投げるという動作を行う事で発生する強烈な痛みに備え、歯を食いしばった。
流石は髑髏鬼といったところだ。截の腕はグイグイと押さえ込まれていく。
もしかすれば感染するよりも速く喉を食いちぎられることになるかもしれない。純粋な力で対抗する事に意味がないと判断した截は、息を吐きながら両腕の力を抜いた。それによって髑髏鬼の腕がガクンと下方向に加速する。本当ならば喜ばしいことであるはずだったが、髑髏鬼は自分の意図していない截の動作に反応しきれず、反射的に己の腕を体の内側へ引こうとした。
その引く勢いに合わせ、截は全力で腕を突き出す。するとすぐにお互いの手は最初の位置に移動し、押し合いは振り出しに戻った。
安心するのも一瞬。これがただの時間稼ぎにしかならないことは截にも分かっている。相手の筋力を考えれば、一秒もせず先ほどの位置に戻る事は明白だし、何よりこの赤い腕の下から逃れることが出来なければどちらにしろ自分は負ける。
頭上から降り注ぐ死臭に満ちた唾液に嫌悪感を抱きながらも、己の死をリアルに感じ始めた。
感覚があっても、体が動けなければ意味はない。絶対危機回避感は相手の攻撃を察知することに特化しているだけで、察知出来てもそれをかわせる状態になければ何の意味もないのだから。
独力だけでこの危機を脱することは不可能。截は神頼みにも似た気持ちで唐沢のほうを見た。一瞬。僅か一瞬でも鬼の意識が自分から離れれば、あの首元にある白柄ナイフを手に入れることが出来る。武器さえ得れれば、戦うことが出来る。
何かが光った。鋼色の輝き。金属だけが持つ美しき冷たい怜悧な輝き。
それが唐沢の持つ黒柄ナイフから放出されている光だと知った截は、咄嗟に右手を髑髏鬼の手から離し、体の内側へ伸ばそうとした。
つっかえの取れた髑髏鬼は、口を大きく開けて截へと歯を突きたてる。裂かれる筋肉繊維。薄い皮。噴出す血液。
辛うじて首への直撃は回避出来たものの、髑髏鬼の歯はかなり深く截の肉を穿った。
再びその顔が持ち上がる。今度は間違いなく首を切り裂きに来るだろう。
だが、その前に唐沢の放った黒柄ナイフが鬼の腕に食い込む。僅かに切っ先を差し込む程度の損傷しか与えられない攻撃だったが、截にはそれで十分だった。髑髏鬼の頭が後方へと跳ね上がる。
先ほどの動きの延長線上で髑髏鬼の左側に刺さっている白柄ナイフを掴み、一気に下へ引き下げる。渾身の力を込められて切断されたその傷口からは、ドバドバと数多の黒液が漏れた。
「ザアァァアアアー!?」
車のクラクションのような、瞬間的な叫び声。白柄ナイフから逃げるように大きく体を後方へと逸らした髑髏鬼の隙を狙い、截はもう一方の手で床に落ちかけていた黒柄ナイフを掴み取り、差し込んだ。再び流れる漆黒の流体。浮き出た肋骨に遮られたせいであまり深く刺すことは出来なかったが、それでも鬼を引き剥がすには十分な反撃だった。
髑髏鬼が後方へと飛びのくと同時に、截も跳ね起きその後を追う。相手が動揺しているこのチャンスを逃せば、あれほど強力な髑髏鬼を倒せる機会など殆どない。噛まれた肩の痛みなど意に介さないように意識の外に追い出し、血まみれの体で膝を伸ばした。
振りぬく白い柄の刃。しかし届かない。
続けて伸ばされる黒い柄の刃。これは僅かに相手の腹を薄く切るだけで終わる。お互いの脚力のさが大きく影響したようだ。足一歩分の距離が足りない。
四肢を大地につけた格好で、大きく唸る髑髏鬼。
胸から流れる黒い自身の血を顧みてその表情を怒りに染めた。
――傷を負ったのはお互い様だ。ふりだしに戻っただけ、まだ負けたわけじゃない。
荒い息を吐き、出血の治まらない肩をチラリと見た後に、截はそう己を奮い立たせた。弱気になっては負ける。どんなときも死を覚悟した瞬間、本当に死への行進が始まってしまう。自分は死者も同然だが、それはあくまで立場としての話。今この肉体を失うわけにはいかない。キツネを、この異常な世界を終わらせなくてはならないのだから。
まだ勝負はこれから。
これからが本当の戦い。
そう決意を新たにした途端、奇妙な感覚が左腕に走る。
眉に小さな皺を作りその部位を眺めた。嫌な感覚が沸き起こる。
それはよく知っている感覚。
自分が倒し、殺してきた相手から感じる身に染みた敵の気配。
截の左腕、丁度鬼の腕と接触していた部位が、黒く染まり出していた。