凡人と金持ちの溺愛ストーリー
「終わったぁ」
私山本亜耶は大学の課題、第二言語のドイツ語授業のレポートをなんとか終わらせ、教授の部屋に提出しに行った。
コンコン、とドアをノックすると、入るように声がかかったので中に入ると、どうやらお客様が来ているようだった。
「教授、課題を提出しに来ました・・・あれ?」
「おや?亜耶?」
知らないお客様だと思っていたが、近づいてみるととても見知った顔がこちらを向いた。
「え?優一さん?どうしてここに?」
この優一という男は私より九つ上の所謂幼なじみだ。幼少期、父と野球の試合を観に行った際、隣同士だったことをきっかけに父同士が仲良くなり、家族ぐるみでよく付き合いがあった。
当時私は九歳。優一さんは十八歳で、まるで接点はなかったのだが、優一さんのお父様がいつも彼をつれて食事に誘っていた結果、他愛無い会話をするうちに、なんやかんや仲良くなっていた。
時たま優一さんの趣味の地理についての話になると
「ここは県境が沢山かたまっているんです。ハァハァ、素晴らしい、群馬、栃木、茨城、埼玉とぐるぐるとハァハァ」
となり、幼いながらに「こいつ変態だ」と認識していた私は、優一の外見(金髪碧眼、高身長、超美形)にまったく反応していなかった。
しかし、東大に入っていた優一に、高校時代毎週勉強を見てもらっていたので、感謝はしていた。
「こんな問題も解けないとは」
「ほんとバカですねぇ」
なんて言われながらだったので、ほんの少ししか感謝はしてないが。
そういえば、当時彼氏が出来たことを報告した時、やたら嫌味っぽくイジワルを言われまくったことを覚えている。優一の見た目なら、性格を別にすればまあまあモテそうだが、気に障ったらしい。羨ましかろう、高校生の甘酸っぱい青春の1ページなのだ。
一応受験の最後まで勉強は見てもらい、
「まあ亜耶ならこんなもんでしょう。」
と言われた通り、栃木にある国立大に入学が決まった。我が家は6人家族でお金がないので、国立にしか入ることを許されてなかったので助かった。
それ以来、優一とはあまり会う事がなかったのだが、こうして偶然、再会を果たした。
「あれ?東京で働いてるんじゃなかったっけ?」
「今は宇都宮支部に赴任してるんです。ほんの数年ですが」
「へー!」
そんな会話をしていると、また新たに学生が課題を提出しにやってきた。
「え、きゃぁ」
「いけめん・・・っ」
と騒がれている。やはり優一さんは外見だけはモテるらしい。
「亜耶、仕事の用事も済んだので、学内を案内していただけますか?」
「あ、うん、いいよ、大丈夫なの?」
「はい」
そう言って教授に挨拶した後、2人で大学内を軽く見て回った。
「だいたいこんな感じかなぁ」
「亜耶はいつもどこで授業をうけているんですか?」
「私は美術科だから、あっちの棟だよ」
「見てみたいです」
というので、いつも私がいる教室へ案内した。そこにたまたま友人2人が残っていた。
「山ちゃんだれそれ?!」
「幼なじみの優一さんだよ」
「へー!!外人さんみたい!すごいイケメン!」
ゆきとあゆみは私越しに優一さんをじっくり観察しながら言った。
「はじめまして、鈴木優一と申します」
「は、はじめまして、楠木ゆきです!!」
「仲田あゆみです!!」
きゃあきゃあと女子2人に囲まれ、笑顔を振りまく優一さん。なんというか、慣れた感じだ。
「では、今日はこれで失礼しますね、亜耶、行きましょう」
「はいはい。じゃねー」
「あー!またきてください!!!」
私と優一さんは帰路についた。
「亜耶、今日案内してもらったお礼に、食事をご馳走しますよ。」
「え?まじ!やったー!」
一人暮らしをしていた私にとって、奢りというワードはテンションが上がった。
「あ、でもチャリで来てるし、一旦帰ったらね。」
「もちろん家まで送りますよ」
「えー、なんでそんな優しいの。ちょっとキモい」
「お礼だって言ってんだろーが。大人しく奢られなさい。」
「へへ、やったー!和食がいい!美味しい和食!」
「はいはい、わかりましたよ。」
優一の車に乗せられ、レストランに向けて発車した。
「そういやぁ、優一さん、なんか女慣れしてたねぇ」
「そりゃあこの私ですよ?容姿端麗、頭脳明晰、そしてお金持ちときたら、女性がほっとくわけないでしょう。常に女性にチヤホヤされながらの生活ですよ。」
「うわー、ちょっと引く」
「ふん、まあ凡人の亜耶にはわからないでしょうね。」
「・・・もしかして、たくさんの女の人と付き合ったりした?」
「もちろん、あちらから寄ってきますからね、抱きたい時に抱いて、用がない時はスルーしてればいいだけですから」
「・・・セフレってやつ?」
「まあそうとも言いますね。それでもいいと寄ってくるんですから、まあいいんでしょう。」
「うへぇ、最悪この男」
「自分だって彼氏がいるでしょう。」
「もう別れたよー。結婚結婚煩くて」
「・・・そうでしたか。」
そう言って、優一さんは車を走らせた。